第18話


 ♠



「ジークベルト!!」

 ボクは叫んだ。


 刹那せつな


 凄まじい雄叫びを上げた琥珀こはくさまが、ジークベルトに斬り掛かった。

「空気読めバカー」

 高圧水流のビームがジークベルトに直撃する。

「せっかく良いとこだったのに」

 りんの金棒が唸る、唸る。

 火花が、火花がチカチカと瞬いてる。

「だいっ嫌いです」

 ピンクちゃんのカノン胞が、猛然と火を噴いて、ジークベルトが壁際まで吹き飛んだ。

「ローレンス・暁人あきとを狙うなんて~」

 アンジェリカが手当たり次第にモノを投げつける。

 さすがトップドリフトボーラー。

 全部命中してる。


 あ~、あ~、あ~、あ~


 死んじゃうよ。

 死んじゃうよジークベルト。

 死んでしまうって。

「もう、もうその辺で良いから」

 ボクは、琥珀さまを羽交い締めにした。

「止めないで暁人あきとどの。こやつが、こやつが邪魔をするから」

 ゲシゲシとジークベルトを足蹴にしながら、琥珀さまが喚き散らした。



 あ~、いや、ボクは助かってます。



 あーぁ、ボロ雑巾みたいになってるよ。

 なんか知らないけど、鎧じゃなくてパワードスーツみたいなのを着たジークベルトが。

 高そうな透明のヘルメットにも亀裂が入ってるよ。

 ここまでくると、なんだか気の毒。


「こやつが悪いのじゃ。こやつが、わらわたちの大切な瞬間を台無しにしおったから」


 顔を上気させた琥珀さまが、涙目でまくしたて、ボクの胸に顔を埋めた。

「弱っ。こんなんでアキトに勝てるわけ無いし」

 いや、君たちの勢いが凄かったの。

 なんかもう生きてる人間を見つけた、ゾンビのように殺到してたよ。

 ジークベルトも呆気にとられて、身動き取れなかったし。

 ボクでも勝てないと思う。

「でも、やるじゃん獅道しどう

 河童小娘かっぱこむすめが琥珀さまに向けて拳を突き出した。

「そなたもな河童」

 こつんと拳を打ち合わせた。


 おお!!


 共通の敵を倒して、二人の間に友情が芽生えたか!?

「河童ってあによ。アタイの名前はねえ」

「知っておる」

「ならちゃんと、名前で呼ぶし」

「嫌じゃ、発音しにくい」


 むうぅぅぅっ


 ああ、また険悪な雰囲気に。

「わらわのことは、琥珀と呼んで欲しいのじゃ」

 お、歩み寄った。

 う~ん、良いねえ。

 美しい女の友情が生まれたよ。


「暁人さま、これどうする?」


 ジークベルトの襟首を掴んでぶら下げた稟が訊いた。

「ゼニガタ捜査官に引き渡さないとね」

 って、いうか。

 コイツ、何でこんな変な格好してんの?

 前も厳めしい鎧を身に着けてたけど、今回は桁違いに厳ついパワードスーツを着てる。

 頭も普通に肩の上にに固定されてるし、なんなんだこれ?

「マナ姉さんこれ」

 ピンクちゃんが驚いたような声を上げた。

 マナさんも同様に驚いている。

「有り得ないわ」

 上樹先輩もだ。

 何があったの?

「急いでゼニガタ捜査官を呼ばないと」

 マナさんが駆け出した瞬間。

 稟の手を撥ね退けたジークベルトが、高笑いをしながらボクを見た。



「卑怯者め桐生・ローレンス・暁人。身供にアンジェリカをけしかけるとわ。許さぬ、殺してくれる」



 そういって右手を突き出した。


 瞬間。


 熱線がボクを襲った。

「どわっ」

 ボクが座ってたデッキチェアーが、一瞬にして蒸発した。

「ブラスターだと!?」

 創先輩が呟いた。

 ブラスターってなに?



「下がって。シールド」



 矢継ぎ早に、上樹先輩が指示を出す。

 嘉藤と師村が、渡されたフォースフィールドシールドを展開した。

 お前ら、よく使いこなせるな。

「幾ら貴様が強かろうと、亜光速で飛来する荷電粒子は避けられまい」


 やめろ!!


 リフォームしたばかりなんだ!!

「おわっ」

 柱時計が消えた。

 なんてことするんだ。

 高いんだぞ、あれ!!

「う~わっ」

 オーディオが。

 真空管のオーディオが。

 お気に入りなのに、これで二台目だよ。

 とほほほほ~


「アキト逃げて」


 逃げてる、逃げてるよ。

 って、逃げてるだけじゃ埒が開かない。

 ハンマー、ハンマー、ハンマーどこよ、ハンマー。


 あった!!


 反撃!!


「借りるわよ」

「えっ?」

「桐生様避けて」

「へっ!?」


 ズドォォォォンッッッ


 ボクの頭を掠めながら飛来した50口径が、ジークベルトの胸に直撃するやいなや。

 上樹先輩が、一気にジークベルトとの間合いを詰めた。



 シャキィィィィィンッッッ



 鋭い鞘音を立てて放たれた刃は、炎よりも熱く、太陽よりも眩しく耀いていた。

「なっ、なにぃぃぃぃ」


 チン


 と、鍔音涼しく鞘に納めると。

「バカなぁぁぁぁぁ」

 ジークベルトの巨体が斜めにずれて、真っ二つに割れた。



 ♠



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