第127話「ワンコイン」



『ここに来てついに、朝倉さんが討論に参加しました。さて、学校一の美少女と有名な彼女の実力はいかほどなのでしょうか?』


「だから、私なら学校の食堂内の改善に全力を注ぐわ」

「し、しかし、僕が言ったように学校の食堂は安易な値下げは出来ないんだぞ!」

「でも、実際に学校内のお弁当持参率は上がってきているんでしょう? なら、値下げを出来ないと言ってこのままにしても、いずれ殆どの生徒が学食を利用しないようになって学食が廃止になるだけよ。なら、十分に何かしらの改善策を探すべきではないかしら?」

「しかし、だからと言って何が出来る? 値下げもせず、新メニューも作らずに学食の利用率を上げるなど……」

「確かに厳しいよな……」


「策ならあるわ」


「「え!?」」


「そうね。例えば……学食のメニューをバラ売りするのはどうかしら?」

「メニューのバラ売りだと?」

「そう、今って学食は定食だとご飯、スープ、おかずの三点で600円でしょ? なら、ごはんを100円、スープを100円、おかずを400円で販売するのよ」

「そんな事で学食が売れるわけ――」

「いや、売れる!」

「なんだと?」

「安藤くんは分かってくれたみたいね」

「ああ、朝倉さんのいうバラ売りは効果があるよ! だって、今までこの学校の学食で俺が個人的に一番ネックだったのが、学食の値段が総じて『500円』をオーバーしている所なんだからね」

「フン、それの何処がネックなんだ? 『500円』を超えていると言っても、そんなのたかが数百円の違いだろ?」

「馬鹿だな石田は……お前は何にも分かっちゃいない! 俺達、貧乏学生にとってはその『数百円』が大問題なんだよ!」

「ど、どう言う事だ……?」

「石田くん、貴方はいつもお昼はどうしているのかしら?」

「朝倉さん、何だ藪から棒に……僕はお昼はいつも弁当だ。それがどうした?」

「やっぱりね。先ほどの話を聞いてて思ってはいたけど、石田くんは普段学食を利用していないのね」

「おい……てか、学食の値下げに反対している奴がそもそも学食を利用してないってどうなんだよ……」

「なぁ!? そ、それの何が悪い! 別に、僕が学食を利用していないのは学食が『高いから』では無く、毎日弁当が用意されているからであってだな……」

「石田くん、別に貴方が学食を利用していないのを『悪い』とは言ってないわ」

「そ、そうだろ。なら――」


「でもね……石田くん。

 だからこそ、貴方は学食を利用する生徒の気持ちを理解できないのよ!」 スカァアーンッ!


「なんっ……だと?」

「あぁ~それな。自分が実際に学食を利用してないから、学食の微妙に高い値段設定が、どれだけ生徒達にとってマイナスなのか実感を持って分からないのか」

「おい! そ、それはどういうことだ!?」

「石田くん、貴方は高校生のお昼ご飯代の平均金額がいくらか知っているかしら?」

「何だそれは? フン、どうせ『500円くらい』じゃないのか?」

「正解よ。確か、安藤くんの予算もそれくらいよね?」

「そうだね。多分、この学校の生徒もほとんどはそれくらいの金額だと思うよ」

「石田くん、それを踏まえた上で考えてみてくれるかしら? 貴方は『500円』でお昼を食べるとして……この学食で何を選ぶ?」

「何って――」


(500円だろ? だとしたら、僕は麺や丼モノは好きでは無いし、ここは無難に――)


「定食だな」

「はい、安藤くん。判定して」

「アウトォオオオオオ!」

「何ィイイイ!? おい待て! 一体何がアウトなんだ!?」

「安藤くん……」

「残念ながら、その金額では学食の定食は頼めません。定食は『600円』オ金ガタリナイヨ」

「そう言う事よ」

「くっ……な、なら、そばだ! そばなら『550円』だから――」

「安藤くん、やっておしまい!」

「アウトだべぇえええええ!」

「何故だぁあああああああああああああ!? おい、ふざけるな! そばなら『550円』なんだから頼めるだろ!」

「はぁ……安藤くん、言ってあげて」

「石田ぁああ! 貴様は計算すら出来ないのか? 所持金は『500円』だと言っておろう! たった『500円』でどうやって『550円』のそばが買えると言うのだ! 小学校の算数からやり直して来い!」

「たかが『50円』だろうが! そのくらい出せないわけでもないだろ!」


「石田くん、それよ!」


「……何?」

「貴方は今『たかが50円』って言ったわよね? それが、貴方と学食を利用する生徒との温度差なのよ。確かに皆出そうと思えば『50円』多く出費して『そば』を頼む事が出来るでしょう。なんなら『100円』多く出して『定食』を食べる事も出来るわ」

「だな、またに俺も一ヶ月に2、3回は学食で『定食』を食べる日があるからな」

「なら、何故皆はそうしないんだ?」

「石田くん、安藤くんは言ったはずよ『たまに』と、それはたまになら数百円の予算オーバーですむから……じゃあ、もしもそれが毎日続いたらどうかしら? 毎日100円、200円多くお昼に予算を割いたら一ヶ月の出費っていくら増えるのかしらね?」

「っ! そ、それは……」


(えっと……一日500円でなく、600円使ったとして一月に学校へ行く日数は)


「…………」


(一週間が五日でそれが、かける4だから、5×4=20に+0二つで――)


「安く見積もっても『二千円』はオーバーするな」

「フン、なんだ。所詮は一ヶ月で『二千円』じゃないか……それくらいなら、なんとか出せるんじゃ――」

「……安藤くん」

「石田ァアア! おんどれはドアホか!? その『二千円』は一体何処から捻出するんじゃい! ウチら貧乏学生は『ママ~お小遣い頂戴♪』なんて言って無限に金がもらえるほど甘い金銭事情じゃねんだよ! むしろ、使い切ったなんて言ったら殺されるわ!」


「「「うんうん……!」」」 ←観客の生徒達


「それに、昼飯が学食の『そば』だけとか後でめっちゃ腹減るだろが! 正直、定食の量でさえ少し物足りないのにそんな生活一ヶ月も続けたら確実に理想的なスリムボディ手に入れちゃうだろ! 俺達食べ盛りの学生はそのメニューに+αの炭水化物が必要不可欠なんだよ!」


「「「うんうんうん……!」」」 ←観客の生徒達


「どう、石田くん……これが一般的な男子のお昼事情よ。彼らにとってお昼を『500円』以下にするのがどれだけ重要か分かったかしら?」

「あ、ああ……まさか、これほどまでにこの学校の皆が炭水化物に飢えているとは思わなかった……」

「それに、朝倉さんが言ったメニューのバラ売りは昼飯代を節約するに凄くいいよね。例えば、俺ならそのメニューなら、カップラーメンに学食のライスをつけても『300円』以下だし、定食のおかずとライスだけならちょうど予算も『500円』ピッタリ! 腹が減ってたらライスを三つ頼んでカップ味噌汁とカップ焼きそばも出来る!」


「「「うんうんうん……!」」」 ←観客の生徒達


「安藤、貴様……末恐ろしいほどに炭水化物オンリーだな」

「安藤くん……流石に私も最後のは全力で止めるわよ……」

「え」


「「「え」」」 ←観客の生徒達







【次回予告】


「皆、いつも応援してくれてありがとう! 委員長よ。

 さーて、次回の『何故かの』は?」


長かった討論会もついに決着の時を迎える……

議論はねじりにねじれて議題はいつの間にか理想の女性のバストサイズに変わっていた。

「Dカップ派」を押す石田くんに対し、安藤くんは朝倉さんの眼力によって半強制的に「Bカップ派」として参加する。

果たして理想のバストサイズの行方とは……?


次回、何故かの 「調査結果」 よろしくお願いします!


「その言い方止めてくれる!? 何だか、私まで『Bカップ』みたいでしょ!」


* 次回予告の内容は嘘予告になる可能性もあります。




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