第108話「取引」
「でぇえええええ! 委員長何で、俺の推薦人になってくれないんだよー」 ブーブーッ!
「あのねぇ……安藤くん。そもそも、何で私が貴方の『推薦人』なんてやると思ったのかしら?」
(まったく、彼にはもう少し現実を見て――)
「あのねぇ……委員長。そもそも、委員長以外に俺が『推薦人』を頼める人がいると思うの?」
「…………」
(意外と現実見てた!?)
「だとしてもお断りよ!」
「何で!? もし、俺が生徒会長になったら委員長を秘書に任命してあげるから!」
「それも絶対に嫌! てか、安藤くんそれって、秘書の名目で仕事を全て私に押し付けるつもりでしょ?」
「うっ……」
(何故分かったし)
(図星ね……そもそも、私は生徒会には興味が無いのよ。私が目指しているのはあくまでも『安定したクラスの地位』であって生徒会なんかに入ったら目立ち過ぎるわ。女子の世界では『出る杭は打たれる』じゃなくて『不相応な杭はすりつぶされる』なの)
「そもそも、私が安藤くんの『推薦人』をやるにしても何の『メリット』も無いし、前提として貴方が選挙で大敗するのは目に見えているわよ」
「それはそうなんだが」
(うーん、つまり……委員長が『推薦人』を引き受けるメリットがあれば話は変わると言う事だよな?)
「よし、分かった! なら、俺が生徒会長になったら委員長を『副会長』に任命してやる!」
「それも、絶対に嫌っ!」
「えー、なら何ならいいんだよ……書記? 会計?」
「だから、私は生徒会には興味が無いの!」
(まったく、私は今の『委員長』の地位で満足しているのよ。だから、安藤くんが何を条件に出そうとも――)
「むむぅ……あ! なら、俺が生徒会に入ったら『図書室の予算を二倍にする』とかどうよ?」
「ッ!?」 ピク!
(おやぁ~?)
「俺は思うんだよね~正直、ウチの学校の図書室って扱っている本の量とか質とか低くない? もし……『もし』の話だけど、俺が生徒会に入ったら~……図書室の予算を二倍にして、ラノベとか他の本も充実させるんだけどな~~」 チラ?
「…………それは本当?」
(よし、落ちた!)
「もちろん! 委員長、安心してくれ。俺は約束は守る男だ。もし、俺が俺が生徒会に入れた時には『必ず』図書室の予算を二倍にする!」
「で、でも……そんなの口ではいくらでも言えるわ! いざ、当選した時にやっぱり無理だって言う可能性も……」
(大丈夫、ここまで来ればもう釣れたも同然! 後は委員長の中に残る疑念と不安を取り除くだけ……いける、委員長の心は確実にこっちへ傾いている!)
「委員長、俺は数学の成績で『5』以外を取った事が無い……この意味が分かるな?」
「ッ!?」
「そう、こと『数学』に関して俺は『最強』だ。つまり、生徒会に入りそれなりの権限さえ得れば委員会の予算の一部を上手い具合に『調整』することなんざ造作もない……」
「ふ、フン……そんな言葉で、この私が……」
(フッ、この囁きは委員長にとってさぞ魅力的に聞えているだろう。何故なら、委員長は前から図書室の予算の低さに嘆き入荷希望が出せないとよく愚痴っていたからな……)
(どどどどど、どうしよう!? 確かに安藤くんの言うとおり、彼が生徒会に入れれば図書室の予算を増やすことなんて、案外簡単に出来るんじゃないかしら!?
そそそ、そしたら、あの本も……個人が買うには手が出しづらいあの本も! それに、新しい本棚の増設だって!)
「委員長、すまないが俺も時間が無いんだ。出来たら早く決めてくれないか?」
「はぁ!?」
(時間が無いは嘘だけど、ここは少しでも委員長を焦らせて冷静な判断をそぐ!)
(この男……っ! 『ぼっち』のアンタが『時間が無い』なんて嘘にきまっているでしょうが! くっ、でもこうして私を怒らせて冷静な判断をそぐつもりなのね! ああああ、もう! 嫌でも焦っちゃうじゃないのよ!)
「あぁ……委員長がこの話を引き受けてくれないと、俺は確実に落選してしまうだろうな……でも、それも仕方ないかぁ~? そうなったら、図書室の予算の上乗せなんて『絶対に無理』だろうなぁ~」 チラチラ?
「ぅぅ~~っ! ば、ばぃ……」 ボソリ
「んんん~~??? なんだろう? 声が小さくて聞こえ無いなぁ~~?」
「ぬぅ!? ぅううう…………っ!」
(さぁ、言え! 堕ちろ、委員長! 敗北の言葉を言って俺の『推薦人』になるのだ!)
「さ、三倍よ! 最低でも三倍ないと話にならないわ!」
「えぇ~~三倍……? 流石にそれはボリ過ぎじゃないの?」
「何言っているのよ! どうせ、貴方の事だから本を増やすと言っても『ラノベ』が目当てでしょ! でも、私はラノベもだけど、それ以上に今の図書室には私の大好きな『新書』に『単行本ノベル』に『ハードカバー』とかそろえたい本が沢山あるのよ! それを揃えようとしたら予算の三倍でもすまないんだからね!? 本当なら、古くなった本の買い替えや本棚の増設に修復とか、予算があればしたいことなんて山ほどあるのよ! だからこその最低でも『三倍』なの! 最低でもそれが約束されないのなら、話にならないわね!」
「なるほど……じゃあ、委員長は『予算の三倍』なら、俺の『推薦人』になってくれるんだな?」
「うっ……貴方、私を乗せたわね……?」
「まぁな。でも、言質は取ったぜ?」
(あぁ~つい、本音が出ちゃったわ……こんな事になるのなら、前々からこんな愚痴を安藤くんなんかに言うんじゃ無かったわね。
まぁ、でも……)
「安藤くん、本当に生徒会に入れば図書室の予算を『三倍』にしてくれるのね?」 ニヤリ
「ああ……俺も図書室を愛する一人として『ラノベ』にかけて誓おう。
俺が生徒会に入ったら、絶対に図書室の予算を三倍にしてみせる……これが、委員長だけに送る俺の『マニフェスト』だ」 ニヤリ
「そう……なら、喜んで引き受けるわ」
「ああ、これから宜しくな。委員長」
ガシッ!
(この日、俺は委員長と固い握手を交わした)
【次回予告】
「皆、いつも応援してくれてありがとう! 委員長よ。今回から、私がこの作品の次回予告を務めるわ――って、なんで私って毎回こういう変な仕事ばっかり回ってくるのかしら……?
さーて、次回の『何故かの』は?」
無事に、推薦人を確保した安藤くん。これでようやく選挙活動を起こせると思った彼の前に意外な人物が立ちふさがる……
次回、何故かの 「魔王、襲来」 よろしくお願いします!
「僕は君の生徒会入りを断固拒否する!」
* 次回予告の内容は嘘予告になる可能性もあります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます