第208話「完璧な男」



「いいか、白銀。お前は白銀家の次期当主になる男として『完璧な人間』にならなければいけない。分かったな?」

「アハキラ! わかりました。父上」


「白銀さん、いいいですか? 貴方は白銀家の次期当主になるお人です。ですから……くれぐれも、決して『浮気』などするような男にはなってはいけませんよ……? 一人の女性だけを愛する『立派な男』になるのです」

「アハキラ! わかりました。母上」


(僕は幼い頃から実の父と母にそのように言われて育ってきた。

 白銀家は代々から伝わる名家で、白銀家にはいろんなルールが決まっていた。息子の名前を言わないのもルールの一つだ。フフ、可笑しいな家だろ?

 例え、相手が子供でも、跡を継ぐ子には名前でなく家名で接する。それは、白銀家の人間だけでなく、白銀家に使えるメイドや執事も一緒さ。

 白銀家の当主となる人間は、白銀家の者だけでなく、家に仕えるメイドから執事、そして白銀カンパニーの事業で雇っている社員達全員の人生を背負う責任がある。だからこそ、当主となる人間は白銀家の『個人』ではなく『白銀』の人間として育てられる。

 当主となる人間に隙なんてあれば、その『隙』は『白銀』の隙になるからね。それはつまり『白銀家』だけでなく、その家に仕える全員を危険に晒す隙となってしまう。

 だからこそ、当主となる人間は『完璧』でなければならないのさ!

 そのため、僕は幼少期から、ありとあらゆる英才教員を受けてきたのさ!)


「坊ちゃま、本日は茶道と礼儀、マナーと座学のお勉強でザマス。座学では昨日に引き続き初等教育の内容を行うでザマス」

「アハキラ! せんせい! きょうもよろしくおねがいしますキラ! ボクはねキラ! ざがくはねキラ! すこしニガテだけど、がんばるねキラ!


(正直、僕はあまり勉強が得意な方では無くてね。白銀家の教育では毎日、授業の内容を理解しているかテストが行われるが、僕の点数はどれも『70点』から『80点』くらいの成績だったのさ。

 ――ん? それなら成績はいい方じゃないのかって? ノンノン、白銀家の常識でそれは通用しないよ……何故なら、白銀家が求めるのは『完璧な人間』だ。

 つまり、白銀家でテストと言えば満点以外は全て赤点なのさ!)


「茶道のテスト『68点』礼儀、マナーのテスト『92点』座学のテスト『83点』ですか……坊ちゃま、これでは到底、白銀家の次期当主としては世に出せませんザマス! 白銀の名を受け継ぐ御方ならこれぐらいのテスト一日で満点を取るようにしてくださいザマス! こんなのでは奥様に合わせる顔がないでザマスよ!」

「アハキラ! ごめんねキラ! でもねキラ! ボクはニガイのがにがてだからねキラ! 次の茶道のテストはミルクがいいなキラ! それとねキラ! 座学はねキラ! 『えいご』のテストと『わりざん』がむずかしいよねキラ! でもねキラ! 『れきし』のないようはおもしろいよねキラ!

「はぁ……そうですか。では、次回はその部分の内容を重点的に教えるザマス。しかし、坊ちゃま? 何度も言っておりますが、その喋り方は少々品が無いでザマス! 坊ちゃまはその喋り方とところどころ『キラ!』っと歯の浮くような笑顔を撒き散らかさなければ『礼儀、マナー』においては完璧なので、治すようにしてくださいザマス!」

「アハキラ! でもねキラ! ボクは『ザマス』も同じだとおもうんだよねキラ!

「ざ、ザマ――ッ!?」


(僕にとって『完璧な人間』になるというのは、当たり前のことだった。完璧な人間にならなきゃいけないとか、完璧な人間になりたいなどと言う、気持ちは僕には存在しない。

 何故なら、白銀家の長男として生まれた時点で『そういうもの』だと思っていたからね。

 白銀家にとって『白銀』の名を受け継ぐ僕に、個人としての意思は関係ないのさ。だから、白銀の家では幼い頃から『白銀』の人間としての考えを教え込まされる。

 でも、それに反発するように話し方だけは個性的になっちゃったんだけどね? アッハッハッハ! まぁ、僕の出来が悪いこともあって、気付いた頃には僕は何事にも本気になれず、何をしようにも中途半端な結果しか出せない子供になってしまったのさ。

 ――ん? それが、何でこんな完全無敵の『リア充』になれたのか? え、そんなことは言ってない? アッハッハッハ! それくらい、従者君にも教えてあげるから、恥かしがらなくてもいいんだよ? 

 それはね……彼女と出会えたからさ!)



「では、これから白銀坊ちゃまの専属メイドまたは執事を決める試験を行います!」


(それは、忘れもしないあの日……早坂と初めて出会い『僕』という人間が本当の意味で生まれた日だった!)


「合格者の判定はここにいる白銀坊ちゃま自らが行います。各自、メイド、執事として自分だけが持つ『魅力』を白銀坊ちゃまにアピールするのです!」


(正直、僕にとって専属となるメイドや執事なんて誰でも良かったね。だって、誰が専属になろうが、やってくれる仕事は一緒なんだから問題ないじゃないか?

 だけど、僕のその考えは早坂に出会ったことで打ち砕かれたのさ!)


「……ん? キミは何もしない、のキラ!

「ふぇ――って、ぼぼ、坊ちゃま! ふ、ふぇぇ……は、早坂は『立派なメイド』にならないとダメなのです……でも、早坂はメイドの中でもドジで何もできないです……なので、何も坊ちゃまにお見せできないです……」


(その時、彼女は何をしていたと思うかい? 彼女、幼い早坂はね……『自分は何も見せるものがないから』って言って、部屋にあったベッドの中で、ふて寝をしていたんだよ! アッハッハッハ! あれは今思い出しても笑えるよね……しかもそれで、本人はベッドの中に隠れているつもりだったんだよ? いやいや、あれはどう見てもふて寝だったさ!


 そこで、初めて僕は気が付いたのさ……『彼女も僕と同じなんだ』ってね。


 今まで、僕は周りから『白銀の人間』としか、見られていなかった。誰も『僕』を見てはいない。だから、僕は『僕』を見ない周りに興味を持たなかった……でもね、それは『僕自身』も同じことだったのさ!

 この専属のメイド、執事を選ぶ試験で僕も彼、彼女らのことを『メイド』と『執事』としか見ていなかった。メイドにも執事にも『名前』があるのに僕は彼、彼女らを一人の人間としてみていなかったんだよ。

 自分の存在を認めてもらうにはます、僕自身が『誰』に見てもらうかを『意識』しなければいけなかったのさ!

 だから、僕は彼女にこう問いかけた)


「キミ、名前はなんていうの、かなキラ!

「ふぇ……わ、わたくしは『早坂』といいましゅ……」


(それが、僕と早坂の始めての出会い……そして、僕が『僕』という人間を始めて意識した日なのさ!)


「そうか、早坂か……良い名前、だねキラ! では、早坂! キミをボクの専属メイドに指名する、よキラ!


(それから、早坂のことを一人の女性として意識しているのに気付くのは……そう、遅くはなかった)


「ぼ、坊ちゃま……おはようごしゃいます……」

「おはよう。早坂は、今日も可愛い、ねキラ!

「そ、そんな……っ! 坊ちゃま、お戯れはお止めください……」


(そう、あれは中等教育を受けている時期だったかな? 僕はその頃になると自分の美しさに目覚めると同時に、早坂への恋心を自覚したのさ!

 え? 何でその二つを同時にこじらせたのか。だって? ハッハッハ! 従者くん、君は面白いことを言うね。そんなの簡単さ! よく考えて見るといい……

 まず、中等学校に入り僕が自分の美しさを自覚するだろう? すると、この世に一つだけ僕と同じ輝きを放つ存在に気付くのさ。そう、早坂だよ!

 僕はこの世の何よりも美しい存在なのに、何故か早坂だけは僕にとって僕の美しさと同じ輝きを放って見えるんだ……そして、僕はこの気持ちが『愛』という美しさだと言う事に気付いたのさ!)


「坊ちゃま。おはようございます……」

「ハロー♪ 早坂キララッ! 今日もボクはサイッコーに輝いている、ねキララッ!

「……坊ちゃま、お戯れはお止めください。朝のモーニングが冷めますので」


(その頃かな。僕は早坂を将来の伴侶にしようと思ったんだ。しかし、それには

大きな問題があった……

 ああ、早坂が『白銀家のメイド』ということさ。

 代々、白銀家は名家なだけあってね。生涯の伴侶となる者にはそれなりの身分が求められる。つまり、メイドや執事などは論外なのさ……もし、主とメイドが関係を持ったとなると、そのメイドは白銀家を追い出されてしまうからね。

 え? じゃあ、早坂を伴侶にするなんて無理じゃないかだって?

 ハッハッハ! 確かに状況は厳しいかも知れないね? でも、不可能じゃないさ! 白銀のルールが僕と早坂を分かつなら、そのルールを僕が打ち砕けばいい。僕は今まで白銀家が求める『完璧な男』になればいいと思っていたし、そうなるものだと思っていた。しかし、この時、僕は初めて明確な目的を持って『完璧な男』になりたい……いいや、なると誓ったのさ!)




「そう、この僕が白銀家が求める『完璧な人間』を超えた『完璧な男』になると、ねキラーン!

「ほぇ……あ、話し終わった?」


(やっと、坊ちゃまの話が終わったか。正直、結構大事なことを言っていた気もするんだけど……メイド通訳の早坂さんがいないと坊ちゃまの話って『ハッハッハ! ☆☆☆キラキラキラーン!』ばっかりで何を言っているのか全然分かんないんだよ……最初の方は何とか坊ちゃま語を脳内変換して頑張ってたけど、中盤からは完全に聞き流して適当に相槌打つだけだったかな……)


「ハッハッハ! やはり、君のような下界の者には僕みたいな『リア充』の民の悩みは少し難しかった、かなキラーン!

「まぁ、でも……つまり、アレだろ? 坊ちゃまは早坂さんを気に入っているけど、主とメイドが関係持つのはヤバイから、実家を黙らせるくらいの人間にならないとダメ……的な?」


(主人公が執事とかメイドとかのラノベでよくある展開だよな。主にピースログ文庫とかに多い気がする)


「ハッハッハ! 確かに、下界の君にも分かりやすく言うとそうなる、ねキラーン!

 そうさ! 僕はこの世の全てにおいて頂点を、取るキラーン! その為には『結果』が僕には必要なんだ……だから、僕は君の高校にいるという『リア王』を打ち倒し『完璧なリア充』という『結果』を手に入れる!

 つまり、今回の合同体育祭、僕は負けるわけにはいかない、のさキラーン!

「…………ん?」


(……あれ? 何かすげぇややこしい事に巻き込まれた気がするぞ?)




【次回予告】


「皆、いつも応援してくれてありがとう! 委員長よ。

 さーて、次回の『何故かの』は?」


次回 「生徒会(裏)」 よろしくお願いします!


「じゃあ、いつもの『ペタリンじゃんけん』を始めるわよ! 出す手は決まった? もちろん、私は決めてるわ。じゃあ、いくわよ?

 ペタペタ・ペタりん♪  じゃん・けん・ポン♪」 















































【グー】


「次回予告のタイトルは嘘予告になる場合もあるわよ♪」

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