第154話「マニフェスト」


「おいおい! 委員長、どうするんだよ! 委員長の原稿無しでスピーチとか出来るわけ無いだろ! てか、どうして山田なんかに原稿を渡したんだよ!」 

「仕方ないじゃない! 私だって、流石に二度目は無いと思ったのよ! てか、安藤くんも原稿が来てないなら何でもっと早くに言わなかったのよ!」 

「うるせぇな! 俺だって委員長が忘れる分けないから催促したら悪いと思って何も聞かずに信じて待ってたんだよ!」

「バカじゃないの!? スピーチの直前まで信じて待つバカが何処にいるのよ!」

「ここにいますぅーーっ!」

「大体、私は安藤くんが原稿を暗記する時間を含めて二日前に原稿を完成させたのよ! それなのに安藤くんはスピーチ直前に原稿もらって一瞬で暗記するつもりだったのかしら?」

「はっ! 暗記? スピーチなんて原稿を読みながら言えばいいだろう! わざわざ暗記するとか頭に無かったわ!」

「ば、バッカじゃないのぉお!? 大事なスピーチで原稿持ちながら読み上げる人間が何処にいるのよ!」

「テレビを見ろ! この前の国会の映像でウジャウジャいたぞ!」

「あぁ~安藤くんを信じた私がバカだったわ……てか、安藤くん。昨日、私が『明日のスピーチ(の暗記)は大丈夫?』って聞いた時に『ああ、バッチリだぜ!』って答えてたじゃない! あれはなんだったのよ!」

「そんなの『ああ、(覚悟は)バッチリだぜ!』って意味に決まってるだろ!」

「やっぱり、バッカじゃないの!? いつまで、あの時の私の言葉を覚えているのよ!」

「しかたねえだろ! あの時の委員長の言葉が俺的にすげぇ心に響いたんだからな!」


「「うぅ~~……」」


((絶対にこいつが悪い!))



『では、次の立候補者。安藤くん、お願いしまーす♪』



「「――っ!?」」


((ヒィイイ! ついに出番がキターーッ!))


「い、委員長……俺、どうしよう……」

「ああ、安藤くん……落ち着いて、貴方ならできるわ……うん、きっとできる。

 貴方はそのまま思っている事を言うのが似合ってるわよ!」

「そ、そう……?」

「うんうん!  さぁ、行ってきなさい! 私は客席に戻って見守っているから!」

「お、おう!」


『安藤くーん? スピーチの順番ですよー?』


「あ、ひゃい! 今行きます!」


『はい! では、次のスピーチは今回の選挙のダークホースならぬ、ぼっちホース! 安藤くんでーす♪』


「それ、単純に俺の悪口だよね!?」


「「「ブゥゥウウウ! ブゥゥウウウ! 朝倉さんと別れろーーっ!」」」



「…………」


(安藤くん、本当に大丈夫かしら……? ツッコミは健在のようだけど――)


「ラノベ、ラノベ、ラノベ……こいつ等は皆ラノベだ……」 ブツブツ


(ダメだわぁ――っ! ブツブツ言って、安藤くん完全に緊張しちゃってるぅううううううううううう!)



「はは、はは……どうだぁ。生徒が皆、ラノベのようだぁ……」 ブツブツ 


(ヤバイ……ついに、俺の順番が来ちゃった。どうしよう、頭が真っ平らで何も言葉が出てこねぇ……)


『次は、二番目の立候補者の安藤くんでーす。では、スピーチをどうぞ!』


「っ!?」


(と、とにかく何か喋らないと!)


『ぁ――俺……いや、私は安藤といいまして……その――』 ボソボソ



「「「…………」」」シーン ←会場中の生徒



(ハイ死んだーー! 俺、無事に死亡! 会場の空気死んでるぅー! てか、原稿もマニフェストも無しにアドリブでスピーチとかできるかっていうの! もう、お終いだぁ――)



「だぁーーはっはっは! おいおい、安藤! その喋り方は何だよ? 声が小さすぎて何言ってるかわかんねぇーて!」


 

『――っ!?』


『はぁーい、外野の生徒さんは立候補者のスピーチ中は静かにしてくださいねー?』


(や、山田ぁあああああああああああああ!? こんの大バカ! 一体、誰の所為でこうなってると思ってんだよ!? と、とりあえず今はスピーチに集中……無視だ無視!)


『えっとですね……俺のマニフェストは……』 ボソボソ



「ヘイヘイヘェーイ! 安藤ぉう! お前、いつも俺にはうるさいほどデカイ声でしゃべってくるじゃん! え、もしかしてこの空気にビビッてるの?」



『その、マニフェストは……』



「ぎゃははは! 安藤ビビッてるぅ~っ!」



 ぷっ――ちん!

 

『うるせぇえええええええ! 山田は黙ってろ!』


 キィーーン! ← マイクが響く音


「「「うぎゃぁあああああああああ! や、山田ぁあああああああああ」」」 ←会場中の生徒



(そもそも、オメェが俺にスピーチの原稿を渡し忘れたのが――)


「おう、なんだよ! ちゃんと大声、出てるじゃねーか!」


『え……?』


(こいつ……もしかして?)


『はぁーい、外野の生徒さん? 次、うるさくしたら司会のメガネちゃんもただではすまさないですよー?』


「あ、サーセーン……えへへ、でも、俺初めてメガネちゃん先輩に叱られちゃったぜ!」


「「「うるせえ! 山田は黙ってろ!」」」 ←会場中の生徒


「山田のバカったら……」


(まったく、山田のバカの所為で、さっきまで冷め切ってた会場の空気が一瞬で騒がしくなっちゃったじゃないのよ。

 でも――)


「安藤くんの緊張は止まったみたいね」



『…………よし』


(あぁ――まったく、俺は何やってんだ『主人公』になるんじゃなかったのか?  なのに、こんなことで緊張して……でも、思い返せば『ぼっち』の俺にとってこういう空気は慣れっこだ。むしろ、慣れてしまったから『ぼっち』だったと言っても過言では無い。なら、言い換えればこの状況、空気は俺にとって『ホーム』であり、俺自身が作り出した『固有結界』といえるはず。

 俺すげぇな……無意識の内にフィールドを自分の有利な空気に書き換えるとか一体何処の主人公よ? いや、そうだったな。俺は『主人公』になるんだ。

 なら、この程度のピンチくらい乗り越えられなきゃな?

 原稿は無い。マニフェストも無い。支持率も無い……

 ないない尽くしの崖っぷち状態だけど、俺の読んでるラノベでは『主人公』ってはそういう状態から逆転するのがセオリーだ! 

 原稿もマニフェストも支持率も、無いなら今ここで作ればいい!


『貴方はそのまま思っている事を言うのが似合ってるわよ!』


 そうするよ――委員長!)


『改めて……安藤です。どうせ皆、俺のことなんて知らないだろうし、興味もないと思う。だからこそ、俺は皆に興味を持ってもらうため……皆に選んでもらうために!

 この学校の皆が一番望んでいる『モノ』をマニフェストにしようと思う!』


「「「…………」」」 ザワザワ 


「安藤くん……」


(私の書いた原稿ではマニフェストは【私物の持ち込み制限緩和】だったけど……一体、安藤くんはどんなマニフェストを――)



『俺のマニフェストは【この学校の全トイレのウォシュレット設置】だ!』



「…………は?」


「「「…………は?」」」






【次回予告】


「皆、いつも応援してくれてありがとう! 委員長よ。

 さーて、次回の『何故かの』は?」


 安藤くんのマニフェストはまさかの【この学校の全トイレのウォシュレット設置】!? 一見血迷ったかのようなこのマニフェスト……しかし、それが

会場の空気を変えるきっかけになり――

 果たして、安藤くんのマニフェストは会場の生徒の心にベストマッチするのか!?


次回、何故かの 「真価」 よろしくお願いします!


「真価を燃やしてぶっ潰す!」


* 次回予告の内容は嘘予告になる可能性もあります。


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