第205話「私の立派なご主人様」



「……え『デート』って――でも、白銀くんは……」

「はい、坊ちゃまご自身は私の適当なアドバイスを真に受けて、これは『デート』でなく『リア充を極める勉強』などと言う頭のおかしい戯言を本気で信じております」


「「うわぁ……」」


「あれ? でも、それじゃあ……早坂さんは白銀くんのことを――」

「はい、私は坊ちゃまのことを一人の異性として愛しております」


「「あ、愛し――!?」」


(ウキャァ~~! 早坂さんったら『愛している』って――だ、大胆すぎでしょぉ~!)


(ば、バカな……ッ! あ、朝倉さんの考えが……当たっていた――だと!?)


「え、でも……あのお坊ちゃまの一体何処が……いいの?」

「そうね! それは私も気になるわ!」

「うんうん……」


(やっぱり、財力に惹かれたのかな……?)


「正直……坊ちゃまの素晴らしさは、他の人には広めたくなのですが……」


「「メイドなのに!?」」


「ええ……だって、私以外の人が坊ちゃまの魅力に気付いたら大変ではないですか?」

「…………」


(あれ? この早坂ってメイド……意外と『坊ちゃまバカ』をこじらせてるのかな?)


「――ですか、朝倉さんは私の盟友貧乳仲間ですし……お二人には事情をお話させていただきたいと思います。

 まず、始まりは私が白銀家に仕えるメイドとして見習いを始めた八歳の時でした――」



八年前


「早坂、貴方は早坂家の長女として、白銀家に仕える立派なメイドになるのですよ? 貴方の使命はただ一つ……白銀坊ちゃまの『専属メイド』になることです。良いですね?」

「ハ、ハイ……わかっておりまちゅ。お、おばあちゃま……」

「はぁ、この子で本当に大丈夫かしら……? 他の家の子はどの子も優秀で子供も多いから各家から坊ちゃまのメイド、執事候補の子が四、五人は出るって言うけど……なのに、何でウチの家はこんな時期に一人しか孫が出来なかったのかしら……。スッポンが足りなかったのかしらね?」

「……? お、おばちゃま! は、はやさかはガンバリます! だ、だから……スッポンにのったつもりで待っていてくだちゃい!」

「早坂……貴方って子は……でもね? 気持ちは嬉しいけど、スッポンは乗るものじゃなくて、咥えるモノなんだよ」

「……?」




「下ネタかよ!」

「きゃ! あ、安藤くん、いきなりどうしたの……?」


(今の話に何か変な所でもあったのかしら……?)


「安藤さま、落ち着いてください。この早坂、まだ話の途中でございますゆえ」

「え! 何この流れ……お、俺が悪いの?」

「では、話に戻らせていただきます……しかし、おばあさまが懸念されるにも理由がありました。それは――」




「ふ、ふぇええ~!」 ガシャーン! ← 皿が割れる音

「早坂さん!」

「ふぇぇー……」 パリーン! ← 壺が割れる音

「早坂さ~ん?」

「ふぇぇ~イ!」 ドカーン! ← 電子レンジが爆発する音

「は、早坂さーーん!?」




「――そう、早坂は洗い物をすれば、綺麗にした皿より割れる皿の方が多くなる。掃除をすれば、綺麗にした床の上で壺を割る。料理をすれば、必ず何かが爆発する……などと、何をやっても失敗する――超絶な『ドジっ子』だったのです」

「嘘……今の早坂さんからは想像も出来ないわね……」

「てか、料理で爆発を起こすのは『ドジっ子』で済まして良いのか……?」

「そんな訳で、坊ちゃまの専属メイドに早坂が選ばれる可能性は……とても、とても低いものだったのです」

「でも、早坂さんは白銀くんの専属メイドになれたのよね?」

「今の話を聞く限りではとてもそうには思えないけどな……」

「フフ、そうですね。そして、それこそ……早坂が坊ちゃまをお慕いしているもっとも大きな理由なのです。

 そう……あれは、坊ちゃまの専属メイドを決める試験の日の出来事でした――」




「では、これから白銀坊ちゃまの専属メイドまたは執事を決める試験を行います!

 試験方法は簡単、掃除が得意な者はこの部屋を隅々まで綺麗にしても良し、料理が得意な者は自分が作れる料理を坊ちゃまに提供しても良し、各自、自分に出来るアピールをこの場で行ってください。

 合格者の判定はここにいる白銀坊ちゃま自らが行います。各自、メイド、執事として自分だけが持つ『魅力』を白銀坊ちゃまにアピールするのです! では、坊ちゃまから一言お願いします」

「アッハッハ! みんな、こんにち、はキラ! 今日はいい天気だ、ねキラ! ボクが白銀坊ちゃまだ、よキラ! 大好きなたべものはカレーとハンバーグだ、よキラ! あとねあとね! きのうは庭にネコさんがいたから一緒に寝んねしたんだ、よキラ! あとねあとね! カレーは――」

「ぼ、坊ちゃま……一言です! 一言で十分です!」

「甘口が好きなんだけど、ねキラ! ママンが中辛くらいたべれるようになりなさいって――」

「ぼ、坊ちゃま……? だから、もう十分でですから!」

「あ! っでも、ねキラ! 実はパパンもカレーが大好きなんだけど、ママンには内緒でボクと同じ甘口をこのメイド長に――」

「おい、コラ! 黙れって言ってんだろ、バカちゃま!」


『………………』 ← メイド、執事一同


(((こんな奴に仕えて、大丈夫かな……)))


「……で、では、始め!」


「坊ちゃま! 私は料理が得意ですので坊ちゃまのお好きなカレーをお作りしました! もちろん、ボンボンカレーの甘口です!」

「うん! 美味しい、よキラ!


「坊ちゃま! 私は掃除が得意なので、この部屋を隅々まで綺麗にいたしました! もちろん、掃除道具はダスボン! タンスにはボンです!」

「うん! とても綺麗、だねキラ!


「坊ちゃま! 俺はスポーツが得意です! 今日は天気が良いので外で一緒に蹴鞠けまりでも、どうでしょうか? もちろん、フェアプレイを心がけます!」

「うん! 楽しそう、だねキラ!


「坊ちゃま! オイはネコちゃんのマネが得意でごわす! よければ、オイをネコちゃんだと思って一緒に寝んねして欲しいでごわす!」

「うん! それはお断り、だねキラ!


「ふ、ふぇぇ~みんな凄いよぉ……わ、わたしも何かアピールしなくちゃ……」


(……でも、私はみんなほど料理も掃除も上手くないし……せめてネコちゃんのマネなら――ふぇぇ……わたしがそんなことしても坊ちゃまが喜ぶとは思えないよぉ~……)



「……ん? キミは何もしない、のキラ?

「ふぇ――って、ぼぼ、坊ちゃま! ふ、ふぇぇ……は、早坂は『立派なメイド』にならないとダメなのです……でも、早坂はメイドの中でもドジで何もできないです……なので、何も坊ちゃまにお見せできないです……」

「ふーん……それは奇遇、だねキラ!

「き、きぐぅ……?」

「ああ! なぜなら、ボクも何もできないから、ねキラ! パパン、ママンからは『立派な人間になりなさい!』って、すっぱい口で言われるけど! 口がすっぱいのはここのメイド長とパパンの方だし、ねキラ!

「ぼ、坊ちゃま!? 何を言っているのですか! それはただの加齢臭のことですよね!? けけ、決して私と旦那様の口臭の匂いが同じなどと言う意味では――」

「キミ、名前はなんていうの、かなキラ?

「ふぇ……わ、わたくしは『早坂』といいましゅ……」


(ふぇぇ……早坂、なにかわるいことしたのかなぁ……)


「そうか、早坂か……良い名前、だねキラ! では、早坂! キミをボクの専属メイドに指名する、よキラ!

「ふへ……ふ、ふぇぇえええええええ!?」


『はぁああああああああああああ!?』 ← その他メイド、執事一同


「ぼ、坊ちゃま!? この子は候補者の中でも一番の落ちこぼれです! なのに、どうして!?」

「あれ? でも、メイド長が判定はボクが決めていいっていったんだよ、ねキラ?

「そ、それはそうですが……しかし――」

「因みに、メイド長はレモンの香水が好きみたいだけど、ねキラ! ボクは、ねキラ! あの香水は匂いがキツすぎて、すっぱい匂いしかしないんだよ、ねキラ! でも、ねキラ! 最近はパパンからも同じ――」

「――のわぁああああああああああ! ぼぼ、坊ちゃま、分かりました!

 では、坊ちゃまの専属メイドは! メイド見習いの早坂に決定します!」


『うぇえええええええええええええええ!?』 ← その他メイド、執事一同


「ふ、ふぇぇ……坊ちゃま? どうして――」

「うむ! それは、早坂がボクと似ているから、ねキラ!

「ふぇ、似ている……?」

「そう、さキラ! ボクもドジなのか習い事をするんだけど、何も出来なくて、ねキラ! だから、早坂……ボクと一緒に『立派な人間』になろう、よキラ!

「ふぇ、坊ちゃまと……一緒にですか?」

「そう、さキラ! ボクは『立派な男』にキラ! 早坂は『立派なメイド』に、ねキラ!

 ボクたちは何もできないけど、二人ならなんかできそうなきがするよ、ねキラ!

「ふぇぇ……でも、早坂はドジなので足手まといになると思います……なのに、どうして……」


「どうして? あははキラ! そんなの――

 その方が楽しそうだから、さキラ!





【次回予告】


「皆、いつも応援してくれてありがとう! 委員長よ。

 さーて、次回の『何故かの』は?」


次回 「求める理由」 よろしくお願いします!


「じゃあ、いつもの『ペタリンじゃんけん』を始めるわよ! 出す手は決まった? もちろん、私は決めてるわ。じゃあ、いくわよ?

 ペタペタ・ペタりん♪  じゃん・けん・ポン♪」 















































【チョキ】


「次回予告のタイトルは嘘予告になる場合もあるわよ♪」

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