第10話 異世界捜査官暁人!?


 ♠



「凄い、凄い、暁人あきとさま」

 背中からドクドクと血を流しながら稟がボクに抱きついた。


 あぁぁぁぁぁぁ


 胸が。

 ぷりんと弾力の強い胸が。


 オホホホホホホホホ


 こりゃたまらん。

 って、そんな場合じゃないだろ暁人。

 早くコンシェルジュさんを呼んで、稟の治療をして貰わないと。



 バシャ、バシャ、バシャ⋯⋯



 口付けを求める稟を離して、内線電話に手を延ばした。

「え、なんで!?」

「コンシェルジュさんを呼ばないと」

「えっ!!!! 初夜で3Pは嫌だよぼく」


 何を言ってるの、この子は⋯⋯


 バシャ、バシャ、バシャ⋯⋯


「違うよ。稟の背中を診てもらうの」

「ェェェェ、いいよ。お医者さん嫌いだ」

 いや、そうはいかない。

 女の子が傷だらけなのは、ボクの気が済まない。


 バシャ、バシャ、バシャ⋯⋯


 って、うるせえな!!

「ちったぁ静かに出来ないのかジークベルト」


 って、何してんだ生首ストーカー!?


 プールサイドまで降りたボクは、唖然あぜんとその光景に眼をうばわれた。

 ジークベルトの身体が水から上がったり、沈んだりしてる。

 それも大慌てで、何かを探してる。


 頭だ。


 ジークベルトの頭を探してるんだ。

 しかも、全く見当外れの方向を向いて。

 溺れてるんだ。

 そう想った瞬間、ボクはプールに飛び込んだ。

 ジークベルトの頭を抱えて飛び出すと、すぐにマウス・トゥ・マウスの人工呼吸をした。

 

 ああああ


 おっさんの髯の生えた口元が⋯⋯

 後で、稟のや~らかい唇で口直しをしよう。


 ゴホ、ゲヘ、ゴホゴホ⋯⋯


 と、咳き込んだジークベルトが意識を取り戻した。

「はぁ~」

 肩の力が抜けた。

 どっと疲れが出た感じだ。

 力無くその場にしゃがみ込んだボクを、ジークベルトの瞳が見つめていた。

何故なにゆえ身供みどもを助けた!?」

「知るかよ」

「理由がある筈だ、桐生・ローレンス・暁人」


 はー、


 と、息を吐いたボクは、ぼそりとこう呟いた。

「死ぬ事は無いって、思っただけさ」

 お前みたいな変態ストーカー猟奇殺人鬼でも命は、命さ。

 ボクに奪う権利はない。

 そう思った瞬間に飛び込んでた。

「それだけの事さ」

「桐生・ローレンス・暁人。其許そこもとことまことの勇者だ」

 そうかい。

 そりゃ、

「ありがとう」

 そう言った瞬間。


「ウォリァァァァァァァ」


 金棒を振りかざした稟が、プールを飛び越え金棒を振り下ろした。



 ガィィィィィンッッッ



 物凄い音を立て、津波のような水飛沫がボクの濡れ鼠に変えた。

「稟、何を!?」

 顔に掛かった水を手で拭いながら、プールに眼を向けた。

 金棒を構えた稟の足元で、ジークベルトの身体が伸びていた。

「駄目だよ暁人さま。真剣勝負で相手に情けを掛けるのは御法度ごはっとだよ」


 へ?


 何を言ってるの。

「コイツ、短剣で暁人さまを突こうとしてたよ」

 よくよく見ると、ジークベルトの右手に逆手に握った短剣が握られていた。

 このクソ生首。

 闇討ち専門じゃねえか。

「ジークベルト!!」

 って、泡吹いて気絶してるよ。

「このっ」

 ボクはしゃがみ込んだまま、ジークベルトの頭を蹴り飛ばした。



 ♠



「お前のお陰だ、良くやったなローレンス坊や」

 咥えタバコのまま、そう呟いたたゼニガタの兄貴が優しくボクの肩を叩いた。

 ゼニガタの兄貴に誉められて、かなり嬉しい。

「ジークベルトは、どうなります」

 連行されるジークベルトに眼を向けた。

「必ず戻って来るぞ桐生・ローレンス・暁人。首を洗って待ってるがいい⋯⋯」


 狂った男の眼をしてる。


 アイツならやるかも知れない。

「心配するな。そんな事にゃならねえよ」

「そうでしょうか」

「勿論。ヤツの遺伝子ゲノムマーカーは転移後すぐに剥奪はくだつされる。その後、すぐに裁判が始まる。ヤツは77の異世界で逮捕状が出されてる。物的証拠が多いからな、ほぼ実刑が確定だ。そうなりゃ懲役一千年は固い」


 懲役一千年!!


 凄いな異世界。

「ローレンス坊や。お前、変異が完了したら異世界捜査官にならねえか」

 葉巻をもみ消しながら、出し抜けにゼニガタの兄貴が言った。

「あのジークベルトの野郎にはオレの有能な部下が何人もやられてる。そいつを、たった一人でたおしたお前が相棒になってくれれば、オレも心強い」


 それは、つまり、


「スカウトですか」

「まあ、そんなもんだな。当然、最初は見習いだが、お前なら三年で一人前になれると、オレは見てる」

 そう言ったゼニガタの兄貴は、新しい葉巻に火を点けて後ろ手を振って異世界に旅立った。

「考えておいてくれ、暁人」

 ボクが異世界捜査官。

 何だか実感が湧かない。

 でも、新たな地平が見えた気がする。


「桐生さ~ん」

「ピンクちゃん」

 駆け寄ったピンクちゃんがボクを抱きしめすっ転んだ。

 重たいけど、重くない。

 300キロの過重が掛かってるのに、ボクの肺も心臓も潰れる気配すらない。

 やっぱり強化されてるんだ。

「心配しました。フォースフィールドが破られたと警報が飛んで来た時には、私心臓が止まるかと想いました」

「大丈夫だよピンクちゃん」

 ボクなら無傷だ。

 そう言い掛けて途中で止めたボクは、代わりに彼女を優しく抱きしめた。

 ああ、なんだろう。

 凄い落ち着く。


 すると⋯⋯


 どこからともなく鋭い殺気が飛んで来て、ボクの身体を刺し貫いた。

 視線を向けると、コンシェルジュさんに治療を受けてる稟が、すんごく冷たい眼でボクを見つめていた。

「え~っと稟、これはね」

「暁人さまは強いからモテる。悋気りんきははしたない。と、パパに言われてます」

 あ、そう。

 赤鬼さん、なんか凄い教育してるな。

 って、その教育はどーかな~

「この子が五号さん? 別に、ぼくが五号さんでも全然構わないよ。でも、初めてで3Pは、やっぱりだな」

「五号!? えっ? 初めて!? えっ!? 3P!? えぇぇぇぇ」

 そう叫んだピンクちゃんが飛び起きて、ボクから身体を離した。

「あのピンクちゃん。これは誤解だから」

「今日は,ぼくが暁人さまと子作りするから、君は明日以降ね。慣れたら三人で仲良くしようよ」


「いや、いや、いや」


「え、嫌なの。じゃあ四人?、五人?、でも君は水に沈みそうだからアンジェがいる時は難しいと想う」



「イヤァァァァァァ」



 顔を覆ったピンクちゃんが駆け出した。

 遠くで、


 どっしぃぃぃぃん


 と、転んだ音がした。

「変なの」

 いやいや、、変なのは君の方だから。


 

 ♠



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