四十九日目
學習院の待っていた連絡はなかった。
學習院は商談の不調を純粋に残念に思っていた。
遠藤曜十郎の研究の成果を高く評価していたし、実のところこの惑星で一番正確に彼の事業の価値を見積もっていた人物であったから、素直にその評価を示し、逆にそのことが受け入れられなかったことに大きな失望と諦観を抱いた。
遺族の無理解に怒りすら抱いていた。
銀河の辺境へ流れた物体が、全く文明を異にする原住民の手によって有意義を与えられ、本来と別の用途を作った奇跡。
まさに偶然の奇跡が、ひとつの文明の可能性を作り、そして居合わせた者達の無知ゆえに流れようとしている悲劇。
力あるものの義務として、奇跡を守るために、失われるだろうモノを保護することを決意した。
それは傲慢な態度であったが、いま光が駆け抜ける早さで彼のおこないを掣肘できるものはない。
計画は至ってシンプルで乱暴だった。
つまり、行ってそれらしいものを取ってこい、というものだった。
実際のモノがどういったものであるのか、目にすることが出来なかった學習院からすれば当然とも言えるが、モノそのものよりも、彼の個人的な怒りをぶち撒けるのが目的に近かった。
前後の事態から學習院を連想させつつ、しかし経緯や物証は絶対にありえない手段。
推理小説黎明期の犯罪手段をとれる立場に彼はいた。
回復可能な損害と、事件が記憶として残る程度の破壊。
何より単純でコンパクトな経費。
原住民の国法なぞ眼中にはなかったが、そこにあるイレギュラーを求めての行動であるから、別のイレギュラーの可能性は考慮に入れる必要がある。
部下が提案を挙げてきたプランの中から好みのものを選び、提案の内容を確認する。
同種のプランを提案していた数名に討議を命じ、機材の調整を行わせた上で、學習院の社会的地位を混乱させる可能性について改めて確認した。
家屋敷をまるごと持ち去り、本州島の一部を削ることで証拠隠滅とするプランもかなり気に入っていたが、恐らくは地域の報道に大混乱をまねき、本艦内でかなりの人気を誇っている地上波で放送中のアニメーションの放送枠がなくなるだろうことは予想がついた。
しばらく考えを弄び、ブリーフィング資料のシミュレーションを幾度か眺め、溜息と苦笑を繰り返し、発案者に感状と却下を伝えた。
學習院は作業を命じた。
彼らはこの時はまだ知らなかったが、のちにシステム上に存在していたセキュリティホールを実に数百世代ぶりに発見することになる。
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