第97話(人の恋路)

 恥ずかしそうにシーナが俺の方を見ている。

 この状況において俺の脳は、瞬時に高速回転した。

 少なくとも俺は、今の会話が全く聞こえなかったり聞いていなかったりする難聴主人公ではない。


 すべて聞いていた。

 そして、その含んだ意味に気づける程度には鈍感ではない。

 しかもシーナは美少女だし、魅力を感じない……というわけではない。


 だがそこで俺の脳内はある言葉を思い浮かべる。

 それは以前マサトではない別の友人が、彼女に振られたときに愚痴っていた言葉だった。


「それは、いいって意味だと思ったんだよ! ちょっとこう、雰囲気みたいなこう……それで、キスしようとして……振られたんだ。俺、俺……何も……くううっ」

「あ、はい」

「それで……」


 といったように、延々とあの時は愚痴を聞かされ、俺の嫁はしばらく二次元だけでいいと言っていた。

 ちなみにそのあと、彼はその別れた彼女とよりを戻した。

 何がどうしてそうなったのか聞いてみたが、恋愛脳で頭が大変なことになっていたその友人の口からは、惚気以外の情報は得られなかった。


 あの時、他人の恋路には触らないでお香と心の底から思った記憶がある。

 それで何を考えていたのか?

 そうだ、シーナに関してだが……それが本当に、好意の現れかどうかは分からない。


 それに乗ってしまっただけで俺は、これまでに培ってきたシーナとの信頼関係を打ち崩すことになるのでは。

 現在この異世界にどの程度滞在しないといけないかは分からない。

 だから俺はここで彼女のそれに答えるのは、悪手であると気づき、警戒した。


 さあ、どうする、俺。


「え、えっと、俺自身もこの世界の事はよくわからなくて、でもこうやってシーナと出会って大変なことに巻き込まれているけれど……わけもわからず放り出されるよりは良かったよ」

「そ、そう……アキラは、ほんとにいい人ね。もし城を取り戻したら、アキラがこの世界に来たパーティを盛大にしてあげるわ」

「それは楽しみだ。……ロゼッタ達は呼べないのか? そうなってくると」

「魔族なら何とか頑張れば紛れ込めるんじゃない? 私の好敵手(ライバル)だもの。それとも難しい?」


 シーナがそう、ロゼッタの方を見て挑発するとロゼッタが、


「私を誰だと思っているの? その程度、造作もないわ」

「ロゼッタ様~」

「もちろん、セレンも一緒に行くのよ?」

「そんな~」


 と、冗談を言い合いながら俺たちは、特に悪い雰囲気になるでもなく進んだのだった。



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あとがき

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