episode2 そこは異世界
異世界に通じる穴は
赤い穴に両腕から先に入れて次に頭をねじ込むと、中は穴と同じサイズの筒状になっているのがわかった。
ほふく前進で少しずつ進んで行くのだが、まるでコタツの中のような暖かさを感じた。
そして、少し先に丸い出口が見える。
入った時は夜だったのに、向こう側は明るい緑と青空が見えた。
「あれが異世界……」
そうつぶやきながら前進して、ついに外に出た。
目の前に広がるのは、緑色の草原。
50mぐらい先に薄茶色い道があり、こっちから見て逆丁字路になっていた。
その道をまっすぐ行くと濃緑の森が広がっていて、左に曲がった先には──
「おい、また人が出てきたぞ」
「ああ、今度は男だな」
「──うわっ!」
突然、背後から声がしてビックリした。
振り向くと、村人が二人立ってこっちを見ていた……村人?
僕は、二人を見て自然にその言葉が出てきたことにハッとした。
それに、言葉が通じるっていうのも何か気になったけど、まあ通じないよりは通じる方が上だし。
「なんだなんだ。もしかして、さっき出てきた女の子を追いかけてきたのか?」
「……えっ? 出てきたって、この穴から?」
「おうよ。お前さんと同じようにヌルッと出てきたよ。あの子も」
考えてみたら、ミツキって子の特徴とか一切聞いてなかったけど、まあ状況から考えて多分そうだろう。
「すみません、女の子はここから出てきてどうなったんですか?」
「どうなった? って、ああ、走って行っちゃっよな。なあ?」
「ああ。走って行ったな。向こうの方に」
と、村人の1人が森の方へと続いて行く道を指差した。
「あざっす!」
僕は、念のため穴の周囲を確認した。
こんなよく分からない場所を探し回ってもしちゃんとミツキちゃんを見つけられたとしても、ちゃんとこの穴の元に帰ってこられなければ意味が無いから。
そして、おあつらえ向きな目印を見つけた。
穴の後ろに3本大きな木があって、ミカンをデカくしたようなオレンジ色の実を沢山つけていたのだ。
丁字路の近くに大きな3本の木。
これをしっかり頭にたたき込んでから、森を目指して道を走り出した。
「ハァ、ハァ。思ったより遠いなおい!」
道を走っても走ってもなかなか森にたどり着くことができず、思わず口からグチがこぼれ落ちてしまった。
しかも、遠くから見たときは気付かなかったけど、ずっと緩やかな上り坂で、ちょっと前から傾斜がキツくなってきてもう足がパンパンだ。
と、その時。
「おっ、こりゃいいや」
ふと、道の脇に大きな杖が落ちているのに気がついた。
えらく仰々しい形の杖だが、坂道を上っていくのにこれは助かる。
そして、右手に持った杖で疲れを地面に受け流しつつ歩いていると、前方から戦士っぽい人がやってきた。
「あっ、すみません。途中で女の子とすれ違ったり──」
「ぎゃぁぁぁ!」
彼の前で立ち止まり、ミツキちゃんについて質問しようとすると、なぜかその戦士は悲鳴を上げながら僕の横を走って通りすぎてしまった。
「なんだありゃ……」
首を捻りながら、僕は再び歩き出した。
しばらく行くと、左の方に伸びる小さな脇道があった。
その道の先には切り立った崖があり、洞窟の入口みたいなものが見えた。
もしかして、ミツキちゃんはあの中に……いやいやないない。
あんなヤバそうな所に女の子が1人で入っていくなんて……
「わぁぁぁぁぁ!」
その時、女の子の叫び声のようなものが聞こえた。
いや、間違い無く女の子の叫び声。
そして、残念ながらその声はその洞窟の方から聞こえて来た。
まあでもそんなの良くあることだよなと僕は来た道をまっすぐ進……むわけには行かないよな。
「ふぅ。なんで来ちゃったかなぁ……」
ここに来て、いまさらながら異世界に通じる穴をくぐってしまったことに対する後悔の念が沸いてきた。
異世界だとかなんだとかって以前に、あんな怪しさ満点の真っ赤な穴に入るとかどうしかしてた。
コンビニ店員としての責任、親父からのプレッシャー……あと、ちょっと格好つけたかったってのも正直あったっけ。
しょうがない。
こうなったら、最後まで格好つけるしかないか。
僕は意を決して、暗い洞窟の中へと足を踏み出した。
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