第150話「ルーレット」
「しかし、やりたいことは見つかっても、俺の場合はまず『どうやって生徒会長になるか?』が問題なんだよなぁ……」
コンコン、ガチャ!
「お兄ちゃんー? お風呂沸いたよー」
「おう、妹よ。わざわざ、俺の為にすまないな……でも、お兄ちゃんは別にお湯はそのままでも良かったんだぞ?」
「うんん、大丈夫! だって、お兄ちゃんの為じゃなくて私の為だし♪」
「さいですか……じゃあ、お兄ちゃんは風呂でも入ってきますよ」
「うん、いってら~♪」
バタン
(はぁ、妹の奴もいつからか自分が風呂入った後はお湯を流すようになって……昔は一緒に入っていたというのにお兄ちゃんは悲しいよ……それなのに、妹は一番風呂だけは譲らないからな……)
「さてさて、風呂風呂……お風呂ですよ~♪ スカカン カカン、カンカン♪」
ガチャ
「ん?」
(え、誰か脱衣所にい――)
「おう、なんだお前か。よ! 父さん久しぶりに帰ったぞ。ガッハッハッハ!」
「お……オヤジ! 何でウチの脱衣所にオヤジがいるんだよ!?」
「いやいや、何でってここは父さんの家だからな? 帰ってくるの当たり前だからな?」
「そんなこと言うけど、家の名義は母さんだし……そもそも、さっき自分で言ってたけど、この家に帰ってくるのも三日振りじゃねえか。一体この三日間何処に泊まっていたんだよ」
「ガッハッハッハ! 父さんほどの男になると、皆がウチに泊まってくれって放してくれないんだわ! ガッハッハッハ!」
「つまり、遊び呆けていたと……マジで死ねよ」
(まさか、また女絡みじゃないだろうな……? 流石にまた浮気とかしてたら、今度こそ母さんに捨てられるからな? マジでこの『女癖の悪さ』どうにかならねぇかな……何故か、母さんと妹は俺がオヤジに似てるとか時々言うけど、絶対に似てねえから)
「ガッハッハッハ! しかし、帰ったらちょうどいい事に風呂が沸いてたから入ろうと思ったが、もしかしてお前入る予定だった?」
「当たり前だろ……じゃなきゃ何で、ちょうど良く風呂が沸いていると思ったんだよ」
「いや、可愛い俺の嫁さんがそろそろ俺が家に帰ってくると思って気を利かして風呂を沸かしてくれたのかと――」
「アンタの可愛い嫁さんは今頃、誰かさんの変わりに日付が変わるまで仕事で帰ってこねえよ」
「ガッハッハッハ! これりゃ一本取られたな! 手厳しい~っ!」
「はぁ……」
(マジで母さんはこれの一体何処が良くて結婚したんだ?)
「お、何だ? 息子よ。元気が無いじゃないか。どれ、ここはご近所で『悩みが無さそうで羨ましい』と評判の父さんに相談してみたらどうだ?」
「思いっきり皮肉言われてるんだよなぁ……いや、別に生徒会長選挙とか悩みの種は尽きないけど、オヤジには言っても無駄な事だし――」
「ん? 生徒会長選挙……あぁ~たしかそんなのあったな! そういえば、お前も父さんと同じ高校か! いや~懐かしいぜ! 実は父さんも高校生の頃はあの学校で生徒会長だったんだぞ、ガッハッハッハ!」
「――って、はぁああ!? お、オヤジが生徒会長って……マジで!?」
(てか、こいつが生徒会長って……やっていけるの?)
「マジマジ! 殆どサボって、仕事はだいたい副会長に投げてたけど、俺も一応は働いてたぞ! 例えば副会長の奴が頭固くてな~新しい部活の申請を躊躇っていたから、俺が独断と偏見で『新聞部』とか『スーパーヨーヨー部』とか『カタン部』に『闇魔術研究部』なんかの設立に許可を出したりな!
他にもいろいろあったけど、面倒だったから全部許可したな。ガッハッハッハ!」
「ダメだ……今、軽く聞いただけでロクな生徒会長じゃなかった匂いがプンプンする……」
(てか、良くその時の生徒達はこいつを選挙で選んだな……ん、待てよ。確かに、ウチのオヤジは人としてクソ最低の人間だが、何故か『人望』だけはチート級だ。俺とは違って定職に付いていないと言うのに友人だけは多いし、女にも好かれる。つまり、ウチのオヤジは根っからの『人たらし』だ……だからこそ、当時の生徒会長選挙もその『人望』というか謎の『カリスマ』で支持を集めたはず……なら、その秘訣みたいなのを聞ければ、ワンチャン今の状況を打開するヒントにならないだろうか?)
「何だ? 聞きたい事があるなら、この父さんが何でも答えてやるぞ! 何たって生徒会長やってたくらい人気者だからな! 今なら相談料五百円のところを家族のよしみでタダにしてやる! ガッハッハッハ!」
「…………」
(こいつ、実の息子から金取るつもりだったのかよ……)
「じゃあ、さ……人気の無い奴が選挙に勝つ方法とかってある?」
「ん? 人気の無い奴が選挙で勝つ方法? なんだ、競馬の話か? 競馬は止めとけ! あいつら今日こそは勝つって大勝負仕掛けた時に限って負けやがる! その癖に今日は負けてもいいやって小銭投げ込んだ時に限って当たるから性質が悪いんだよな~」
「選挙だって言ってんだろ! 何でギャンブルの話なんかになってんだよ!」
(――っだぁああああああああああ! つい弱気になってこんな奴に相談した俺がバカだった! そもそも、ウチのオヤジが生徒会長になれたのだってどうせ偶然に決まってる!)
「まぁまぁ、そんなカッカするなって? そんなに怒鳴ってばっかりいると母さんみたいにキツイ目つきが顔面に固定されちまうぞ?」
「オヤジ、今のセリフ母さんに言ったら殺されるぞ……」
(それに、母さんの目つきがキツイのはオヤジがそもそもの原因で――)
「それにな、選挙なんかギャンブルと一緒だ。あんなのコツさえ知ってれば誰だって勝てるぞ? ガッハッハッハ!」
「……は? 何て?」
(選挙とギャンブルなんて全然似てないだろ?)
「だーかーら『ギャンブル』だって、そうだな……どれかと言うと『ルーレット』に近いな!」
「いやいや……ルーレットの何処が選挙に近いんだよ」
「なぁーに、簡単よ! 例えばルーレットを一つの選挙だと考えるぞ?
立候補者には『赤のマス』と『黒のマス』の二人がいて民衆の票はほぼこの二人が握っている。だから、ルーレットを回せばルーレットの玉はほぼ『赤』か『黒』のどちらかに落ちる!
しかし、ルーレットには『赤』と『黒』以外のマスがもう一つあるのを知っているか?」
「確か……『0』緑色のマスだよな?」
「そうだ! ルーレットには本当は『赤』と『黒』以外に『0』のマスがある! だけど『0』から『36』まであるマスのうち『0』のマスはたったの一か所だけ……残りの『1』から『36』のマスは全部『赤』と『黒』だから、当然『0』に賭ける奴は少ない。単純に考えても当たる確率は三パーセント未満だ」
「……で、それが選挙となんの関係があるんだよ?」
「まぁまぁ、そう焦るな。なぁ? もし、お前がルーレットをやるとしたらこの『赤』と『黒』と『0』の三つの内どれに賭ける?」
「それは……『赤』と『黒』のどちらかだな」
「だろ? それが『選挙』だ」
「は……?」
「つまり『確率』も『人気』も同じってことだよ! 『確率』が高いから『黒』に賭ける! 『人気』が高いから『赤』に投票する。どっちも大差なんかねぇ、だから選挙は『ギャンブル』なんだよ。ガッハッハッハ!
『
「なるほど…………」
(意外と納得できる自分が悔しいが、確かに納得はできる。でも――)
「それじゃあ結局『0』は『赤』や『黒』に勝てないってことじゃねえかよ!」
「だーかーら! 結論を焦るなっての……それでも『0』に賭ける奴はいるんだぜ? じゃあ、その三パーセントは何で『
「そ、それは……」
(『0』が『赤』や『黒』に勝っている理由と言ったら――)
「オッズが高いから?」
「アッタリ~! つまり、リターンがデカいから、その三パーセントは『0』に賭けるわけだ! ルーレットなら『赤』や『黒』に賭けて当たってもリターンはたったの『2倍』でも『0』は当たればなんと『36倍』だあ! これが魅力的だから『0』に賭ける奴がいるんだよ。なら、選挙も同じだと思わないか?」
「……つまり?」
「『0』が当選した時のリターンが魅力的だと思えば思わせるほど、人間ってやつは『
(つまり、オヤジは自分が当選した時の
「因みに……オヤジはどんな公約を掲げたんだよ?」
「あぁ……俺の時は、なんか適当なことをいろいろ言った覚えがあるが忘れちまったな。ガッハッハッハ!
そう言えば、俺の後輩で『管山鳩夫』って奴がいて、そいつが俺の真似してできもしない公約掲げて大問題になったことがあったな! いやぁ~懐かしいね。ガッハッハッハ!」
「…………」
(ダメだこりゃ……こいつに聞いた俺がアホだったわ)
【次回予告】
「皆、いつも応援してくれてありがとう! 委員長よ。
さーて、次回の『何故かの』は?」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお! 俺だ! 俺だ! 俺だ! お・れ・だぁあああああああああああああああ!
皆! 待たせたな! 次回の『何故かの』は困った安藤! 相談! 俺参上! ズビッと! スパッと解決! って感じだぜ!」
次回、何故かの 「主人公」 よろしくお願いします!
「皆ぁああああああ! 応援よろしくなぁあああああああああ!」
* 次回予告の山田はいなくなる可能性もあります。
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