第220話「偽者ヶ崎(下巻)」
「『お姉ちゃんを超えたい』か……」
「はい……センパイは分かりますかぁ~? 優秀な姉と自分の差を、常に周りから比べられる生活って……?」
「いや、俺には――って、それ普通にあるな……」
「え!?」
(ぇええええ! あるんですかぁあああぁ~!?)
「まぁ……立場が逆だけど、俺の場合は妹が優秀だからなぁ……。だから、妹が小学生に上がってからは、常に周りと比べられたな……。
例えば――」
『アンタさ……いつになったら、お友達を家に連れてくるのかな? 妹なんかは小一の時点で友達を家に連れて来てたよ……?』
『アンタ! 中学の通知表は三段階評価って嘘じゃない!? 妹の通知表にちゃんと「5」と「4」があったわよ!』
『このバカ息子! 何処に「発売日に漫画が買えないから」なんて理由で修学旅行を欠席しようとする子供がいるのよ!? ん?「ほら……貴方のすぐ目の前に――」って、そうじゃなぁああ――え?「あと、漫画じゃなくてラノベだ」って……そんなのどっちでもいいのよ! はい……?「でも、妹は行かないじゃないか」って、アホか! 妹が行くのは来年なんだから当たり前でしょ!』
「てな、感じで……何かと俺も出来の良い妹と比べられて、母親に理不尽なこと言われて大変な思いをしたっけなぁ……」
「えーと――話を聞く限り、理不尽なことを言っているのセンパイで、大変な思いをしたのはセンパイのお母さんな気もするんですけどぉ……」
(それって、どっちかと言うと……妹の出来が良かったというよりも、兄の出来が悪すぎただけですよねぇ~? でも、そっか――、
センパイもアタシと同じなんだ……)
「それにさ、姉ヶ崎はもう立派に姉を越えてるじゃん……」
「え、センパイ……?」
(それって――)
(だって、どうみても……姉ヶ崎妹の方が『胸』デカイもんな!)
「センパァ~イ? 一体、何処を見て言ってるんですかぁ~……」 じぃ~~
「安心しろ! お前の『おっぱい』は確実に姉を超えてる!」
「このセンパイ、マジで言い切りやがりましたねぇー!?」
(てか、それ立派なセクハラですよぉー! まぁ、センパイのことですから冗談なんでしょうけどねぇ~……)
「でもさ……その『おっぱい』だって立派なお前だろ?」
「いや、なんか良い感じに言ってますけどぉ……。センパイ、その話題まだ続けるんですかぁ?」
「ああ、逆に聞くけどさ? お前はその自分の『おっぱい』が姉の『エセ無乳パッド』なんかに負けていると思っているのか!」
「マジで続けるんですかぁー!?」
(いや、まぁ……流石にお姉ちゃんの胸には女として負けるのはありえないけどぉ――)
「でも、お姉ちゃんはアレでも周りにはご自慢の『
(――そう、だからお姉ちゃんはズルいんだよ。胸の大きさだけなら、私は朝倉センパイやお姉ちゃんにだって勝てるのに……)
「おい、姉ヶ崎妹……お前はバカか?」
「ちょっと、センパァ~イ? それってどういうことですか!」
「いやさ……その『周りの皆』ってのが姉ヶ崎会長の
「ちょ! センパイ、何でアタシのサイズ知ってるんですかぁー!?」
「なのに、お前はその勝っているはずの事実さえ『みんな』なんて、固有名詞すらなければ苗字すら貰えない空想の人物の妄言で、自ら否定しちゃってるんだよ?
気づけよ! 『みんな』なんて何処にもいないんだ……」
(だって『あとで皆に送るねー』って言われた中学校の頃の卒業旅行の記念写真。アレいまだに俺の所に届いてないからね……?)
「セン……パイ……」
「いいか? 姉ヶ崎……お前の姉ちゃんだって、俺だって、誰も――
お前のことなんか、大して気にしてないぞ?」
「……はい?」
「だって、お前は別に有名人でもなんでもないだろ? 朝倉さんみたいに『学校一の美少女』とか言われるならまだしも、俺なんてこの前の生徒会選挙まで姉ヶ崎会長の妹がお前だなんて知らなかったし、そもそも、生徒会長に立候補するまで姉ヶ崎会長を知らなかったくらいだからな!」
「いやぁ……それはただ単にセンパイが『ぼっち』だっただけじゃないですかねぇ~?」
「でも、俺のクラスの『山田と
「何ですかその絶対に関わりたくなさそうな集団はぁー!?」
(てか、センパイのクラスって個性的な人多すぎですよねぇ~……)
「そもそも、お前はどれだけ自意識過剰なんだって話だよ? 『人の噂も三日まで』って言葉知っているか?」
「センパイ、それ『人の噂も七十五日』です。二ヵ月半ほど短いですよ?」
「…………」
「…………」
シーン……
「し、知ってるわい! こ、これはだな……アレだ! 実際に人の噂なんて三日程度しかもたないって言う俺の言葉なんだよ!」
「センパイの言葉なんて一年のアタシが知っているわけないじゃないですかぁー!?」
「うぅ……だって、俺が生徒会長に当選した時なんか……三日もしたら、俺の名前なんか皆の記憶から消え去っていたんだよ……? 俺、あれだけ演説も頑張ったのに一週間ですれ違った下級生から『あ! 確か――あのぉ……せ、生徒会長だ!』って、言われて一ヶ月もすれば顔すら忘れられて、誰からも声もかけられない状態に……っ!」
「いやぁ~、それはドンマイですと言うしかぁ~……」
(まぁ、センパイって正直見た目は地味だし、生徒会は朝倉センパイとか石田センパイが有名すぎて影が薄くなるって言うかぁ~? ぶっちゃけ、副会長の二人に存在食われてますよねぇ……)
「つまり『みんな』なんて無責任な奴らは俺達のことなんか、三日もすれば何を言ったかすら覚えてないんだよ。だからな、姉ヶ崎――、
誰よりもお前を姉と比べているのは『お前自身』だよ……」
「――ッ!?」
(確かにそう……。センパイの言うとおり『みんな』なんてどこにもいない。アタシが『みんな』だと思い込んでいたのは、アタシが自ら生み出した偽者……。誰かが言った陰口を、皮肉を、それらを聞いてしまうたびにアタシの心の中の『
つまり『自分への自信のなさ』それが、アタシの心にいる『みんな』の正体――)
「安心しろ、姉ヶ崎。お前の『おっぱい』は本物だ!
だから、お前は『
「センパイってば……まだそれを言うんんですかぁ~」
(でも、そっかぁー……)
「フフ、だったらぁ――センパ~イ
「んなぁ!?」
(姉ヶ崎の胸が両手で挟まれることですごい谷間が!? 何このポーズ、エローい!)
(散々言ってくれた
「センパイ、どうですかぁ~?」
「ん? あ、あぁ……まぁ、ラノベの新刊についてくるポストカード並みにはいいんじゃないかな……?」
「えぇええ! 何ですかそれ? 比較が分からないですよぉー!」
(まぁ~、センパイの照れた顔も見れたしこれで許して――)
「お兄ちゃーん!」
「お、妹の奴やっと戻ってきたか」
(妹の奴、買い物に時間かかりすぎだろ……)
「えへへ~♪ お兄ちゃん、新しい服……どうかな?」
(思い切って、ちょっと大きいカーデにショートパンツであわせたんだよね~♪)
「おぉう……いいな! まるで、新刊のラノベに付いてくる特典カバーみたいにサイコーだぜ!」
「何その例え!? 言われて全然、嬉しくないんだけど!」
「ちょっと、センパーイ! アタシの時に比べて、例えに若干の差がありませんかぁー!?」
(アタシが、あんなに恥ずかしいポーズしたのに、なんで妹さんの方がビミョ―に例えが良いんですかぁー!)
「お兄ちゃん! 姉ヶ崎さんの言っていることって、どういうこと!? 私がいない間に何してたの!」
「なな、何もしてねぇよ!?」
「お兄ちゃん! 逃げないで説明して!」
「に、逃げてないしぃ~?」
「アハ
(でも――、
『だから、お前は
信じて、いいのかな……?)
「おい! 何立ち止まってるんだよ? ……いくぞ、姉ヶ崎
「…………はい! 待ってくださいよぉ~、センパ~イ
【次回予告】
「皆、いつも応援してくれてありがとう! 委員長よ♪
待たせたわね! 次回はついに、お待ちかね……私の出番よ!!
さーて、次回の『何故かの』は?」
次回 「開会式」 よろしくお願いします!
「じゃあ、いつもの『ペタリンじゃんけん』を始めるわよ! 出す手は決まった? もちろん、私は決めてるわ。じゃあ、いくわよ?
ペタペタ・ペタりん♪ じゃん・けん・ポン♪」
【パー】
「皆のコメント、評価、待ってるわ♪」
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