第155話「真価」
「ぜ、全トイレのウォシュレット設置……?」
(ああ、安藤くんったらなんてバカな事をマニフェストにしてるのよぉおおおおおおおおおおお! これだったら、まだマニフェストだけでも先に打ち合わせして、私が考えた【私物の持込制限緩和】をマニフェストにさせた方が全然マシじゃない!)
「「「…………」」」 ポカーン ←会場中の生徒
「…………」
(流石の生徒も安藤くんのマニフェストが突拍子もなさすぎて固まっているわね……安藤くん、貴方この状況どうやって巻き返すつもり?)
『だって、皆も良く考えたらおかしいと思わない? この学校でウォシュレットが設置されているトイレって全部で職員室の廊下にあるトイレだけなんだぜ? でも、職員室の廊下のトイレって生徒が使うと思う? 使わないだろ!
つまり、この学校でウォシュレットの加護を受けているのは教師だけなんだ!』
「「「な、何だってぇええええええええええええ!?」」」 ←会場中の生徒
「…………」
(言われて見ればなんか不公平ね……てか、そもそも、この学校にウォシュレット付きのトイレがあったことすら、私は知らなかったわよ)
『皆! こんな不公平……いいや、権力の横暴が許されると思うか!? 奴ら教師は自分達が権力者なのをいい事に自分達のトイレだけウォシュレットを付けて、俺達にはウォシュレット機能の無いトイレを与え、ウォシュレット機能でケツを洗いながらウォシュレットの無い俺達をあざ笑っていたんだ!』
「「「え、ちょ!? まっ――」」」 ←会場中の先生達
「「「な、何だってぇええええええええええええ!?」」」 ←会場中の生徒達
「許せねえ! 教師の奴らなんて汚いんだ!」
「アタシ信じてたのに……っ! 先生達もウォシュレットの無い環境で我慢してるって信じてたのに!」
「ウォシュレットちほーの住民なんだね!」
「先生達の裏切り者ぉ――っ!」
「「「違ぁ――う!」」」 ←会場中の先生達
『だからこそ、俺は戦う! この学校の全てのトイレをウォシュレット機能付きに変える為に! 全てのトイレを平等にするために! 生徒も、教師も皆が分け隔てなく……ウォシュレット機能付きのトイレを利用できる未来の為に俺は戦う!
そう、生徒達の
「「「うぉおおおおおおおおお!」」」 ←会場中の生徒達
「――って、なんじゃそりゃあああああああ!?」
(安藤くん!? 貴方のマニフェスト本当にそれでいいの!? なんか勢いでカッコいい事言っているように聞こえるけど、所詮は『ウォシュレットのトイレ欲しいです!』って言っているだけだからね!? しかも、何故か無駄に先生達を敵に回しているし!)
『皆ぁあああ! ウォシュレット機能のトイレ欲しいかー?』
「「「うぉおおおおおおおおお!」」」 ←会場中の生徒達
『脱臭機能も欲しいかー?』
「「「うぉおおおおおおおおお!」」」 ←会場中の生徒達
『快適なトイレが欲しいかー?』
「「「うぉおおおおおおおおお!」」」 ←会場中の生徒達
「…………」
(だから、何よこれ!? これ本当に生徒会長選挙のスピーチなの!? なんか、私が想像した中で史上最低のスピーチになってない!
あれ? でも……いつの間にか皆、安藤くんの話をちゃんと聞いて――)
「ふぅ……」
(咄嗟に思いついたマニフェストにしては何とか場の空気を摑むことに成功したな……しかし、それでも、今のマニフェストで空気に乗ってくれたのは全体の三分の一程度……逆に言えば三分の一の空気を支配する事には成功したはず。なら、後は傍観している三分の二の奴らの心をどう動かせるかが重要だ。
大丈夫、一年間ぼっちとして周りの奴らを観察していた俺には分かるはず、集団を動かすにはまず周りの空気を支配する事が重要。そして、さっきのマニフェストで俺に興味を持っていなかった奴らに興味を持たせることには成功した。
なら、勝負はここから!)
『正直、この皆の中には俺を支持していない奴が大半だと思っている。それもそうだよな。だって、俺が生徒会長に立候補した理由は簡単に言っちゃうとすごい自分勝手で……つまり、俺は自分のために生徒会長に立候補したんだ』
「「「…………」」」
「…………」
(安藤くん、何を言い出すつもりなの……?)
『なぁ、皆は友達の名前を何人言える?』
「名前って……」
「はは、そんなの普通に言えるよな?」
「あぁ、まぁな……」
「だよな……」
『じゃあ、実際に誰かその場で何人か「友達」の名前を言ってくれない?』
「「「え…………」」」 シーン
『はは、だよな? 正直、俺だって一人も言えないさ』
「「「…………」」」 ざわざわ
『ゴメンな。こんな奴が生徒会長になりたいとか言って……でも、本当のことなんだ。だって、俺は――』
(『ぼっち』だから……)
『俺は自信が無い。ここで俺が「友達」だと思っている人の名前を挙げる自信が無い……だって、もし俺がその人達の名前を言ってその人に「え?」って顔されたらショックだろ? 俺はそれが怖いんだ。だから、今まで「友達」なんて最初からいなくていいと思ってた』
(でも、こんな俺を応援してくれる人達がいる)
『だけど、それは間違いだった。気づいたら、俺の周りにはいつの間にかいろんな人達がいて……その人達はこんな俺を助けてくれたり、元気をくれたり、応援してくれる。そんな人達が俺の周りにはできていたんだ』
(そう、本当は気づいた。自分が「ぼっち」じゃないなんて気づいていた……でも、失うのが怖かった。これは一時的なモノで……そのうち皆が俺に愛想をつかしてまた「ぼっち」に戻るのが怖かったんだ。だから、最初から「ぼっち」のままでいれば傷つくことなんてないと俺は逃げていた)
『でも、俺はその人達のことを「友達」だって、言える人間になりたい!』
「「「…………」」」
『否定されることを恐れる自分じゃなく、肯定することのできる自分になりたい!
挨拶をされる側じゃなくて、挨拶をする側になりたい! 話題を返す人じゃなく、話題を振る人になりたい! 相談をするんじゃなく、相談をされるような人になりたい! 俺は……俺はこんな自分を変えたい!
それが、俺の生徒会長に立候補した理由だ』
(俺の周りは朝倉さんのおかげで変わった。でも、その中で唯一変わらなかったのは俺自身だ。別に、朝倉さんは俺は俺のままで無理に変わる必要はないって言うけど……それでも、俺は主人公になりたい。だって、平凡な高校生が主人公に変わろうとするきっかけは……いつも、ヒロインのためだからな!)
『朝倉さん! 桃井さん! 委員長! 吉田! 沢渡! 石田! 藤林さん! あと、ついでに山田! 俺は……皆のことを友達だと思っている。いや! 皆、俺の友達だ!』
「安藤きゅん!」 スカーン!
「もう~、安藤くんだなー」
「はぁ……安藤くんは仕方ないわね」
「アイツ……安藤の奴……ようやく俺をハゲって言わなくなって……」
「ウェーイ!」
「フン! 僕はただ、ライバルとして認めただけだからな……」
「もう、石田くんったら素直じゃ無いんだから~」
「おう、安藤! 俺達マブダチだもんな!」 『いや、そこまでではない』 キッパリ!
(俺は変る! こんな俺でも変われるって……この選挙で証明する!)
『もし……もし、こんな俺が当選できたら皆も信じてくれないか? 変われるって!』
(俺は学校なんてつまらないと思ってた。でも、一歩踏み出せばこんなにも楽しい場所なんだ! それなのに俺は今まで自分で否定していた)
『俺に賭けろ!』
「「「――ッ!?」」」 ザワッ!
『皆が持っているのはたった一票だ。それは誰に投票しても同じ一票かもしれない……でも、俺にその一票を賭けてくれれば、俺はその一票を何倍にもして返してやる!』
(俺の支持率は低い……だから、これでも当選するにはまだほど遠い。なら、自分のオッズを上げればいい!)
『このまま、無難に投票して何が変わる!? 皆のその一票は一体何を変えられる? 今まで選挙で投票して何か変わったか? 何も変わらなかっただろう!?』
「ちょ! 安藤、貴様! 失礼だぞ! 姉ヶ崎会長だって――」
「「「た、確かに……」」」 ←会場中の生徒達
「――って、何ィイイイイイイイ!?」
『だろ! どうせ、だれに投票して自分には関係ないって思っているんだろ? たかが自分の一票で何も変わらないと思っているんだろ?
だけど、俺は違う! 俺が証明してやる! 誰でも変われるって! 誰にでも変えることができるって!
俺は生徒会長になったら、この学校を皆が卒業する時に「楽しかった!」って言えるような場所に変えてやるよ!
だから、俺に賭けろ! その一票を俺に賭けろ!
もし、俺が生徒会長になったら全教室にクーラーを付けてやる! トイレも全部変える! 女子は足にかけるひざ掛け持ち込み許可するし、男子だって要望があれば聞いてやる! 全部やってやるよ!
いいか? 俺に賭けろ! その一票で無難に賭けるなんてつまらない!
どうせ賭けるなら、俺に賭けろ!
お前達が持っている一票はリスク無しで挑戦できるギャンブルなんだよ!
なら賭けなきゃ損だろ! なのに、これで賭けないでどうするんだ!?
選べ! その一票を俺に賭けて、あの時に賭けてよかったと思える未来を手にするのか!? または、賭けないで、無難な未来を手にするのか!?
俺は変わる!
だから、皆も俺を選べ!』
(言った……言いたいこと全部言ったぞ……皆の反応は――)
「「「……………………」」」 ざわざわ……
(あ、あれ……もしかして、引かれた? ヤバい! 流石に熱くなりすぎたか!? このまま反応が無いと確実に滑った空気に――)
「いよぉおお! 安藤ぉおおおおおおおおお! よく言ったぁああああああああああ! 感動したぞぉおおおおおお! 俺は! 俺はぁぁ……お前だ! お前だ! お前だ! お前に賭けるぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
(この耳障りな大声は――山田!)
「「「う……うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
『うわっ!?』
「何今のスピーチ!? めっちゃ熱かった!?」
「マジヤバーイ! めっちゃウケル! でも、面白そうだよね?」
「すごーい! たーのしーそう!」
『…………』
(皆……山田につられて……?)
「いっしゃぁあああああああああ! 皆! 安藤を応援して安藤コールだ! いくぞおおおおおおおおお!」
「「「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
「安藤! 安藤! 安藤! うぉおおおおおおお!」
「「「安藤! 安藤! 安藤! うぉおおおおおお!!!!」」」
「まったく……山田のバカったら」
「ほら! 委員長も一緒に!」
「うるさいバカ! 私抜きでやってなさい!」
(本来……選挙に強い人物とは一体どのような人物だろう?
まず、一つ目に『人望』がある人が望ましいと私は思う。そもそも、生徒会長は選挙によって選ばれるのだ。だからこそ、選挙で勝てるような多くの生徒に認知されている『人望』のある人物が最低条件だと思う。
次に、二つ目『成績』が良い生徒であるべきだ。生徒会長と言う以上は生徒の上に立つ者としてある程度『成績』が良く無ければ選挙で勝ち抜くことは厳しいだろう。
そして、最後……私は先ほどの二つより、これが一番重要だと思っている。
それは『カリスマ』だ。
多くの有権者に人気が無くとも、ただ勉強が出来なくても、時に選挙というのは劣勢の人物が持っている『カリスマ』だけでその場を支配してしまう事がある。
そういう『カリスマ』というのは目に見えないからこそ、人が『言葉』として形にした際に思いもよらない『真価』を見せるのだ。
だからこそ『カリスマ』を持っている人が選挙ではありえない強さを見せる。
さて、以上を踏まえた上で……それに該当する『生徒会長』にふさわしい人物は誰かと言うと――)
「うぉおおおおおおおおおおおおおお! 皆、もう一丁ぉおおおおお!」
「「「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
「安藤! 安藤! 安藤! うぉおおおおおおお!」
「「「安藤! 安藤! 安藤! うぉおおおおおお!!!!」」」
「フフ、本当に……バカね」
『はーい! 皆さーん♪ 安藤くんのスピーチは終わりましたので静かにしてくださいねー? じゃないと、司会のメガネちゃんがとーっても怒りますよー?』
「「「はーい!」」」
「「「キャー、メガネちゃーーん!」」」 ←観客の生徒達
『はーい! メガネ部の皆~、声援ありがとうね♪ でも、静かにしないとぶっ飛ばすよ~♪』
「ふぅ……マジ疲れた……」
「安藤くん、お疲れさま」
「ああ、委員長。ありがとう……でも、まだ終わってないぞ」
「ええ、そうね……」
『はーい! では、やっと会場も落ち着いてきたところで……はい! 本日最後の立候補者の登場でーす♪』
(そう、俺が終わったという事はついに彼女の番が来たという事だ。
この選挙で一番の当選候補……そして、俺の彼女であり、この選挙のラスボスというべき存在!)
『では、どうぞ! 最後の立候補者は誰もが知る、この学校で一番の美少女――そう! 朝倉さんでーす♪』
「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
「「「「「キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! 朝倉さぁあーーん!」」」」」
「ハハハ……やっぱり、朝倉さんの人気はヤベぇな」
「石田くんがまるでゴミのようね……」
(そして、ついに朝倉さんのスピーチが始まる……)
『どうも、応援ありがとう。朝倉です♪』
【次回予告】
「皆、いつも応援してくれてありがとう! 委員長よ。
さーて、次回の『何故かの』は?」
ついに
そして、彼女が打ち出す驚愕のマニフェストとは!?
次回、何故かの 「究極完全態・
生徒会選挙……決着!
* 次回予告の内容は嘘予告になる可能性もあります。
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