第74話 耳が良いから
魔物が集められている理由が何か他にもあるのでは、といった話は後に回すことにした。
ここ周辺には魔物はいない、それはいいとして、
「ようやく初めての民家だけれど……人はいるかしら。物音ひとつないけれど」
シーナが家の周りを見ながらそう言う。
実際に、誰かが家の中にいるような物音はしない。
今は昼とはいえ、まだ畑や他所での仕事で家に戻ってきていないのかもしれない。
そう俺は思っているとそこで、かちっと鍵が開く音が聞こえた。
ゆっくりとドアを開いていき、一人の男が姿を現す。
ドアのそばにいたシーナが慌てたように、
「あ、私達はその、怪しいものではなく……」
自分で怪しい人ではないというのはどうだろうと俺は思っていた所で、その家の中から現れた男は棒立ちになった。
目の焦点があっていない、無表情なその様相。
不気味なその光景だが、そこで現れた男が俺達に、
「……こんにちは」
「え、えっと、こんにちは」
「……」
「……」
あいさつされたんでとりあえずあいさつし返すと、その男は少しの間沈黙してから、すうっと家の中に入ってしまう。
そのまま鍵をかけてしまったらしく、そんな音がした。
何なんだこれ、そう俺は思っているとロゼッタが、
「まるで操られているようですわね。以前遭遇した時にそういった人物はいましたが……確か、思い出した記憶が、操られていた時のものは全く残っていないのでしたか」
「それで日時用生活ができたのですか?」
「普通の生活は、ね。もともと単純作業の繰り返しの仕事についていたのもあって、『あいつ、最近様子が変だな、元気がないし。疲れているんだろうな』程度で終わっていたらしい、と聞いたかしら」
「……一定の日常生活は出来る程度にして、“特定の行動”に反応して動かせるようにするタイプの“操作”が出来る、とか?」
「あり得るわね。……何を目的として、設定しているのかが気になるわ」
そう言って、それから俺達はさらに道を進む。
そうすると家が増えていき、やがて村らしき家の集合体が見えてくる。
と、セレンが立ち止まった。
「何だけ耳障りな音がします」
「耳障りな音? 何も聞こえないが」
俺は耳を澄ますも何も聞こえない。
ロゼッタやシーナもそうらしい。
けれどセレンは聞こえると言っている。
そこでロゼッタが、
「セレンはとても耳が良いから、私達が気づかない“何か”が聞こえているのかも」
そう言ったのだった。
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