第67話 引き抜き
ロゼッタが、あっさりと自分は魔族であると告げた。
だがその話を聞いたシーナが、
「ま、魔族? それって、魔王の娘ということ?」
「そうよ。貴方、全然気づかないのですものね。もっともそれだけ私の魔法が優れていたという事だけれど」
そう言ってロゼッタは上機嫌に笑う。
確かにどこからどう見ても、普通の人と変わらないように俺にも見える。
でもこの世界の魔族は見た目が人間と同じなのだろうか?
以前、シーナが、この世界では別の種族という意味合いがあるとかなんとか言っていた気がするが……。
と、そこまで考えて俺はそこで思い出す。
「そういえば洞窟内で、セレンの頭にうさ耳が生えていたような」
俺がそう呟くとセレンがびくっとして、次にロゼッタがくるりとそちらを向いて、
「セレン、貴方またやったの?」
「ちょ、ちょっと音の反響などを細かく見ようとしただけです。あの“敵”は危険でしたから」
「確かに耳を出した方が、音がよく聞こえるわね。あの敵の場合は……実力を隠している余裕があまりないものね」
「は、はい」
「結局最新装備の魔導書を使ってしまうことになったしね。ただ、まだまだ改良が必要……とはいえ、こんなものでも異世界人の特殊能力(チート)の前では形無し……」
そこでロゼッタが俺の方を見た。
そして俺の前にまでやってきて、俺の手を握りしめて下から見上げるように、
「……もしこの件が終わりましたら、私達の城に来ていただけませんか? 客人として」
「で、ですが……」
と、俺はそこで気づいてしまう。
服の隙間から見えそうで見えない胸の谷間が……なんてあざとい角度でお願いをしてくるんだと俺が思っていると更にロゼッタが、
「貴方の力をぜひ役に立てて欲しいのです。お願いできませんでしょうか」
「う、え……ぐおっ」
そこで俺は何者かに襟首を掴まれて引っ張られてしまった。
何をすると思っていると、そこには……『怒らないから、言いなさい?』と問いかける母の顔がよぎるような、シーナの笑顔だった。
これは、俺にとって危険な状況なのではと思っているとシーナが、
「アキラは私の客人よ、うちの“城”のね。勝手に引き抜きをしようとするのはやめてもらえるかしら」
「あら、それを決めるのはアキラでしょう?」
そこまでの話を聞いた俺はその場から全力で逃げ出した。
この後に何を聞かれるのか分かったからだ。
そんな俺を、シーナたちが慌てたように追いかけてくる音が聞こえたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます