第3話 出陣バンク!

「いっ、いったい何が始まるんですか!?」


 俺は思わず呻く。


「あ、もうショータイムか……でござった」


 彼女はそう呟くと、俺を見やって悪戯っぽく頬笑む。


「旦那様、これから面白いものが始まるでござるよ」

「いったい何が……」

「まあ見ているでござる」


 彼女は顎をくいっとやって、店の一方を示す。そこはちょっとしたステージのようになっていて、そのステージ奥の壁一面がいつの間にか液晶ディスプレイのようになっていた。

 ディスプレイにはビンゴカードみたいな、マス目に数字を書き込まれた正方形が映っている。

 メイドさんとビンゴゲームするイベントでも始まるのかな、と思ったら、ステージ下手に上がってきた一人のメイドさんが朗々と喋り始めた。


「旦那様がた、奥方様がた、大変長らくお待たせいたして御座候ござそうろう。いよいよ舞台が調いまして、皆様のお待ちかね、妖精侍女サムライ犯罪妖精ローニンの真剣勝負が開幕でござるぅ!」


 突然のハイテンショントークに、客席からは歓声と拍手が上がる。口笛を吹いている奴もいて、どいつもこいつも盛り上がっている。

 いや本当、いったい何が始まるんだ……?


「では、今回の出陣隊士は誰になるのかルーレットぉ!」


 たぶん司会なのだろうメイドさんが再びハイテンションに宣言すると、より大きな歓声が上がって、正面ディスプレイに映っているビンゴカードの中央マスに光が灯る。ついでにドラムロールも始まる。

 光は、数字の書かれたマスをランダムに飛びまわり、ぱっぱっぱっと明滅させる。

 ジャーンッとシンバルが鳴って、光がマスのひとつで停止した。


「六番! 六番でござる! 今回の出陣は隊士ナンバー六番、点心てんしんちゃんでござぁい!」


 司会メイドさんが、いつの間にやら手にしていた鳴り物をパフパフ鳴らして歓声を煽る。


「わたしか」


 俺のそばにいた銀髪メイドさんが、ぼそりと呟いた。思わずそちらに顔を向けたときには、彼女はステージに向かって歩き出していた。

 壇上に上がった彼女を、客席からの拍手が迎える。笑顔で手を振ってそれに応える彼女に、司会さんが次なるアクションを促した。


「さあ、では点心ちゃん。出陣バンク宜しく候う」


 その言葉を合図に、ホール全体を照らしていたムービングライトが一旦消えて、ステージ上だけが照らし出される。

 客席が固唾を呑むように、しんと静まる。そのタイミングで、鈴の音がしゃんと鳴り、琴と鈴を主にした音楽が流れ始める。

 音楽に合わせて、点心ちゃんと呼ばれた銀髪メイドが右手を振るった。すると、メイド服の袖口からは銀色の蛇がしゅるしゅると飛び出して真っ直ぐに伸び、刀になった。

 点心ちゃんは袖口から飛び出した刀を握り締め、ひゅんひゅんと素振りをしながら、朗々と口上を響かせる。


「紫電一閃、雷を斬る。可愛いだけじゃありんせん。六番隊士は一番ロック――」


 口上の途中からは刀身に電光が絡みつき、ひと振りするごとにバチバチと青紫の火花を閃かせる。


「雷ガール、点心ちゃんたぁ拙者のことでぇい!」


 最後のひと太刀を振り抜くと、刀身から解けるように迸った紫電が彼女の全身を包み込んだ。

 青紫の閃光がホールいっぱいに弾ける。

 反射的に閉じた目を開けると、点心ちゃんはメイド服から和服――というか和装メイドな出で立ちにお色直ししていた。

 フリルの付いた振り袖に襷掛けして、袴のようなスカートと編み上げブーツ。銀髪もポニーテールに結い上げている。


妖精侍女サムライ点心、いざ出陣!」


 変身完了した点心ちゃんが宣言すると、その身体はバチッと弾けた電光に飲まれるように掻き消えた。

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