episode3 大魔王
異世界に通じる穴は怖い。
その気持ちをもっと強く持っていれば、こんなことにはなっていなかったのに……と、僕は心底思っていた。
なぜなら、あの洞窟の中はダンジョンになっていて、迷路っぽくなってたりトラップがあったりして大変だったけど、その一番奥にたどり着くとそこにはなんと魔王が居たからだ。
なんでそれが魔王かって分かったかと言えば……
「で、この大魔王様になんの用かね?」
と、自分から正体を明かしてくれたから。
まあ、黒いマントに身を包んで蒼白い顔に禍々しいオーラを放ってる感じからして、ゲームなんかでよく見る魔王感あるけど……って、これは大ピンチだよな!?
なんか用かって……この返答次第じゃ一発アウトもあるぞこれ。
調子の良いこと言ってごまかした方が良いのか、よっ魔王様カッコイイとかおだてるべきか……いや、ここは──
「あのぉ、さっきこのダンジョンの入り口の前を通りがかったとき、知り合いっていうか探してる女の子っぽい声が聞こえたんですが見ませんでした?」
ド直球。
素直にそのまま聞いてみた。
こういう時は、意外とその感じで行くと良い結果が……
「ああ、知らんな。死ね」
……えええ!?
損したぁぁ!
素直に言って損したぁぁ!!
おだてておけばよかったぁぁ!
おだてまくるのが正解だった~。はい詰んだ~……
「さて。どうやって殺すかな。邪剣で切り刻んでやるか、邪悪な炎の魔法でこんがり焼いてやろうか、それとも邪スプーンで目玉を……って、ん? そ、それは!?」
突然何かに気付いたように、魔王は僕の手元の辺りを見て言った。
「……こ、これっすか?」
僕は、右手で握っていた杖を少し持ち上げて見せた。
「そうそれ! 我が輩がひとり暮らし始めた時に先代の大魔王つまり父親から受け継いだヤツ~。この前それ持ってその辺の道を散歩して帰ってきたら無くなってて、もう死にたいぐらいにショックだったのだよ。貴様、どこでそれを?」
「えっ、どこって……その辺の道で」
「やっぱりか! その辺の道を散歩してた時に無くしたからその辺の道が怪しいと思ったのだが、逆にその辺には無いんじゃ無いかって思って見落としてたぞ。やるなお主」
「あ、ははは、あざっす」
……大魔王やべぇな。
何がやべぇって死ぬほどアホだなおい。
まあこれで恩を売ったわけだし、何とかなりそうな──
「ん? 死ぬほどアホ……ってなにかね?」
「……えっ!? な、なんでそれを……」
「ああ、大魔王の力。たまに相手がどんな事考えてるか分かっちゃうのである。で、死ぬほどアホって言うのは?」
なんだそれぇぇ!!
ずりぃ。ずっちいぞおい。
……おっと、これもバレるかも知れないのか。
あーめんどくせー。とにかくここは……
「えっと、僕です僕。僕って死ぬほどアホだなって。大魔王さんがいるこんなダンジョンから女の子の声なんて聞こえるわけないのに、アホみたいに入って来ちゃって……」
「ガッハッハ。そんな卑下するもんじゃないぞ。というか、居るぞ。その女の子」
「……えっ?」
「だから居るのだよ。ちょっと前に人間の女の子が迷い込んで来てな。どうしたもんかと思って、とりあえず部下の魔物に面倒見させてるのだよ」
「マジッっすか!」
やった!
起死回生のごまかし作戦も成功したし、ミツキちゃんも見つかったしでツイてる!
「マジだマジ。入口入ってすぐ右の部屋に居るんじゃないかな」
「あざっす! それじゃ!」
僕は踵を返して大魔王の部屋から出て行こうとした。
「ちょっと待て人間よ。ウチの若い衆は血気盛んだからな、人間の青年が突然現れたらまず間違い無く攻撃を仕掛けてくるだろう。魔物っていうのはそういう生き物なのだよ。我が輩だって、今にもお主の心臓をえぐり出してやりたい気持ちでうずうず……」
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
「ガッハッハ。冗談冗談。まあでも若い衆の件は本当だからな。というわけで我が輩が一緒に付いて行ってやるぞ。貴様に聞きたいことも沢山あるからな……」
「あ、ど、どーも……」
こうして、大魔王が旅の仲間になった(?)。
まあそのおかげで、あっさりミツキちゃんを見つける事ができた。
そして、こんな物騒な異世界からすぐにおさらばすべく、あの穴に戻る事にした。
……3人で。
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