第146話「弱い人」
「それで、それ以降は石田くんが何かとその子達を注意するようになったんだけど……
『何故、授業中に大声で話すんだ!』
『い、石田くんも声大きいよ……?』
『チャイムは既になっているんだぞ! 先生が待っているだろ! 席に早く着け!』
『い、石田くん!? 落ち着いて席に着こうね?』
『だから、何故二人組なのに三人で組む!? おかげで、藤林が余っているじゃないか! 誰か藤林と組んでやらないか!』
『石田くん、止めてぇえええ!? 私のことは言わないで!』
『何でプリントを回しきらずに談笑を始めるんだ! 早く、プリントを回さないか!』
『ご、ゴメンね? 石田くんがせっかちで……』
『はぁ……別にいいよ。ウチらも慣れたし、てか、藤林も
『あはは……』
てな、感じで事あるごとに石田くん注意するから、何故かいつの間にか私が石田くんのフォロー役に回るようになって……そしたら、当初イジメられてた子達からも同情されるようになって……そのまま生徒会に」
「何故、そうなったし……」
(てか、今の流れ藤林さんが石田を好きになる理由がさっぱり分からんのだが……)
「それで、何で石田を好きになったの?」
「あはは……だよねぇ~」
(でも、気付いた時には――)
「だけどね……そうやって、石田くんと一緒にいる事が多くなって気付いたんだ。彼って、実は凄く『弱い人』なんだよ」
「弱い?」
「うん……私、後で聞いたんだ。石田くんが何で私に『君はバカか?』って声をかけたの? って、そしたら何て答えたと思う?」
「え、うーん……あいつの考える事なんて分からんよ……」
「ふふ、答えはね『僕が我慢できなかったからだ!』だって」
「……いや、意味分かんねぇ」
「だよねぇ~石田くんって『自分が正しいと思う事を実行しないと気がすまない性分』なんだよ。だから目の前で毎日嫌がらせを受けている私を見て注意したいけど、当の私が嫌がるそぶりを見せなかったから『もしかして、あれはただふざけあっているだけなのか?』って思って注意出来なくてイライラしてたんだってさ。それで、そのイライラが限界を迎えて私に直接聞きに来たってわけ」
「え……つまり、石田の『君はバカか?』って言葉は『イジメられているなら相談に乗るよ』って意味だったてこと!?」
「フフ、そうだったみたい」
「分かるかボケェエエエエエエエエエ!」
「しかも、石田くん的には私が助けを求めていないのに勝手に動くのは『正しくない』みたいで、どうやら私が『イジメを止めて』って言うまで動くのを我慢していたらしいんだよね……」
「それで、藤林さんに発破をかけて本音を聞きだし、いじめっ子の前で本音を言うように誘導したと?」
(ありえねぇ~何そのとんだマッチポンプは……)
「酷いよね? でも、石田くんって不器用だからそんなやり方しかできないんだよ。いつも『自分が正しい』と思う事を一心不乱で突っ走っちゃう。でも、それだけ……石田くんってそれ以外に何も無いんだよ。人より力が強いわけでもない。口が達者なわけでもない。ただの弱い男の子なの。でも、絶対に『自分が正しい』と思ったことは曲げない。だから、石田くんは『弱い』けど『諦めない人』なんだ。でも、それだといつか折れちゃいそうで不安だから、私が支えてあげなきゃって思ったんだよね……
だから、それが『私が石田くんを好きになった理由』かな?」
(――って……私、安藤くん相手に何こんな恥かしいこと堂々と言っちゃってるの!? うぅ~もう、安藤くんが朝倉さんのことをあんな堂々と好きって言うから、私まで影響されちゃったよ!)
「どうしよう……藤林さんが思ったりガチで石田の事を好きすぎて俺、困惑……」
「えぇえええええ! 安藤くん、それは無いんじゃないの!? 大体、安藤くんが自分の彼女さんノロケ自慢したのが先だよね!? だから、私も恥かしいのを我慢して、自分の『彼氏』の自慢したんだよ! なのに、それは無いよぉ~~!」
「あはは、ゴメンゴメン、藤林さ――ん……? な、なんだって?」
「え、何が?」
「いや……今、藤林さん『彼氏』って言った……?」
「うん、言ったよ」
「え、誰が……誰の……『彼氏』ですと?」
「誰って、そんなの『石田くん』が『私』の『彼氏』に決まっているじゃん」
「な、なんだってぇえええええええええええええええええええええええ!?」
「え!? 安藤くん、朝倉さんから『私が石田くんを好き』なの聞いたんでしょ?」
「まぁ、それは聞いてたけど……」
(でも、朝倉さんも二人が付き合っているとは言って無かったよな?)
「じゃあ、藤林さんと石田って付き合っているの?」
「うん……一応、石田くんは副会長で下級生の女の子にも人気だし、私もそういうので目立つのは嫌だったから、付き合っているのは秘密にしてたんだけど……でも、朝倉さんは流石だよね♪ 『そんなの見れば誰でも分かるわよ!』だって、私と石田くんが隠れて付き合っているの見抜いてたんだもん」
「あはは、ソウダネ……」
(違ぁーーう! 藤林さんは勘違いしている。朝倉さんはきっと藤林さんが石田に片思いしていると思ってそう言ったに違いない……何故なら、俺の彼女はそういう事に関しては確実にポンコツだからだ!)
その頃の朝倉さん
「藤林さんが石田くんと上手くいくように……恋愛の先輩として、これから二人の仲をドンドン応援するわよ!」 スカスカ!
おまけss「返事」
「石田くんが『好き』です……」
それは、私が石田くんと一緒に一年の生徒会選挙に出ることになった日の出来事だった。
私は彼を放課後の教室に呼び出して、その秘めてた思いを彼に伝えたのだ。
「な……何を言っているんだ? 藤林……」
「返事を……くれますか?」
「……な、何故、今そんな事を言うんだ……僕達は明日から生徒会選挙があるんだぞ!? 僕は副会長に! 君は書記に立候補している! そんな大事な時に告白なんて……」
「わ、分かってる……でも、だからだよ」
「何? ど、どう言う事だ。藤林」
「私……本当は『生徒会』なんて入りたくない『書記』なんてどうでもいい」
「な!? そ、それは本当なのか?」
「うん、本当だよ」
「じゃあ、何で僕が誘った時に断らなかったんだ! まさか、断れなくて――」
「そ、それは違うの! 生徒会に入りたくないのは本当だけど、立候補するって決めたのは自分だから」
「じゃあ、何故?」
「んむぅ~もう……本当に分からないの?」
「うっ、すまない」
「はぁ~これだから石田くんは……そんなの石田くんの側にいたいからに決まってるでしょ!」
「は? そ、そんな理由で……?」
「うん、そんな理由だよ。だから、選挙が始まる前に石田くんにはこの気持ちを伝えておきたかったの……だって、こんな不純な動機で立候補して石田くんに黙っているのは『正しくない』からね?」
「藤林……」
「そろそろ、返事を聞かせてもらってもいいかな?」
「そ、それは……」
「…………」
その時、石田くんの苦しそうな表情を見て私は悟った。
(あぁ、そっか……やっぱり、ダメだったか……)
別に、石田くんが私の事を異性として見ているなんて期待は全然していなかった。だって、彼はいつも真面目で、色恋なんて事にうつつを抜かすような人じゃないから。だから、これはただの儀式なのだ。不覚にもこんな人に恋をしてしまった自分に『正しくあろう』とするための――ただの友達に戻る為の儀式なのだ。
だから『答え』を察してしまった私は彼に発破をかけるべく、奇しくもあの日と同じ言葉を彼にかけた。
「君はバカか?」
「は? 藤林、何を――」
「だから何故、返事をしない? 嫌なら『嫌』と声に出して言えばいいんだ。自分の意見を自分で言えないから君はそうやって、私みたいな女の子に惚れられちゃうんだぞ?」
「ぁ――っ!?」
私の言葉に思い至った彼は急激にその顔を赤らめてうろたえ始めた。しめしめ、一人の女の子がこうして勇気を振り絞って告白しているのに、さっさと振らないからそうなるんだ!
これで、彼もちゃんと私を振ってくれ――
「ば、バカは君だ……『嫌』じゃないから困っていたんだろ……
それくらい分かれ!」
「――は、はぇええ!? いい、石田くん! 自分が何を言っているのか分かってるの!?」
「ああ、当たり前だ……藤林! この僕にあれだけ恥かしい事を言わせたんだ……責任として、お前は僕が『嫌だ』と言うまで絶対に離れるのを許さないからな!」
あ、あれ~……? これは、本当に現実なのでしょうか? 夢じゃないよね?
「う、うん……石田くん! その、よろしくお願いします……」
「あ、ああ……こちらこそ、よろしく頼む……藤林」
こうして、私と石田くんの秘密の男女交際は始まったのです。
【次回予告】
「皆、いつも応援してくれてありがとう! 委員長よ。
さーて、次回の『何故かの』は?」
「ねぇねぇ、朝倉さん。昨日出たこのラノベの新刊なんだけどさ……これ新キャラ出すぎじゃない?」
「分かるわ! 流石は安藤くんね! ラノベの新キャラって正直、一区切りに一人か二人が限度だと思うのよね。一気に三人以上の新キャラ出されるとちょっと覚えきれないわね……」
「だよね。特にキャラとか口調が被ると余計に覚えきれないし……よっぽどインパクトのあるキャラじゃないと新キャラなんて覚えきれないよね」
次回、何故かの 「新キャラ登場」 よろしくお願いします!
「ジャーナリズムは真実を全ての生徒に知らせる義務がある」
* 次回予告の内容は嘘予告になる可能性もあります。
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