第110話「脅迫」



「安藤くん、すみませんわね。こんな急に呼び出してしまって」

「いや、まぁ……てか、生徒会長? ここって」

「はい、生徒会室ですわ♪ ここなら、落ち着いてお話が出来ますでしょう?」

「そ、そうですね」


(――って、落ち着けるかぁああああああああああああ! メチャクチャ敵陣のど真ん中じゃん!? サッカーで言ったらめちゃくちゃアウェイだよ! アウェイ過ぎて沢渡でもないのに『ウェーイ!』って叫びたいくらいだよ!)


「今回、安藤くんをお呼びしたのは選挙についてある『お願い』をしたいからなのですわ」

「お願い? それは……」


「安藤くん、どうか今回の生徒会長選挙『辞退』してはいただけないでしょうか♪」


「は? それは……なんで?」

「ふふ、安藤くんは今回の選挙の事前調査での朝倉さんの支持率をどう思いますか?」


(どう思うって、そんなん43%とかだっけ? 流石は朝倉さんだよな。いきなり立候補して半分近くの支持率を集めちゃうんだもん! やっぱり、どっかの『ぼっち』とは大違いだぜ!)


わたくしは予想以上に低い結果だと思いますわ」

「え? ひ、低い……? 半分近くもあるのに?」

「ええ、私の予想なら立候補の時点で朝倉さんの支持率は60%以上はあると思っておりましたわ」

「ろ、60%って――」

「別におかしいことではありませんわ。この学校で副会長の石田くんは知名度もあり、見た目も整っているので全校生徒の女子の票で40%は彼の票になるでしょう。しかし、それは朝倉さんも同じで彼女もこの学校では全学年の生徒が知っているほどの有名人ですわ」

「はぁ……」


(まぁ、確かに『ポンコツ』を『朝倉さん』だと知らない一般ピーポーの生徒達にとって、朝倉さんは『学校一の美少女』と言われるほどの知名度だからな)


「ですから単純に考えて、全校生徒の男子の票の40%は朝倉さんに言ってもおかしくは無いのです。さらに、そこに加えて前生徒会長である私の『推薦』を加えれば彼女の支持率は私自身を指示する生徒、20%ほどの票を入れて合計で60%はくだらない計算だったのですわ。

 では何故、今回の事前調査で朝倉さんの支持率は50%にも届かなかったのでしょうか?」

「それは……」


(何故だろう? 確かに朝倉さんと石田で男女の票を分け、そこに生徒会長の推薦の分が加われれば確かに朝倉さんの方が有利な気がする。しかし、結果は予想よりも15%以上支持率が伸びていないのだ。その原因は――)


「俺……か?」

「はい、安藤くん『貴方』が原因ですわ」


(朝倉さんの支持率は主に男子からの票だ。しかし、朝倉さんには俺と言う『彼氏』がいる)


「つまり、朝倉さんが『彼氏持ち』となってしまったことで朝倉さんを慕っていた男子の票が離れてしまったと言う事か?」

「それに加えてその『彼氏』である貴方が何の間違いか同じ生徒会長に立候補している……これは他の生徒から見て、お二人が『私情』で生徒会に入ろうとしているのではないか? と勘ぐられてしまいますわ……その結果、朝倉さんを慕う男子生徒の票が集まらなかったのです」

「それで、俺に立候補を『辞退』しろと……?」

「はい♪」

「…………」


(いや、そう言われても……俺なんやかんやで副会長に喧嘩売っちゃってるから、今更辞退したくても出来ないんだよなぁ……賭けのこともあるし、辞退したら生徒会に入って推薦をもらう方法も――)


「副会長の件も話には聞いておりますわ♪」

「ッ!?」

「なにやら、石田くんと少々揉めているとか……良ければ、私が彼と『お話』いたしましょう。石田くんは少々……頭の固いところがありますが、私の話なら彼は耳を傾けてはくれるはずです。是非、私にお二人の『仲直り』の機会を与えてはくれないでしょうか?」

「…………」


(なんだろう。普通に考えればものすごくいい話のはずなんだが、何故か俺の『ぼっちの勘』が危険だと訴えている……てか、そもそも『ぼっち』の俺にたいしてこの超絶上品な美少女生徒会長が『貴方のためになりたいのですぅ~どうかご協力させてくださいですわ~』とか言ってくるのこの雰囲気がもう何処かの詐欺にしか思えないんだよ。

 胸と同じで、この生徒会長のキャラですら『偽造』なんじゃないかと疑うほどだ)


「えっと、生徒会長は何でそこまでしてくれるんですか?」

「もちろん、朝倉さんを次の『生徒会長』にするためですわ♪」


(まぁ、本当は私の妹のためですけどね♪)


「でも、生徒会長はもう直ぐ卒業しますよね? それなら、次の生徒会のことなんて……」

「実は私には妹がいるのです。その妹のためにも、せめて私が築き上げた生徒会だけは自分の安心できる人に任せたいのです。そして、それが朝倉さんだったのですわ」

「生徒会長……」


(まぁ、本心は『安心できる人物』=『操りやすそうな子』ですけどね♪ 石田くんはどうも頭が固くてコントロールが難しいのですわ)


「それに最近は生徒会長の『権力』に目をつけて『不謹慎な理由』で生徒会に入ろうとする生徒も多いのですわ」 チラ

「――ッ!?」 ギクッ!


(ま、まさか!?)


「へ、へぇ~例えば……?」

「そうですわね~……例えば『推薦をもらうために生徒会に入ろうとしたり』とか――」

「…………」 ギクギク!

「または~『生徒会長になったら●●を●●へ優遇する~』とか言って、あらかじめ他の生徒と裏取引をして票や協力を仰いだりとか?」

「…………」 ダラダラダラダラ~ ← 大量の汗

「そんなところですかね♪」

「へ、へぇ~~世の中にはそんな悪い奴もいるんですね……」

「はい♪ あ、もちろん。いま立候補している『誰か』がそんな不正をしているというのではなく、あ・く・ま・で・ただの噂ですわよ?」

「そ、そうですよね~~」

「うふふ~」

「アハハー」

わたくし……安藤くんなら、この意味が分かると思うのですが――」


(間違いない! この生徒会長、確実に知ってる! 

 つまり、これは『脅迫』だ。生徒会長を『辞退』しなければこの事をバラし強制的に俺を選挙から追放すると……しかし、そうなると生徒会長と朝倉さんの間に少なからず亀裂が生じる。だから、生徒会長は俺から『辞退』を進み出る事で話を穏便に済まそうとしている。

 つまり、この『お願い』……俺には拒否権が存在しない)


「どうでしょう。この『お願い』受けていただけますでしょうか?」 ニッコリ♪

「…………」


(でも、譲れない『理由』はあるんだよな……)



「すみません。俺『ぼっち』なんで空気とか読むの苦手なんですわ。

 だから、お断りします」



「…………」

「…………」

 

 シーン……


(え? こ、断られた? この私が?)


「あのぉ~こ、断るって――」

「はい、すまないんですが……やっぱり、俺はこの選挙に出なきゃいけないんで」

「それは、石田くんのことですか?」

「そう……ですね。アイツ、副会長の奴が朝倉さんを『見る目が無い』って言ったんですよ」

「でも、それに関しては私から石田くんに話をしますし……確かに彼の言葉は安藤くんにとって大切な彼女さんを侮辱する事ですから、望むのであれば彼から謝罪もさせますよ?」

「確かに生徒会長が言えば素直にアイツは謝るかもしれません。でも、それじゃ意味が無い……俺は彼女の隣に立つ『資格』が欲しいんです。だって、そうすれば、もう朝倉さんが『見る目が無い』なんて言われなくなるじゃないですか?

 ようは『好きな女の子にカッコつけたい』だけなんですよ」


(副会長に喧嘩を売られた時、どうして俺は『生徒会長になる』なんて言ったのか、最初は分からなかった。だけど、考えれば簡単だった。俺は朝倉さんの隣にいる事を『他人』に認めて欲しかったのだ。

 今まで俺は『ぼっち』だったから、他人から何を言われようがかまわなかった。だけど、あの時、初めて『俺』では無く『朝倉さん』が陰口の標的にされた。だから、俺は怒ると同時に自覚した。

 俺と関わる事で朝倉さんの評価が下がる。そんなの最初から分かっていたはずなのに俺は見えないフリをしていたんだ。だから、彼女の隣にいても彼女の評価を下げない『資格』が欲しいと思った。

 そのための『生徒会長』だ。そのための『同じ大学』だ。

 どちらも、俺なんかじゃ手に入るはずも無い……だから、どんな手を使ってもその『資格』を俺は欲しい。

 まぁ、その後で朝倉さんまで『生徒会長』に立候補したのはマジで想定外だったけどな……)


「そ、そんな……くだらない理由で断ったのですか?」

「そっすね。確かに『くだらない理由』です……だけど、俺にとっては『くだらなくない理由』なんですよ」

「そう、ですか……では、遠慮なく潰しますわ♪」 ニッコリ

「…………」 ゾクゾクゾク!


(……って、やっべぇええええ! 何で俺、生徒会長に喧嘩売ってるのぉおお!? 会長、これを断ったら強制的に潰すって言ってたじゃん! ヤバイ、ヤバイ……どうする俺! 何か使える手段は――)


「残念ではありますが、今年の生徒会長選挙の立候補者は二名ですわね」

「せ、生徒会長!」

「……あら、何でしょうか? これでも私、少し腹の虫の居所が優れないので……今更、何を言われようと、もう遅いですわよ♪」


(ヒィイイイイイイイ! 生徒会長が笑顔なのに超恐ぇええええ!)


「お、俺は――生徒会長のヒミツを知っている!」

「……はぁ? あのぉ~安藤くん? 流石に脅迫となると私も問題にせざるを得ないのですが、それに私にヒミツなんて――」



AAAトリプルエー……」 ボソ

「――ニョィッッッ!!!???」



「あ、あああ、貴方! 何でそれを!?」

「いや~この情報は高く売れるだろうな~……あ、そうだ! 新聞部とかいいかも!」

「ヒィッ!」


(し、新聞部!? 新聞部って言ったら一度耳に入った噂は嘘か真かも確認せずに、大阪と群馬のオバちゃんをも超える情報伝達のスピードで学校中を駆け巡ると言われるあの新聞部!? そそそ、そんな事になったら明日の見出しは――……


【超特ダネ! 驚愕の特盛●ッド!】

 生徒会長の姉ヶ崎先輩『成績、容姿、性格』だけじゃなく『●っぱい』もAAAトリプルエーだった!?】


 ヒ、ヒィイイイイイイイイイイイイイ! ですわぁああああ!)


「もし、俺が選挙に出れなくなればその日からこの噂が学校中を駆け巡る事になるだろう。ふふふ……『ぼっち』の俺に失うものなんて何もない。むしろ、失うモノが多いのはどっちかな?」

「ばばばばばばば、バカなマネは……ややや、止めた方が身のためですわよ……そそそ、そんな根も葉も無い噂を一体何処の誰が信じるというのでしょうか……」 ガクブル!

「信じる信じないは関係ないんじゃないですか……? ただ、今まで『存在しなかった噂』が、ある日突然『存在する噂』になる……それだけで十分じゃないですかぁ~?」 ニヤニヤ


(ヒィイイイイイイイイイイイイイ!? ななな、何でそんなこと知ってますのぉおおおおおおおおお! このヒミツは家族でさえ知らないのですわよ!?)


(生徒会長、恐怖のあまりか自分の胸をめっちゃ隠してるけど……その所為で『おっぱい』がズレてるんだよなぁ……言い逃れのしようが無いくらいの証拠が目の前にあるから!)


「い、一体何が望みですの……この私の体が目的なら!」

「いいえ、間に合ってます」


(まだ、ペタ倉さんの方があるわ!)


「俺の要求は簡単です。俺の選挙の邪魔をしないでください。そうすればこの『ヒミツ』は俺が一生守り通してみせます」

「本当……ですわね?」

「…………」 コクン

「いいですわ。しかし、これが選挙である以上……私は朝倉さんを生徒会長にするために全力を出しますわ」

「の、望む所ですよ……」


(まぁ、どうせ~そうなればー俺の目論見通り、朝倉さんが断トツで当選して、その後に俺を生徒会役員に指名すればいいだけだし~)


「あ、そうそう……ふふ、安藤くん? これだけの啖呵を切ったのですもの……当然、朝倉さんが生徒会長になっても、生徒会に入れるなんて思わないことですわねぇ♪」

「…………へ?」



(もしかして……俺はとんでもない人に喧嘩を売ってしまったのではなかろうか?)







【次回予告】


「皆、いつも応援してくれてありがとう! 委員長よ。

 さーて、次回の『何故かの』は?」


勢いで生徒会長に啖呵を切ってしまった安藤くん、委員長はそんな安藤くんに激怒する。安藤くんは委員長の言葉で『おっぱい』を使った選挙アピールを思いつくのだった!


次回、何故かの 「おっぱい震度」 よろしくお願いします!


「よーし! 委員長のおっぱいをアピールして三年生の支持率を集めるぞー!」 


* 次回予告の内容は嘘予告になる可能性もあります。

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