第152話「ブラッディー・クロス」
「それは……」
(言われて見れば特に深く考えた事なんて無いな……だって、主人公が『平凡な高校生』なのは異世界転生の死因が、ほぼトラックの交通事故なのと同じで、それが『お約束』になっているからだろ? でも、しいて言うなら)
「やっぱり『平凡な高校生』にする方が読者にとって共感しやすいからじゃないのか?」
「フッ……流石は、安藤くんね。なんら面白くないテンプレの回答だわ」
「はぁあ!? じゃあ、委員長は他の答えがあるっていうのかよ! だったら、聞かせて欲しいですねぇええ!?」
「仕方ないわね~……なら、私がこれから生徒会長を目指す安藤くんへの餞別として、この質問の答えを教えてあげるわよ」
「ほうほう? それはさぞかし興味を引きますね?」
(てか、この質問って俺が生徒会長になる方法と何か関係があるのか……?)
「……『何故、物語の主人公は平凡な高校生なのか?』そんな理由は簡単よ。
だって、それらの物語は『平凡な高校生が主人公になるまでのお話』なんだからね?」
「主人公になるまでの話……?」
「そうよ」
(小さい頃、私は物語の主人公になりたかった。
だけど、そんな夢は小学校で簡単に崩れ去った。
物語の主人公と言うのはなろうと思ってなれるものではないからだ……
努力はした。クラスで一番目立つ存在になろうと、なれないおべっかを使ったり、髪型や見た目に気を使ったり、なるべく人気者になろうと努力はした。
その頃の私は『主人公』になるには『人気者』にまずはなるべきと思ったからだ。
その成果もあり、小学校の私はクラスでもそこそこの人気者だった。今では考えられないかもしれないけど、男子から告白を受けたこともあるわ。まぁ、物語の主人公はそう簡単に恋人を作らないという謎理論を振りかざしていた所為でその全てを断ったわけだけど……べ、別に後悔なんてしてないわよ!
まぁ、ともかく……小学生の私はそこそこの人気者になる事には成功したのだ。
でも、だからこそ私は『主人公』にはなれないと自覚してしまった。
きっかけは簡単だ。それは六年生の時のクラス替え、そこで私は『本物』を見てしまった。
『えっと……あさくらです! クラス替えでしらない子もいるけど、そつぎょうするまでに、みんなと仲良くなれたら、うりぇ……えへへ、噛んじゃった♪
と、とにかに! みんなと仲良くなりたいのでよろしくおねがいします♪』
その時の衝撃は今でも忘れない……私は『彼女』を見た瞬間に理解してしまったのだ。
勝てない……私はこの子には一生かかっても勝てない――っと、
世の中には『本物』がいる。彼、彼女達は生まれた時からそれを持っているのだ。
そんな『主人公』になるべくして生まれたような『本物』に私は勝てない。
努力はした。だからこそ、クラスでも人気者の枠に入れた。
だけど、一番ではない!
十人の男子がいたとして『私』と『彼女』を選ばせたら殆どの人間は『
私がしてきた努力というのはその十人の内、一人か二人が『
だから、私は『主人公』になるのを諦めた。
中学からはなるべく無理をするのを止めた。自分に無理のない範囲で身の丈にあった
一番ではなく、その少し下の三番や五番目の地位を取れるように意識した。何故なら、それでも私は『物語』の関係者になりたかったからだ。
例え、モブでもいい……それでも『主人公』になれないなら、せめて『主人公』の『知り合い』でいたいと私は願った。だって、それが私の身の丈なのだから。
安藤くんに出会ったのはそんな決意を決めた高校一年の時だ。
放課後の図書室で誰と関わるわけでも無く、一人で時間を潰す彼を見て、私は確信した。
ああ、この人も私と『同じ』人間だ……
だから、私は彼に声をかけたのだ。
『あら? 一人で寂しく本を読み続けていると思ったら、それ「嵐が丘」じゃない? 見た目から溢れる孤独なオーラには似合わず、貴方って意外とセンスの良い本を読むのね』
『え! 俺、もしかして……初対面の知らない女子にケンカ売られている?』
『一応、私……貴方のクラスの委員長をしているのだけど!?』
彼も私と同じ『主人公』を諦めた人間だ。何故か初対面の彼に私はそんな核心を抱いた。だからこそ、彼となら……気が合うかもしれないと思ったのだ。
でも、彼は言った。
『生徒会長になる』と――
どうせ、それは『彼女』の為なのだろうけど……でも、私と同じで『主人公』を諦めていたはずの彼が『
例え、それがどんなに無謀な事だろうとしても、私が諦めた道を私と『同じ』人間の彼が目指すというのなら……私はそれを応援したい)
「安藤くん、物語の主人公はね。誰も最初は『平凡な高校生』なのよ。
でも、彼、彼女達は『主人公』になろうとしてなっているわけではないわ。
彼、彼女達は気付いた時には『主人公』への道を進んでいる……その為に必要なのは主人公になる『方法』じゃない!」
「じゃあ、何だって言うんだよ……」
「『覚悟』よ」
(物語の主人公達は皆、その物語の中で何か重要な『覚悟』を決める。そして、その時に彼、彼女達は『主人公』への一歩を踏み出す。
だから――)
「安藤くん! すると決めた時、既に物語は動き出しているの!
つまり、今の安藤くんに必要なのは、
「覚悟……あぁ、それならとっくにできてるよ!」
(まぁ、本当は昨日できたばっかりなんだけどな……)
「よし! なら、後の事は全部私に任せなさい! 貴方が『覚悟』を決めたのなら『方法』は私がどうにかしてやるわよ! 選挙投票日はちょうど三日後……なら、その日のスピーチにすべてを賭けるわ! 私が最高のスピーチを考えて来てやるんだから、安藤くんは覚悟だけ決めてどっしり構えてなさい」
「うえ!? 委員長、いいのか……?」
「勿論よ! だって、私は安藤くんの『共犯者』でしょう。図書室の予算、三倍……忘れたとは言わせないわよ?」
「委員長……」
(へっ……こりゃあ、会計だけはどうしても丸め込まないといけないな)
「おう! 委員長、スピーチの原稿宜しく――うぉ?」
ズルッ! ← 山田が捨てたバナナの皮
(やっべぇええええええええええ!? 委員長に握手求めようと、一歩踏み出したらうっかり山田が捨てたバナナの皮を踏んじまった! くっ、このままだと思いっきり前のめりに倒れる……何か! 何か、掴むものを――ッ!) ガシッ!
「へ? 安藤く――」
ズルッ! ← 安藤くんが委員長のスカートを引きずり下ろした音
「「…………」」 シーン
(あ、委員長って……結構セクシーな黒の――)
「いぎゃぁああああああああああああああああああ!!」 ザシュ! ← 委員長が安藤くんの顔面を引っ搔く音
「うぎゃぁああああああああああああああああああ!!」
(その日、共犯者の証として……俺の顔面に委員長の両手の爪によるブラッディー・クロスが刻まれた)
「バナナうんめぇ~~っ!」 ← その頃の山田
【次回予告】
「皆、いつも応援してくれてありがとう! 委員長よ。
さーて、次回の『何故かの』は?」
次回作者急病(インフルエンザ)のため数日お休みします
「えぇええええええええええええええ!」 ←読者の声
* 次回予告の内容は嘘予告になる可能性もあります。
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