第80話 土を蹴る音

 ロゼッタがどことなく、期待するような好奇心に満ちた目でその紫色のガラスに触れようとしている。

 そこで俺は気づいた。


「俺の“ステータス・オープン”で見るのはどうなんだ?」

「異世界人の力ではなく、現地人の私達でも色々できるわ」


 すねたようにロゼッタに言われて俺はそれ以上言えなかった。

 そして、ロゼッタに詳しいシーナとセレンが黙って……セレンはこの音で、もう無理となっているので気づいていないだけかもしれないが、シーナの様子を見ると特に何も言わずに様子を見ている。

 だから大丈夫だろうと俺は思っていたのだが……。


こつんっ


 ロゼッタの細く白い指が、紫色のガラスに触れた。

 小さな音ではあったけれどそれだけだった。

 するとロゼッタが首をかしげて、


「“中”の様子が全然分からないわね。“防御(プロテクト)”を破らないといけない感じかしら」

「……ロゼッタ、二つほど気になるんだが」

「何?」

「先ほどの緑色の光の走る形が変わって、さっきよりもその紫色のそれは、大きく振動しているように見えるんだが」

「……そうね」


 俺の指摘にロゼッタは、少し黙ってそう答える。

 今のその触れるという行為だけで何かが起こったのではないのか?

 そう更に考えようとした俺は、そこでセレンの声に気をとられる。


「にゃあああああ、また今度は違う変な音がするぅううう、なんだか攻撃的なような音の連続がぁああああ」


 セレンが悲鳴を上げてさらに雑巾のように自分の耳を絞り上げる。

 こんな風にして痛くないのだろうか?

 などという疑問は浮かぶものの、俺達の耳でも聞こえるようなとある音に俺は反応してそちらを見た。

 

 土をける人間の足音が幾つも幾つもする。

 しかも先ほどまでは静かだったすぐそばにある家々の中からも誰かが走るような音と同時に鍵が開く高い音がして、相変わらず虚ろな目つきをした人達が現れる。

 ゆっくりとした足取りで歩く姿は、ゲームや映画のゾンビが大量に襲ってくるようなあの雰囲気がある。


 現実には全く遭遇したくないその光景だが、さらにこの村人たち、各々が棒や斧、鎌、包丁などをもってこちらに来ている。

 その村人たち全員がこちらを見ている。

 明らかにこれから取り囲んで襲おうといった雰囲気だ。


 そこで俺は、


「このガラスのようなものに接触したりすると、こうやって村人全員が襲い掛かるように設定がされていたのか?」


 呻くように呟いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る