第4話 入道雲の子供とボク

結局のところ僕は死んでない。

でも海華に会いに行くようなマネはしてない。


毎日海華のことを考えているのは事実だが。



今日は7月31日、ちょっと8月気分を味わうのもいいかなっとも思いはじめている。最期の8月になる予定だから。

あの日、美夏と出会った日に僕は気づいた。

死に急ぐ子を止めるという、あたりまえのこと?が、僕にはまだできるということに。美夏が実際死ぬところではなかったというのは痛いところではあるケド。



そういえば―、美夏はなんで空に飛び込むなんて言ったんだろう?からかいか、ただの冗談か、なにか深い意味があるのだろうか? それとも―、ホントに死ぬつもりだったのだろうか? 


あぁ、また同じことを考えてる。 



そこで僕はふと我に帰る。何度同じことを考えただろう? あの日から海華のことを想っては、それを忘れる為に違うことを考えようとする、すると自然に美夏の言葉が頭に浮かんで、気がついたら―クーラーを効かせた部屋でぼーっとしている自分に気づく。まだ生きている自分に。


 

僕は戸惑っていた。馬鹿な自分に。



死ぬ死ぬと、そればかり考えていたくせに、具体的なことを何一つ考えてなかった自分に。


遺書は書くか、書かないか、書くなら何を?祖父母に挨拶はする?


両親の墓参りは?


そしてなにより僕は、どうやって死ぬかという基本的なことですら考えてなかった。


死=川と、無条件に思っていたけど、よく考えたら死に様がまったく美しくない。あの二人と同じになってしまう。



このマンションで飛び降りるのもつぶれそうで嫌だ。



首吊りは失禁してしまうと聞いたことがあるし、失敗すると内臓が口から出るなんていうおぞましい噂も聞いたことがある。



とりあえず、具体的なことは何も知らないのだ。



テレビでは銃をこめかみに当ててドンッってのをよく見るが、銃なんてどこで手に入れるんだか…。 




僕の理想は、なんていうか、散りゆく桜のように儚げに死ぬってこと。

みんなが、僕のことを人という夢だったって思えるように、静かに死にたい。


なのに、その方法が思いつかない。

もどかしくて、苦しくて、気が変になりそうだ。いや、もう変なのか? 




僕は膝を抱えたまま、カーテンの隙間から見える空を眺めた。 入道雲の子供みたいなやつがたくさん、流れて行った。




「海華・・・」




海華に会いたかった。 

後ろから、あの白い細い手が伸びてきて僕の首にそっと巻きついて、耳元で言って欲しかった。


「駿、こっち向いて? かまってよぉ。。」って。


僕は首だけ海華のほうへ向けて、彼女の唇をちょっと僕の唇で噛む。海華はきっと「きゃっ」とか「きゅっ」とかって奇声をあげる。

それから本格的に後ろを向いて彼女を抱きしめてキスをする。今度は声なんか出せないくらいの深いやつを―。




馬鹿みたいだ。妄想なんかしちゃって。



僕は本当は生きたいのだろうか?生きても、海華がもう自分のものじゃないから、死のうとしてるんだろうか? 

ふと、そんなことが頭をよぎった。 


いやいや、そんなのは不本意だ。 




じゃぁ、僕の本意って何なんだ?

僕は顔を上げた。

少し大きめの入道雲の子供が、カーテンの陰へ隠れていった。

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