孔雀色—peacock color
あの後、帰宅してからもずっとあの絵が脳裏に焼き付いて離れなかった。
そのお陰でよく眠れず、今日の授業は殆ど寝てしまって、休み時間に友達にノートを写させてもらう始末だ。きっと描いた人の名前を見ることが出来なかったからだ。
あれだけ素晴らしい絵を描くのだから美術部員ではないかと思い、美術部の友達に聞いたところあの絵を描いた生徒は美術部員ではないらしく、友達も名前しか知らないらしい。
それがあの絵を描いた生徒の名前で、男子生徒らしく、一つ下の学年だそうだ。
しかし、情報はそれだけしか無く、後輩に詳しく聞いてみると友達は言ってくれた。
そして、今日の授業が終わり、ホームルームを終えると私はまたあの絵を見に来てしまった。
しかしそこには先客がおり、私以外にもあの絵を見に来ている生徒がいる事に驚いてしまった。しかも男子生徒だった。
私よりも背が高くスラッとしていてスタイルの良い彼は私の存在に気が付くとこちらへと顔を向けた。
「センパイもこの絵を見に来たんですか?」
一瞬メガネの奥にある彼の目が私の胸元に行き、リボンの色を確認して上級生だと分かると口を開いた。
「え!あ、うん‥‥この絵凄く綺麗だよね」
どうやら下級生らしい彼は、横にずれて私が近くで見れるようにしてくれた。私はその優しさにあやかり、昨日見た絵をまじまじと見る。
「この絵、明日の市の絵画イベントで持ってかれるらしいですよ」
彼の言葉に私は少し寂しく思った。
「そういえば、キミ‥‥2年生だよね?」
「はい、そうですけど」
彼の紺と黒のストライプのネクタイを見てはっとした。
「この絵を描いた子が誰か分かる?篠原って男の子らしいんだけど」
「‥‥知ってますよ、ありもしない草木や動物を描いて表彰され、周りの妬みで孤立してる奴です。この絵は桜を描いたと言ってました」
彼は寂しげな笑を浮かべて私に話してくれた。その瞳は本当に寂しく悲しい色をしていて、本当に目が青いように見え‥‥見えた?
「‥‥キミ、もしかして目の色‥‥青いの?あれ、でも緑っぽくもある‥‥」
彼はきょとんとした顔を一瞬すると眼鏡を外して私に見えやすくしてくれた。
「オレの目、日に当たると緑っぽくなるんですけど陰になると青いんですよ」
そう言って彼は廊下の窓から差す日に当たったり、手で陰を作って色の違いを見せてくれた。
彼の言葉通り、日に当たるとキラキラと緑青に輝き、影になると深い青緑色になった。まるで海のような目だった。
「孔雀色って言うんですよ」
あどけない笑を浮かべると少年はまた眼鏡をして絵に視線を戻した。
「へぇ、綺麗な色だね。うちの学校ってけっこうハーフの子とかカラコンの子とか普通にいるけどそんな不思議な目の色は初めて見た」
「オレの家系がなんか色々混じってるみたいで‥‥家だとあまり珍しい事でもないみたいですよ」
彼はニッコリと笑って言うと腕時計の時間を見てしまったという顔を浮かべた。
「あ、オレそろそろ帰らないと‥‥それじゃぁセンパイ。さようなら!」
「うん、じゃあね。ありがとう」
彼はニッコリと笑顔を浮かべると猛ダッシュで廊下を走って行ってしまった。
私はもう少し絵を見てから帰る事にした。
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