episode7 うおぉぉぉ

 異世界に通じる穴は良い。

 なんだかんだあったけど、結果色々楽しかったから。

 

「ミツキ! 良かったぁ生きてたぁ元気だったぁ? 変な事しなかったぁ? されなかったぁ?」

「うん! なーんかすごい楽しかったよー!!」

「あらあら、それは良かったわねぇ。あっ、店員さん、本当にありがとうございました」


 ミツキちゃんのママは僕に向かって深々と頭を下げた。


「いやいや。とにかく無事で良かったです。じゃあ皆さん無事解決したんで……」


 と、僕は行く前より数が増えて30人ぐらいになっていた野次馬の人たちに声をかけて、やんわりと解散を促した。

 いつまでも店の駐車場でこんなに人が居たら営業に差し支えそうだから。

 一応、ミツキちゃんの救出というクライマックスを迎えたからか、赤い穴にも飽きたからか、とにかくみんな大人しく帰って行った。

 それを見て、内心ホッとした。

 もし質問攻めにあったりなんかしたら、大魔王の事とかどうやって説明したらいいのか分からなかったから……って、あっ!

 ドラゴンからの言づての件!

 僕は、急いであのチャラい男の後ろ姿を探した。

 ……けど、残念ながらすぐに見つける事はできなかった。

 まっ、いっか。どうせウチの店は近所に住んでる人しか来ないし、また来た時に言えば良いよな。

 それよりとにかく疲れた疲れた。

今日はもう仕事上がらせてもらって、シャワーでも浴びてさっさと寝たい──


「おい、マサキ。それ邪魔くさいからどっかしまっておきなさい」


 店の中から出てきた親父が、赤い穴を指差しながら言った。

 

「いや、しまっておけって言われても、これって別に僕のものじゃ……」


 と、言おうとしたらもう親父は店の中に戻ってレジ打ちをしていた。

 うーん、確かにまあ、店の前にこんな謎の赤い穴があったらまた人が集まって来ちゃうかもしれないし、ミツキちゃんみたいに子供が入って行っちゃう可能性もあるし……。


「つっても、この穴をどうやって動かせば……」


 と、穴のはしっこを爪の先でひっかいたら、シールみたいにペロンと剥がれた。

 ってことでとりあえず、僕はその穴を持って家に帰ることにした。

 ……あっ、ちなみに、家はこのコンビニの2階である。




 さっとシャワーを浴びて、お店で廃棄になったお弁当をサクッと食べて、自分の部屋に戻った。

 大好きな女優のカレンダーの隣辺りにあの赤い穴を貼り付けたのだが、主張が強いのなんの。

 その女優のポスターでもゲットして上に貼り付けて置かなきゃ……なんてことを考えながら、ベッドに入った。

 そしてにしても、今日は色々あったな。

迷子になった女の子を助けるために赤い穴に飛び込んで、杖を拾ってダンジョン入って大魔王に出くわして……って、そういや大魔王、最後の最後までずっと悶え苦しんでたけど、さすがにもう治ってるかな──


「ああ、すっかり良くなったよ」

「あっ、そうなんだ。そりゃ良かった……ええええ!?」


 僕はバッと掛け布団を振り払いながら起き上がった。


「やあ、心配してくれてどーも」


 大好きな女優のカレンダーの隣、あの赤い穴から大好きじゃない大魔王の顔だけ飛び出してこっちを見ていた。


「ちょ、ちょっと、なに勝手に人の部屋に来ちゃってんの!?」

「ん? 勝手に? あれ、変だなぁ。今日、我が輩の部屋にも勝手に誰かさんが入って来たような気がするんだが?」


 ……ぐっ。

 確かに、あれは勝手に入ったっちゃあ勝手に入ったけども。

 さすが大魔王。

 ピンポイントで人の痛いところを突いて来やがる。

 

「ガッハッハ。気にせんでいいぞ。互いの部屋に勝手に行き来できるなんて、素敵な間柄じゃないか」


 どこが。

 可愛い女の子の幼馴染みが隣の家で2人の部屋が2階で窓と窓の距離がめっちゃ近くて勝手に行き来するとかだったらいいけど、それとこれとは全然違いますから!


「ん? 可愛い女の子の幼馴染みがどうしたって?」

「……あ、いや、別にハハハ」


 クソッ、しかもたまに心を読める力を持ってるんだったこの人。

 あー、寝たい~、めんどくせ~。


「まっ、今回はとりあえず挨拶だけしに来ただけだからな。疲れてるだろうから、どうぞゆっくり休むがいい」


 の部分が魚の骨ぐらい引っかかってしょうが無いけど、とりあえず今はもう帰ってくれるならありがたい。


「はいはい、どーも。じゃあ、お休みなさい大魔王」

「はいよ。おやすみおやすみ。夜が明けたら、酒でも持ってきてやるから、色々話でもしようじゃないか。あっ、それにしてもこの部屋死ぬほど汚いなおい。全然掃除してないだろ? 我が輩はこう見えて綺麗好きだから気になって気になってしょうがないぞこれ。明日は早起きして、我が輩が来るまでにしっかり掃除しておくように。ちなみに、こっち側の穴を剥がそうなんてことしたら、貴様の命を剥がしに来るからな。ではおやすみガッハッハ」


 言いたい放題言い終えると、大魔王は器用に体をねじりながらズリズリと穴の向こうへバックして去って行った。

 ……と思ったら、またすぐズリズリ頭が出てきた。


「あっ、それと、貴様の借金の件。それについてもじっくり話しておきたいしな。おっ、とりあえずこれだけ利子として持って行くぞ」


 そう言って大魔王はいやらしく笑いながら女優のカレンダーを引っぺがし、またズリズリとバックして帰って行った。


「うおぉぉぉぉぉ!!」


 僕は、ベッドにうつ伏せになって雄叫びを上げた。

 いま言われた事もカレンダーを盗られた事もそうだけど、なにより明日アイツが来るって考えただけでもう……。


 結論。

 異世界に通じる穴は……嫌い!



(了)

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異世界に通じる穴は〇い ぽてゆき @hiroyu

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