第109話「偽造」



「安藤くん、おはよう」

「うん、おはよう。朝倉さん」

「じゃあ、一緒に学校行きましょう」

「そうだね」


(しかし、朝倉さんと付き合ってから、一緒に学校へ向かうのも随分と慣れたな……最初の頃は学校の男子から陰口言われる事もあったけど……もともと『ぼっち』の俺にとって他人の評価とかゴミ同然だから、そんなのすぐ気にならなくなったけどな)


「それで、安藤くんの推薦人はどうなったの?」

「それなら俺が『誠意』を込めてお願いしたら、委員長が快く引き受けてくれたよ」

「じゃあ、立候補取り消しにはならなかったのね」

「うん、まさか推薦人が見つからないと立候補が取り消されるって知ってビックリしたよ」


(でも、今更だけど……正直、これ俺が立候補取り消された方が案外良かったのでは? そうすれば、選挙は『朝倉さん』VS『石田』になり朝倉さんが勝てば俺も生徒会入りに……いやいやいや、そんな事になったら石田の奴が――

『フン! なら、勝負は僕の不戦勝だな? 賭けで君は何でもすると言った……なら、僕は君の生徒会入りを断固拒否する!』

 とか、言いそうだもん。いや、絶対に言うね!)


「でも、安藤くん。この選挙って……私達は一体どんな結果を目指すべきなのかしら?」

「それなんだよね……まず、石田が生徒会長になるのは絶対にダメだな」

「えーと、確か石田くんって安藤くんが生徒会に入るのを嫌っているのよね?」

「うん、だから生徒会に入って推薦をもらおうと思っている俺にとって一番防ぎたいのは『石田の当選』だね」

「その為には、私か安藤くんが当選する必要があるわね」

「でも、問題はそれだけじゃないんだ……」

「確か、安藤くんと石田くんの『賭け』よね?」

「うん……」


(俺はあの時、つい頭に血が上ってあろうことか俺が石田に選挙で負けたら『なんでもする』と言ってしまったのだ。つまり、もし朝倉さんが選挙で当選しても俺が石田に投票率で負けたら、あの意地悪い石田のことだからこの賭けを持ち出して俺の生徒会入りを禁止してくるに違いないのだ)


「つまり、二つ目の条件として投票率で安藤くんは石田くんに勝たないといけないのよね……」

「ぐぁあああああ! ミスったぁああああああ! 石田って初対面で凄い嫌な印象だったから『へっ! どうせあんな奴、顔がイケメンなだけで人徳とか無さそうだしぼっちの俺でも選挙くらいなんとかなるでしょ?』って、思ってたのにあの支持率はなんだよぉおおおおおお!」

「安藤くん、落ち着いて!? 石田くんは前から生徒会で活躍してるし、見た目も整ってるから女子の人気が高いのよ。それに、私と違って生徒会副会長だから、支持する人も多いのよ」

「はぁ……」


(やっぱりそれなんだよな……正直、あの支持率を見た時、石田が朝倉さんよりも支持率が多いことに驚いたが、普通に考えれば『生徒会長』なんて、その下の役職の奴が引き継ぐのが当たり前なんだよな……だから、多くの生徒は自然と『副会長』である石田に投票してしまう)


「結局、私達の目指す結果としては安藤くんが石田くんよりも高い支持率を取ってその上で、私か安藤くんが生徒会長に当選するしかないのだけど……安藤くん、何か考えはあるの?」

「無い……ことはない」

「え、ホント!?」


(ここで重要なのは俺が石田よりも支持率を取るのでは無く、選挙結果で俺が石田の投票率に負けてなければいいという点だ。この二つは同じように見えて『条件』が全く違う)


「うん。つまり、俺の投票率を伸ばすんじゃなくて、石田の投票率を下げようと思うんだ」

「そ、そんな事が……出来るの?」

「うん、朝倉さんがね」

「え、私!?」


(そう、もちろん俺に石田の支持率を激減させることなど出来ない。なんせ俺は『学校一のぼっち』なのだ。そんな誰もが顔さえ覚えていない生徒の影響力など皆無に等しいだろう。

 だけど、朝倉さんは違う! 『学校一の美少女』と名高い『朝倉さん』だけには『石田』の投票率を下げさせる方法がある!)


「安藤くん、その方法って?」

「単純な事さ、朝倉さんが『圧倒的な大差』で選挙に勝てばいい」

「それで、安藤くんが石田くんに投票率で勝てるようになるの?」

「可能性だけど、理論上はね……

 もしも、朝倉さんが今回の選挙で当選確実となる投票率『51%』を取ったとするよ。じゃあ、残りの票数の割合はどうなるかな?」

「えーと……残りの『49%』が安藤くんと石田くんの票数になるわね」

「うん。その場合、全校生徒約360人の内『49%』つまり150人近くの票を俺と石田で奪うことになるんだ」


(あの選挙予想では俺と石田の支持率の差は50%以上。しかし、それでも俺にはまだ支持率が上がる『可能性』はある! もちろんそれはただの冷やかしや気まぐれでの票と言うのもあるだろう。だけど、肝心なのは俺へ投票する人間がいるという『可能性』だ。

 つまり、今後の俺の活動次第では支持率を急激に上げる事が出来なくても、10%くらいまでなら俺でも支持率をあげることは出来るはず……)


「もし、俺が頑張って15人分の票を取れたとするよ。このままだと、石田は130人以上の票を取って俺の惨敗って可能性が高いよね? じゃあ、もし朝倉さんが大量の支持率を得て投票率『90%以上』で選挙を勝ったら、残りの票はどうなると思う?」

「それは……残りの約『10%』つまり、30人ちょっとの票を……ああ! そう言う事ね!?」

「そう! 残りの票が約30人分なら、俺は石田に勝つために15人以上の票を集めればいいだけなんだ。つまり、朝倉さんが多くの票を取れば取るほど、俺と石田が奪い合う残りの票は少なくなる!」


(そして、その場合不利になるのはもともと支持率が低い俺よりも支持率の圧倒的に高い石田の方だ! 何故なら、現状で俺は石田との賭けに対して『支持率』という圧倒的なハンデを持っている状態だからだ。でも、このハンデは朝倉さんが全体の支持率を奪う分だけ軽くなる。

 なら、俺達の目指すゴールは俺が下がりようも無い支持率を利用して石田の選挙を妨害し、尚且つ裏で一クラス分の人数の票を『誠意』を見せるなり『お願い』するなりして確保し、朝倉さんが大量の支持率を得て圧倒的大差で選挙に勝つことだ!)


「むしろ、俺が石田相手に選挙で勝つ方法ってこれくらいしかないんだよね……」

「しかも、これって言うのは簡単だけど意外と条件難しいわよね?」

「うん……」


(まず、第一にいくら朝倉さんが『学校一の美少女』で人気だとしてもあの石田相手に大差をつけるほどの『支持率』を集められるか?)


(そして、例え私が圧倒的な支持率を得たとしても、安藤くんが絶対に自分へ投票してくれる支持者を10%でも集められるか?)


((てか、そもそも現状で『57%』の支持率を持つ副会長の票を奪えるのか……?))


「はぁ……何だか先はまだまだ険しいわね」

「朝倉さん、これでもまだ勝つ方法が出来ただけマシだよ……」


(ヤバイ、そろそろ校門が見えてきた。他の生徒もチラホラ見えてきたし、内緒話はここら辺で止めとくか)


「あれ、安藤くん。あの校門前にいるのって……」

「え? あ……」

「うふ、おはようございますですわ♪」


「「せ、生徒会長! おはようございます」」


「ふふ、お二人とも仲が大変よろしいのですわね。私少し、羨ましいですわ」

「は、はぁ……えっと、姉ヶ崎先輩は朝の見回りでもしているんですか? 生徒会の仕事とか」

「…………」

「いいえ、少し御用がありましてここで待たせていただきましたの♪」


(用って、やっぱり私によね? 何の用事かしら……)


(生徒会長って『B』……だよね? いや、でもアレ『偽造』っぽいぞ……)


「それで、姉ヶ崎先輩。用事って言うのは何でしょうか?」

「うふふ。朝倉さん、すみません。本日、用件があるのは朝倉さんでは無くて――」


「「え」」


((ま、まさか……))


「はい♪ その隣の『安藤くん』ですわ」







【次回予告】


「皆、いつも応援してくれてありがとう! 委員長よ。

 さーて、次回の『何故かの』は?」


突然、目の前に現れた生徒会長。なんと彼女は埼玉県民の女子を貧乳化させようと目論む群馬県グンマーの使者だったのだ! そして、生徒会長は安藤くんにある『お願い』をするのだが……


次回、何故かの 「脅迫」 よろしくお願いします!


「この『お願い』受けていただけますでしょうか?」 


* 次回予告の内容は嘘予告になる可能性もあります。

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