第9話 夢の終わり
その日の夜、俺はまたいつもの夢を見た。
漆黒のマントを身に纏い、長身痩躯、頭の左右から立派な角を伸ばし、矢継ぎ早に超強力呪文を発動させる俺は、まさに魔王そのもの。
その魔王に立ち向かうアローナに扮する姫宮さんは果敢に闘うも、相変わらず力押しメインの戦略は変わらない。
いつものように決着が見えない、泥沼の様相。
なのに何故か俺はいつものように手加減するつもりはまるでなく、まさに目の前のアローナを殺さんばかりに本気の攻撃を繰り出していた。
「くっくっく、どうした? お前の力はそんなものか?」
「くっ、くそ。こいつを倒して角を手に入れれば、念願の絶品天津飯が出来上がると言うのに!」
「あっはっは。夢半ばにして破れるとはさぞかし悔しかろう。が、それも
勝利を確信した俺は、ついに究極魔法の詠唱を開始し始めた。
詠唱中は無防備な状態に晒されるが、戦いながら四方に設置した魔晶石がバリアを展開し、アローナの攻撃から俺を守ってくれる。
俺に刃を突きつけるにはこのバリアを突き破らなければならない。だが、アローナひとりでは時間内に四つもの魔晶石を破壊するのは無理だろう。せいぜいひとつかふたつが精一杯だ。
所詮アローナもこんなもの……ほくそ笑む俺に、しかし俺は心の中で懸命に「違う!」と叫んでいた。
アローナはいつだってへこたれない。
どんなピンチだって笑って乗り切ってきた。
アローナは負けない。絶対に負けない。
だからアローナ、頼むからそんな悔しそうな顔じゃなくて、いつもみたいに豪快に――。
「アローナさん、助けに来ましたぞ!」
その時、突然ふたりが戦う古城に聞きなれない声が響いた。
「え? あんたはフィッシュスワンプの村長さん!?」
言われて思い出した。
それはアローナが異世界転移して最初の冒険、田んぼを荒らすモンスターを壊滅させて救った米どころ・フィッシュスワンプ村の村長だ。
「ワシだけじゃないですぞ。あんたに助けてもらった連中がほれこの通り!」
村長の言葉通り、古城の玉座の間に次々と人がなだれ込んでくる。
「ウコツケイの人たちに、エチゼーン、それにグリンピー族まで!」
アローナが旅の中で助けてきた人たちが皆手に武器を持ち、魔王の魔晶石を破壊し始めた。
「アローナ、ここは俺たちに任せてお前は魔王を倒せ!」
「アローナさん、私たちも微力ながらもお手伝いさせてください」
「魔王を倒せばアローナが言っていた天津飯ってむちゃくちゃ美味しい料理を食べることが出来るんだろ? 是非俺たちにも食べさせてくれよ!」
アローナ、アローナの合唱がホールに響き渡るたび、魔晶石が少しずつ削られていく。
「く、くそ! 人間どもめ、ふざけた真似を!」
焦りながら呪文の詠唱を早める魔王の俺。
だけどそんな俺を嘲笑うかのように、ぱりんとバリヤが粉々に砕け散ると
「あはははは! 絶品天津飯、いただきまーす!」
仲間の助力を得たアローナが大笑いしながら、剣の切っ先を魔王の胸元に向けて飛び込んできた。
かくしてこの日以降、俺は同じ夢を見なくなった。
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