第135話「すれ違う約束」



「安藤くん、じゃあ気をつけて帰るのよ~」

「また…………こい」


(あらあら、パパったらこんな寂しそうな顔しちゃって~♪)


(クスン……ママから連絡もらって急いで家に帰ってきたのに結局、安藤くんと三十分くらいしかお話できなかったよぅ……クスン!)


「はい、お邪魔しました……」

「ママーじゃあ、私は途中まで安藤くんを送っていくわねー」


「行ってらっしゃ~い♪」


「…………」


(いやいや、毎度のことなんだけど……やっぱり、途中までとはいえ彼女が彼氏を家まで送って行くのっておかしいよね?)


「仕方ないじゃない! だ、だって……安藤くんが遅くなったのは私が家に誘ったのが原因だし、その所為で帰りに安藤くんに危険な事があったら妹ちゃんに合わせる顔が無いわ!

 だから、彼女の私が責任を持って安藤くんを家まで送り届けるのよ!」

「さいですか……」


(まぁ、確かに『もやしぼっち』の俺に比べたら朝倉さんの方が一年の持久走の順位高いし、もし変質者にあっても俺より早く逃げる事は出来るだろう。てか、朝倉さん去年の持久走7位ってマジかよ……俺と同じ帰宅部だよね? 俺なんか125人中で55位だったよ?)


「それにしてもパパが仕事の用事を切り上げて帰ってきたのは予想外だったわ……」


(むぅ~う、おかげでご飯の後はずっとパパが一緒で安藤くんをまともに独り占めできなかったもの!)


「パパ、仕事の方は大丈夫なのかしら……?」

「てかさ、よくよく考えたら俺、朝倉さんのお父さんが何をしているのかまったく知らないんだけど、朝倉さんのお父さんって何の仕事しているの?」

「パパの仕事? 言ってなかったかしら、パパの仕事は企業法人相手の法人営業よ」


(『営業』ぉお!? あのお父さんが?)


「え、出来るの……?」

「うーん、私は知らないけどママが言うには昔は会社トップの成績をたたき出して、今では課長のポストらしいわ」

「ま、マジか……」


(あのお父さんがニコニコ営業している姿なんて想像できないぞ……いや、待てよ?)



安藤くんの妄想

 ↓

「…………ここに判を……押せ」 ギロリ!

「ヒ、ヒィイイイイイ! 今すぐに!?」



(なるほど、あのヤクザも逃げ出すような強面に個室で二人っきりにされれば誰でも首を縦に振るよな……)


「うぅ、それにしても夜になると流石に寒くなってきたわね……」

「そうだね。朝倉さん、その格好だと寒いでしょ? もう一枚上着を着てくれば良かったのに」

「だって、安藤くんを送るだけだからこれで十分だと思ったのよ……でも、大丈夫よ! これくらいなら――は、は、ペクチッ!」


(うぅ~! 私とした事が安藤くんの前でくしゃみなんて恥かしいわ……)


「ほら、言わんこっちゃ無い。そうだ! ねぇ、朝倉さん。手を出してくれるかな?」

「え、安藤くん……」


(はっ! も、もしかしてこの展開は――


『フッ、仕方ないな……マイ・スゥイート・プリティーハニー☆ 君の

その冷えた手を僕のこの燃えるような愛の力で暖めてあげるよ……

 さぁ、手を――プリンセス♪』 ←朝倉さんの中の美化された安藤くん


 ――っていう、恋愛モノのラノベで良くある展開の!)


「っ! え、ええ、私の王子様……」 ポッ!

「……?」


(もう、安藤くんったら二人っきりになった瞬間にこんなロマンチックな演出を仕掛けてくるなんて! 本当に私の事が大好きで仕方ないのね。安藤くんったら、本当にもう! さあ、今すぐに私の手を引いて暖かな貴方の胸の中に――)


「はい、これまだ温かいから」


 ポン♪ ← ホッカイロ


「…………」 スカーン

「……?」


(あれ、朝倉さん固まったけどどうしたんだろう? 寒さでおなかでも下したのかな?)


「朝倉さん?」

「フッ……」


(そうよね。私ったら何を浮かれていたのかした……いくら付き合っているからといえ、あの『ヘタレぼっち』の安藤くんがそんな簡単に女の子の手を握って抱きしめるなんて度胸あるわけ無いじゃない……なら――)


「朝倉さん……?」

「ムギュゥウウウ!」 抱きぃい!

「あ、朝倉さん!?」


(だったら、実力行使! 私自ら安藤くんの腕に抱きついてやるんですからね!)


(うわ、ちょ! ななな、何で俺の彼女はいきなり俺の腕に思いっきり締め技をキメてきたんだ!? それに、そんな締め付けるように抱きしめたら胸が――)


「むんぎゅ! むんぎゅ!」 スカスカ

「…………」


(――あ、ほら……柔らかい女の子の『手』とか『腕』の感触が伝わってくるでしょう……?)


「えーと、朝倉さん」

「今日の安藤くん分を補充するまでこの腕は放さないんだからね!」

「あ、はい……」


(うーん、やっぱり俺がヘタレな所為で朝倉さんにはいろいろ我慢させちゃっているのかな? でもなぁ……俺も頑張ろうとはするんだけど、学校でこんなことできるわけ無いし……だからと言って俺の家は妹が朝倉さんを奪うし、朝倉さんの家だと――)



『あらあら~私の事は気にしなくていいから、二人は部屋で「ゆっくり」していいのよ? 別に部屋で「何を」してるかなんて気にしないわよ? ウフフ~♪』


『俺の部屋に…………こい』


(わぁ! 安藤くん、良く来てくれたね♪ さぁ、パパとも遊ぼうよ! パパ、学校での安藤くんの様子とかも気になるな。ねぇ、たくさんお話しようよ!)



(――って、感じで必ず妨害が入るからな~……

 どうにか、邪魔が入らずに朝倉さんが我慢せずに済む場所があればいいんだけど……でも、今は一緒の大学に行くためにも生徒会選挙に集中を――ん、一緒の大学? そうだ!)


「朝倉さん!」

「な、何かしら、安藤くん?」


「高校を卒業して同じ大学に行ったら、一緒に部屋を借りてそこで暮らそう!」

「ふぇ……って、ふぇえええええええええええ!?」


(そうだよ! 高校のうちは厳しいだろうけど、大学生になれば一人暮らしも当たり前だよね! そこで朝倉さんと同じアパートを借りて隣同士の部屋に住めば誰にも邪魔されず、朝倉さんも俺に対して我慢しなくて済む! よし、そのためにも絶対に推薦をもらわなくちゃ!)


(あああ、安藤くんったら……いずれば結婚してくれるって言ってたけど、まさか……高校を卒業したら『同棲しよう』だなんて! いい、一緒に部屋を借りて暮らそうってそ、そういうことよね!? 安藤くん、私のことをそこまで真剣に考えて……だから、一緒の大学に入ろうと必死なのね! 嬉しいわ!!)


「ど、どうかな……?」

「うん! 暮らす! 一緒にいるわ!」

「うわ! ああ、朝倉さん……ここは外だから、ね?」

「むぅー……じゃあ『ゆびきり』して!」

「え、ゆびきり?」

「うん! 安藤くんのことだから、今の約束を後でへタレるかもしれないし……」 じー

「あはは……そう言われると参ったな……うん、じゃあ『ゆびきり』しようか、朝倉さん」

「うん! 安藤くん」


(高校を卒業して同じ大学になったら、朝倉さんと同じアパートに)

(高校を卒業して同じ大学になったら、安藤くんと同じ部屋に――)



「「ゆびきりげんまん~嘘ついたら、単行本サイズのラノベ千冊飲~ます、指切った!」」



((住めますように♪))







【次回予告】


「皆、いつも応援してくれてありがとう! 委員長よ。さて、ついに『何故かの』新年始まって最初の最新話が更新されるわね!

 それを記念してここで問題よ♪」


問題『次回の最新話で、最初に登場する人物は誰でしょう?』

 

「でも、これだけだと難しいから……特別に性格が良いって評判の私が皆にヒントをあげるわ! ヒントは……【デート】よ。

 正解した人には今年一年良いことがあるかもしれないわね♪」


次回、何故かの 「エンカウント」 よろしくお願いします!


「メインヒロインなんだから、私が最初に登場するに決まっているわ!」 スカーン!


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