赤備えの琥珀さま

富山 大

扉を開けたら武者がいた・・・

第1話 新居を探して東奔西走


 ボクの名前は桐生暁人きりゅうあきと

 多分、今、この瞬間、世界で最も幸運な男だと想う。



 ♠



 いま、ボクの目の前に全裸の美少女がいて、胸を張って威張ってる。

 いったい、どーゆー状況なのか、少し時間を巻き戻して説明しよう。


 ボクは新居を探していた。

 大学を卒業し、就職して、この街に越して来て以来住み慣れたアパートが取り壊される事になったからだ。

 戦前から建っていた築百二十年のボロアパート。

 大家さんは良い人で、ボクの事を、あきちゃん、あきちゃんと呼んで可愛がってくれたけど、なにしろ年だし後継者もいない。

 さみしいけど仕方がないよね。

 不動産屋に通って色々探してたけど、職場に近いアパートは全部埋まってる。

 賃貸マンションは家賃が高くて手が出せない。

 家賃が安いと、職場まで片道二時間も掛かってしまう。

 ボクは途方に暮れた。

 一瞬、公園にテントを建てて、そこで暮らそうかなと真剣考えた。

 その時だった、

[入居者募集中家賃月二万円]

 の貼り紙がボクの眼に飛び込んで来た。



 ♠



 ゴクリと、生唾を飲み込んだ。

 月二万円!?

 この超高層タワーマンションで?

 有り得ない!!

 真っ先に思い浮かんだのはジョークだった。

 さすがに子供のイタズラだろう。

 でも、貼り紙は門の所にデカデカと貼られてるし、何より気になったのは[先着順]の一文字だ。

 もし、この機会を逃した、公園暮らし確定となってしまう。

 それか一日四時間の通勤暮らしだ。

 そんなのどっちもごめんだね。

 ボクは貼り紙をはがして、マンションに乗り込んだ。

 広い、とにかく広い吹き抜けのエントランスに、大理石調のカウンターがあり、そこに美人コンシェルジュがいた。

「あの」

 ボクは気後れしないように、声のトーンを低めにして彼女に話しかけた。

「なんでしょう」

 彼女は、とても印象的な瞳をしていた。

 右目が紫色で、左目は金色をしている。

 顔立ちもどこか日本人離れしてるし、海外の人なのかな?

 それともハーフ?

 でも、左右ですこんなに違う瞳をしてるなんて・・・

 まあカラコンだよね。

 こんな固そうな仕事してるのに、カラコン着けてて良いなんて都会はやっぱり違うよな。

「何でしょう?」

「あ、あぁ済みません」

 声が裏返った。

 作戦失敗。

「あの、この貼り紙を見まして、もう入居者は決まりましたか?」

 彼女は、薬指で眼鏡を上げて張り紙に眼を通した。

 片手でキーボードを叩き、ディスプレイをチラ見すると、にっこりとボクに笑顔を向けた。

「幸い、まだ決まっておりません」

「本当ですか!?」

「ええ、もちろん。内見されますか?」

「是非」

 コンシェルジュさんの後を追って階段を降りた。

 あ~、地下か~

 そりゃそうだよな。

 月二万円で超高層タワーマンションに住める訳がないよね。

 地下駐車場の管理人室か、地下倉庫の跡だよな。

 まあ良いさ。

 換気さえしっかりされてれば何とかなるだろう。

 大学は工学部だったし、D.I.Y.は得意なんだ。

 前の家も築百二十年のボロアパートを、大家さんの許可を取って、自力でリノベーションして住みやすい居住空間に改造して使ってたんだ。

 まあ、マンションと木造アパートじゃ勝手が違うだろうけどさ。

 今度こそ手伝って貰うからな、覚悟しろよ新井と高城。

 窓が無いのは難点だけど、これで住処が確保されるなら安いもんだ。

 それにここから職場まで自転車なら五分の距離だ。

 こんな好物件手放す手はない。

「こちらになります」

 そう言ってコンシェルジュさんが指さした先に、エレベーターの扉があった。



 ♠

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