第206話「立派なメイド」



「そんなわけで、早坂は坊ちゃまの専属メイドになることが出来たのです」

「なるほどね! それで、早坂さんは白銀くんを好きになったのね!」

「しかし、話を聞く限り昔のドジっ子さはもうまったく感じられないけどな……」


(個人的には、メイドはドジっ子属性を残しておくべきだと思うんだよなぁ……)


「そうですね。専属メイドに選ばれたあの日から、坊ちゃまとの『立派なメイド』なるという約束を果たすために、早坂は努力をしました――」


(坊ちゃまが選んだからと言って、専属メイドは誰でも良いというわけではありません。

 本来、白銀家の専属メイドはメイド修行を終えたと認められた実力のある者がなるのが大前提だったのです。

 ですが、次期当主である坊ちゃまの決定を無視するわけにもいかず……

 結果、当時メイド見習いだった早坂には急遽、専属メイドとして厳しい修行が行われることになりました。

 しかし、早坂にとってこれはチャンスでもありました。坊ちゃまとの『立派なメイド』なるという約束……それをかなえるためには今までのドジっ子の早坂ではいけないのです。

 ですから、早坂にはその厳しい修行は好都合だったのです。

 そして、専属メイドとして坊ちゃまのお世話をしながら、メイドとしての修行に、学業の勉強、メイドとしての嗜みとしてのお稽古と……日々、三時間程度しか睡眠をとることのできない過酷な日々が始まりました……)



『ぼ、坊ちゃま……おお、おはようごしゃいましゅ!』

『やあ! 早坂、今日はいい天気だ、ねキラ!



『早坂さん! 掃除がなっていませんよ!』

『ひ、ひぃい! めめ、メイド長! しゅしゅ、しゅみましぇん……』



『つ、疲れましゅた……もう、寝なきゃ……早坂は立派なメイドに……なるんでしゅ――』


(最初はとても大変でしたが、早坂が十歳になる頃にはその生活にも慣れました)


『ぼ、坊ちゃま……おはようごしゃいます……』

『おはよう。早坂は、今日も可愛い、ねキラ!

『そ、そんな……っ! 坊ちゃま、お戯れはお止めください……』



『早坂さん? 玄関の掃除はどうですか?』

『は、はい! メイド長。先ほど終わりましたので、今は客間の清掃に取り掛かっています……』

『フム……良いでしょう』



『はぁ、疲れた……明日も早いし寝ないと……フフ、早坂は立派なメイドになれて――』


(そして、早坂と坊ちゃまは共に中等学校に入り――中二になって、坊ちゃまのナルシストが開花しました)


『坊ちゃま。おはようございます……』

『ハロー♪ 早坂キララッ! 今日もボクはサイッコーに輝いている、ねキララッ!

『……坊ちゃま、お戯れはお止めください。朝のモーニングが冷めますので』



『メイド長。坊ちゃまにブルーライトで光るセンスのある扇子、などと言う明らかなガラクタをお与えになるのはやめてください。資源と資産の無駄遣いです』

『で、ですが……早坂さん? 坊ちゃまが欲しいと――』

『坊ちゃまの言葉を真に受けないでください! あれはその日の気分で言っているにすぎません! メイドなら、主の指示を真に受けて動くのではなく、主のためになる行動を考えて動くようにしてください!』



『……はぁ、疲れました。胸の成長には睡眠が大事だと聞きますし、早く寝るといたしますか……フフ、早坂が立派な巨乳になれば坊ちゃまも――』


(さらに、月日は流れ……早坂と坊ちゃまが高等学校に進学した現在では――)


『坊ちゃま。何で起きちゃうんですか……』

『グッドモーニング♪ 早坂キラーン! ハッハッハッハキラーン! 何で今日も僕という太陽は昇ってくるのか、だってキラーン! ハッハッハッハキラーン! それは、ねキラーン!

 この僕がサイッコーに輝いているから、さ☆☆☆☆☆☆☆キラキラキラーン!

『坊ちゃま、寝言は寝ている間に言うものです。早坂が作ったお味噌汁が冷めますゆえ、早く目を覚ましてくださいませ』



『メイド長……? 本日の坊ちゃまのご予定にキャンプで富士山を見つけると、ありますが、これは私の耳に入っていませんよね……?』

『す、すみません! メイド長代理にお伝えしようとしたのですが、坊ちゃまがメイド長代理の早坂様には内緒にして欲しいと言われ……』

『はぁ……どうせまた坊ちゃまの気まぐれでしょう。いいです、この予定は早坂が適当な場所を見つけて坊ちゃまと二人で行くこととします……』

『し、しかし、坊ちゃまは今回は一人で探しに行くと――』

『メイド長には以前も言いましたが……メイドとは主の指示で動くのではなく、主のために考え行動することが仕事です。そして、早坂は坊ちゃまの専属メイドなのですから、坊ちゃまに関する事は日々の出来事から下着の種類、色まで全部包み隠さずに、この早坂に報告してください。もし、坊ちゃまが「早坂には内緒だ、よキラーン!」などとほざいた場合は「内緒と言われた」ことも含めて報告すればいいのです……』

『で、ですが、メイド長代理――』

『今度はラベンダーの香りですか』

『――っ!?』

『……分かりましたね?』

『は、はい……』



『はぁ、これでやっと寝れますね。三時間後には起きて朝のお味噌汁を作らないと……しかし、美味しい味噌汁さえ作れたら巨乳でなくても殿方は落ちると聞きましたが……この噂ははたして本当なのでしょうか? ……フフ、早坂が坊ちゃまの立派なお嫁さんに――』



「――っと、言うわけで現在に至ります……」

「目標が摩り替わっているじゃねぇか!?」

「安藤さま、何を仰るのですか? 目標なら既に早坂は『ドジっ子』を卒業して『立派なメイド』になっております。その証拠に、早坂はメイド長代理としてメイドと執事達を束ねる白銀家のメイドナンバー2のポジションをいただいておりますゆえ」

「話を聞いていた感じだと、既にナンバー1を食ってる感満載だったけどな……」


(てか、白銀家のメイド事情が凄い気になるな……特にメイド長と旦那様の関係とかどこかの家政婦さんが喜んで見にきそうだし……)


「でも、早坂さんは凄いのね! だって、私達と同い年なのにちゃんと『立派なメイド』になるって約束を叶えているんだもの!」

「早坂も必死でしたので……過去にダメな私を求めてくれた坊ちゃまとの約束を守るため日々精進しました。幼いころからドジっ子だった性格を直し、メイドの嗜みとして『料理』『炊事』『茶道』『華道』『花嫁修業』『漢字検定一級』『剣道八段』『柔道七段』『TOEIC700点』などあらゆる資格、習い事を極め、気づいた時には――

 坊ちゃまを置き去りにして『立派なメイド』になってしまったのです……」


「「あぁ……」」


「ですから、お二人には早坂に協力してほしいのです」


「「協力?」」


「はい。坊ちゃまはああ見えても責任感のお強い方です。白銀家の次期当主というお立場と、家の名前だけで成り上がった北都高の生徒会長というお立場から、周囲にその身分に見合うだけの『実績』を求められています。中でも今回の合同体育祭は例年北都高が勝ち越していることで有名ですので、もし今回の合同体育祭で坊ちゃまが指揮を取り負けるようなことがあれば……」

「早坂さん、貴方まさか――」


(私達にこんな話をしたのも、同情をよそってワザと負けてもらうために……)


「なるほど……事情はわかったよ。でも、その話を俺達がそう簡単に飲むと思うの?」

「あ、安藤くん! でも!?」

「朝倉さん。悲しいけど、これ合同体育祭なんだよね……」


(残念だが文部科学省の依頼でもない限り、俺にそんな言葉は利かないぜ?

 何故なら、安藤政権はクーリンでホワイトな生徒会だからな!)


「……因みに、安藤さま。貴方が南都高の本当の生徒会長なのは調べがついております」

「何っ!?」

「そして、朝倉さんとお付き合いされていることも、早坂はすでに知っております……」

「ほへ!? な、何でなの! 私達の演技は完璧だったのに……!?」

「当然、このことはまだ坊ちゃまにはお伝えしておりません。しかし、これを知ったら坊ちゃまはどうするでしょうか……? 周囲から白銀家の次期当主として『立派な人間』になることを求められ、ナルシストを拗らし、それを『立派なリア充』になればいいとアホな解釈をした坊ちゃまが知ったら……南都高校で『学校一の美少女』を彼女にして『生徒会長』にまで成り上がった『リア王』そんな人間を見つけたら、あの坊ちゃまのことです……絶対に四六時中ウザイほどに付きまとわれることでしょう……」

「よし、俺達は早坂さんに全力で協力させていただきます!」

「ちょ、安藤くん!?」

「……あ! 因みに、坊ちゃまに付きまとわれると、デートなどしている暇が無くなると、早坂はご忠告させていただきます」

「是非、早坂さんに全面的に協力さていただくわ!」


((あの男に付きまとわれるのは嫌すぎる!))


「ご快諾いただき、まことにありがとうございます……因みに、このことに関しては早坂の方で情報を止めておりますのでご安心ください」

「とても、安心できるような発言じゃないんだよなぁ……」


(だって、それ裏切ったらいつでも坊ちゃまにバラすってことだろ? それどころか、このメイドなら、俺達が通じていたことをウチの学校にバラして生徒会をリコールさせる可能性すらある)


「でも、そうなるとどうやってワザと負けるかが問題よね……だって、合同体育祭なんて私と安藤くんだけで勝敗をコントロールするなんて難しいわよ?」

「確かに、朝倉さんの言うとおりだね……ウチの学校の生徒に八百長だってバレても困るし、なるべく自然と北都高が有利になるようにしないといけないのか……」

「……あの、お二人とも少し勘違いをされてはいないでしょうか……?」


「「勘違い?」」


(俺達――)


(私達――)


((あまり、勘違いなんてしないけど……?))


「早坂さん、勘違いって何かしら?」

「俺達の学校がワザと北都高に負けるように協力すればいいんじゃないの?」

「いえいえ、逆です。むしろ、坊ちゃまの北都高を完膚なきまでボコボコにして、南都高の方に勝ってほしいのです」


「「何で!?」」


「は、早坂さん……? それじゃ、白銀くんは周囲の期待に応えられなくて困るんじゃないかしら!?」

「ええ、そうでしょうね……」

「だって、白銀も生徒会長の『実績』が必要なんだろ!?」

「そうですね……下手したら生徒会長を辞任するかもしれません」


「「じゃあ、何で!?」」


「ズバリ、早坂の目的がそれだからです。

 早坂が参考書で調べた情報によりますと、相手が弱っている時に優しく手をさし伸ばすのがもっとも、異性を落とすのに効果的なのです。ですから、合同体育祭で坊ちゃまをボコボコに叩きのめし、弱っているところに、この早坂が弱った坊ちゃまを優しく包み込みゲットする……っ! これが、早坂の考えた中でもっとも勝率の高い方法なのです」

「ぇぇ……」

「なるほどね……」


(確かに……私も風邪で弱っているところに、安藤くんのお見舞いでコロっといっちゃったから、それは一理あるわね)


(……なんだろう。聞いてて『ポ●モン』の捕まえ方みたいだと思ったのは俺だけかな?)


「それに、坊ちゃまはアホが付くほど朴念仁なので、このままでは早坂の気持ちに気づくことなどありえないでしょう……もし、気づいたとしても、早坂は所詮メイドです……主である坊ちゃまが気づいてくれても周囲が認めることは決してありません…………」


「「あぁ……」」


(なるほどね……)


(は、早坂さん……)


「ですから、こうして外堀を埋めております……」


「「意外とゲスかった!?」」





【次回予告】


「皆、いつも応援してくれてありがとう! 委員長よ。

 さーて、次回の『何故かの』は?」


次回 「立派な男」 よろしくお願いします!


「じゃあ、いつもの『ペタリンじゃんけん』を始めるわよ! 出す手は決まった? もちろん、私は決めてるわ。じゃあ、いくわよ?

 ペタペタ・ペタりん♪  じゃん・けん・ポン♪」 















































【グー】


「次回予告のタイトルは嘘予告になる場合もあるわよ♪」

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