第9話 我が心のアンジェリカ!!


 ♠





 ハァ!?




「アンジェリカのフアンだと、言ったのだ」

 言ったのだじゃねえよ。

 なに胸張って宣ってんの、この生首甲冑かっちゅう野郎!!

身供みどもがどれぼどアンジェリカに焦がれておるか、貴様のような恵まれた男には分かるまい!! 試合中にがれたアンジェリカの鱗一枚手に入れるのに、どれ程の忍従にんじゅうを強いられたか。彼女の魅力的な栗色の髪一房を手に入れるために、幾多の屍を踏み越えたか。彼女の使用済み下着を手にするために、幾筋もの血の河を渡ったか、貴様に想像できるか。彼女の居場所を知る為にどれほどの⋯⋯」

「いい加減にしろォォォォ!!」


 我慢できずにボクは怒鳴った。

 こいつストーカーだ。

 変態生首猟奇甲冑ストーカーだ。

「な、なにを⋯⋯」

「何をじゃねえよ、このストーカー野郎!!」

「す、ストーカーだと。身供をストーカー呼ばわりするか!!」


「違うってのか!!」


 ああ、もう、こんな変態相手に出来ない。

 さっさとゼニガタの兄貴に連絡しよう。

「どこへ行く桐生きりゅう・ローレンス・暁人あきと

「連絡するんだよ。ゼニガタ捜査官にあんたを引き渡す」

「そんな真似は許さん」

 許すも許さんもあるか馬鹿。

 辟易へきえきとしながら、ジークベルトを睨んだ。

「貴様には身供と決闘をする義務がある」

 あるか、そんなもん。

 もう会話をするのも嫌になったボクは無視をする事にした。


 で、


りん。さっきから何してんの?」

 ボクのジーンズからベルトを抜こうと四苦八苦してる稟に話し掛けた。

「え? だって子作りするには裸になんないと」



 何を言ってんの、この子は!?



「お話終わったんでしょ。じゃあ向こうのお部屋に行こうよ」


 イヤイヤ、ちょっと待って。


 待って稟。


 wait稟、wait!!


「でも、暁人さま。ぼく初めてだから優しくして欲しい。それにお風呂にも入ってみたい。パパが絶対に暁人さまに髪の毛を洗ってもらえって」


「桐生・ローレンス・暁人ォォォォ!!」


 あっ、怒ってる、怒ってる。


「貴様!! 絶対に殺してくれる」

 いや、無理だし。

 フォースフィールド破れないし。


「ヌォォォォォォォォッ」


 えっ。

 震えてる。


 ピーッ、ピーッ、ピーッ、ピーッ⋯⋯


 何?

 何の警報。

 床から、床から警報が鳴ってる。

 違う。

 フォースフィールド発生装置がけたたましい警報を発してる。

 え、これ気迫で破ろうとしてるの?


「ヌォォォォォォォォッ!!!」


 あ、これやばいヤツだ。

「稟」

「はい」

 って、服を脱ぐんじゃありません。


 パリーン


 と、ガラスの割れる音がしてフォースフィールドが砕け散った。

「死ねい」

「暁人さま!!」

 肉を裂く音がして、稟の背中が斜めに裂けた。



 ♠



「そこをどけ鬼娘オウガ

だどかない」


 ドックン、


 ドックン、


 ドックン、


 ドックン、


 と、耳元で心臓の鼓動が聞こえた。

 稟の背中から血が溢れてる。

 ボクの稟の。

 ボクの稟の背中から⋯⋯

「オレの稟に何しやがる、この野郎!!」

 ボクの前蹴りがジークベルトの胸に炸裂し。

 壁に激突したジークベルトが前のめりに倒れて、ピクリとも動かなくなった。


「大丈夫か稟」

 ボクは、稟を抱きかかえた。

「平気、平気。こんなの慣れっこだから。痛たたた」

「馴れてるって」

 良く見ると琥珀さま同様に、真っ赤な素肌に大小幾つもの古傷がある。

「嬉しい」

「嬉しいって、何が」

「オレの稟って言ってくれた」

 そう言って痛みに耐えながら含羞はにかんだ稟の唇を、ボクは⋯⋯

「暁人さま危ない」

 唇を離した稟が立ち上がって金棒を振り上げた。


 ジャギィィィィン


 と、耳障りな金属音が響き渡り、

「許さん、許さんぞ。桐生・ローレンス・暁人。身供の前でいちゃつくなど絶対に許さん。この鬼娘諸共もろともに斬り刻んで魚の餌にしてけれる」

 鼻血を滴らせるジークベルトが、悪鬼の形相でボクを睨みえた。

「逃げて暁人さま。この人強い」

「当然だ、幾多の異世界を渡り歩き。アンジェリカの夫を名乗る不届き者を何人血祭りに上げたと思う。貴様が如き小娘がかなうものか」

 ボクは想わす抜き付けそうになり、はっと我に帰った。

「この小娘の次は貴様だ。桐生・ローレンス・暁人。アンジェリカを愛する者を一人ずつ虱潰しらみつぶしに消して行けば、最後に残るのは身供である」

 駄目だ。

 織波瑠魂オリハルコンの刀で人を傷つける訳には行かない。

 幾ら変態で、ストーカーな、生首殺人鬼が相手だとしても刀で人を斬るなんてできない。


 一瞬躊躇ためらったボクの眼に、織波瑠魂のハンマーが飛び込んで来た。


 これだ!!


 一足飛びに駆け寄ってハンマーを手にした瞬間。

 猛烈な熱波が、ボクの五体を駆け抜けた。


 炎のように熱く。


 太陽のように明るい。


 ハンマーが燦然さんぜん耀かがやいている。


「なんだと!?」

 ジークベルトが呻いた。

「オリハルコンが貴様を選んだというのかァァァァァ」

 逆上したジークベルトが大上段に振りかぶり、ボクに斬りつけて来た瞬間。

 ボクのハンマーがヤツの大剣を打ち砕いた。

「なにぃぃぃぃ」

「シャァァァァァァッ!!」

 返す一撃がジークベルトの胸を撃った。


 刹那。


 ジークベルトの身体が窓に向かって吹っ飛んだ。

「開け!!」

 一瞬にして窓が跳ね上がり、ジークベルトの巨大がプールに沈んだ。

「頭を冷やせ、バカ野郎!!」

 ボクはハンマーをクルリと回し、腰のベルトに差し込んだ。



 ♠




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