第106話「対抗馬」



「はい、私が『生徒会長』ですわ♪」

「はぁ……」


(生徒会長の顔なんてあまり覚えてなかったけど、この長く伸ばした金髪の髪に、上品なお嬢様を思わせる貼り付けたような笑顔……確かに生徒会長だわ。それに――)


「…………」  スカーン

「…………?」 ストーン


(うん、何だか私……この先輩と仲良くなれそうな気がするわね!)


(何故か、とても不名誉なレッテルを貼られた気がしますわ!?)



「おいおい、吉田! 生徒会長がウチのクラスに来たぞ! すっげえええ美人だな! お嬢様みたいだぜ!」

「生徒会長がウチのクラスに何の用だ……? あと、山田は存在が五月蝿い」

「存在が五月蝿い!?」

「ウェーイ!」

「沢渡もな?」

「ウェェエエイッ!?」


「初めまして、ですわね? ご存知かも知れませんが、私は『生徒会長』を勤めさせていただいております三年の『姉ヶ崎』と申します。どうか、お見知りおきを♪」


「姉ヶ崎先輩ですね。それで、生徒会長の姉ヶ崎先輩が二年の私に何の用事でしょうか?」

「はい……実は今回、私は朝倉さんにある『お願い』がありましてこちらのクラスを訪ねさせていただいたのですわ」

「『お願い』ですか?」

「ええ♪ 朝倉さんはもう直ぐ『生徒会長』を決める選挙があるのはご存知でしょうか?」

「それは……知ってますが」

「実はその選挙『生徒会長』として朝倉さんに立候補していただきたいのですわ♪」

「は?」


(生徒会長に立候補……? 生徒会長が直々に指名で私を!?)



『ええええええええええええええええええええええ』 ← クラス一同



「突然のお願いで申し訳ないのですが、どうか前向きにご検討願えませんでしょうか?」

「ちょちょちょ、ちょーーっと待ってください! ななな、何で『生徒会長』がそんな事を何の関係も無い私に頼むんですか!?」

「そうですわね。まずは順を追って話しましょう……朝倉さんは今回の『生徒会選挙』の立候補者は何名いると思いますか?」

「立候補者ですか……」


(確か、安藤くんの話だと毎年は三人~五人はいるのよね)


「三人くらいでしょうか?」

「いいえ、今の段階での立候補者は『一人』だけですわ」

「一人!?」

「ええ……このままでは選挙は行われずに『生徒会長』はその彼になってしまいます。これは誠に自分勝手な理由なのですが……私はその彼に『生徒会長』は向いていないと思うのですわ」

「姉ヶ崎先輩は何故『その人』には生徒会長が務まらないと思っているんでしょうか? もしかして、仕事が出来ないとか?」

「いいえ、彼はとっても優秀な人ですわ。それこそ、私なんかよりもよっぽど♪」

「じゃあ、何で?」

「はい……彼は『優秀過ぎる』のですわ。なんと言えばいいのでしょうか……頭が固いといいますか、融通が利かないといいますか……常に物事をイエスかノーでしか考えない性格なのですわ。それでいて正義感が強くて無駄に能力も人望も高い所為で……もし、このまま彼が『生徒会長』になるとあまり良い結果になるとは思えないのです。下手をすれば今の校則で許されている事が禁止になることも出てくると思いますわ」


(校則ね……そういえばこの学校の校則はアルバイトが禁止されていなかったり、帰宅部の選択が可能だったり、髪型や髪の色に、私物の持込など、結構校則が緩いのよね。確か、それらの校則って前々の生徒会が生徒の要望を聞いて校則を緩めたとか……)


「この学校の生徒会は歴史が長いですから、生徒会長になればある程度の『権限』が付いてきます。だからこそ、私はできれば自分の後を任せる人もなるべく、自分が選んだ人物にお願いしたいのですわ。それに、この学校にはまだ、私の妹もいますので……」

「それで、私に『生徒会長』を?」

「はいですわ♪ 噂によると朝倉さんは学校の中でも人望が厚く、学業も優秀でさらに運動も出来るとか? それでいて、人柄も大変素晴らしいと聞いておりますわ。出来れば私はそのような方に自分の後を継いで欲しいのですわ」

「でも、それってただの噂ですよね……? 姉ヶ崎先輩は実際に私の事を知っているわけではないみたいですけど、それで私がその立候補する『彼』のような性格を隠していたらどうするんですか?」

「ウフフ……それは大丈夫ですわ。貴方がそのような人でないのはあらかじめ把握していますし、今もこの目で確認してその心配もなくなりました。実は今日私自らこのお願いをしにきたのは朝倉さんがどのような人物か私の目で見たかったのも理由の一つなのですわ♪ それで、どうでしょう……この話、受けてはいただけないでしょうか?」

「それは……」


(うーん、実際『生徒会長』には安藤くんのこともあって立候補は検討していたわけだけど……)


「先輩のお気持ちは嬉しいですが……正直、私に『生徒会長』の仕事が勤まるかどうか……」

「それなら大丈夫ですわ♪ 流石に私は受験もあるので『生徒会』には残れませんが選挙が終わった後の数ヶ月なら仕事の引継ぎで教えてあげる事もできますし、軽い相談ごとでしたらメールでも電話でもいつでもご相談に乗りますわ♪」


(ウフフ♪ むしろ、私としてはその方が嬉しいのですけど……可愛い妹のために次の生徒会長とパイプをつなげておけば何かと『妹』のために動ける事も多いですわ。でもそれには学校の校則が厳しくなる『彼』の生徒会は問題外……ならば『彼』以外の私と交友のある人物を『生徒会長』に推薦したいですが、生憎な事に『彼』に選挙で勝てるような生徒は殆どいませんわ。ですから、ここで『学校一の美少女』と名高い『朝倉さん』に白羽の矢を立てたのですわ! 彼女なら『カリスマ』もありますし、あらかじめ調べた人間性にも問題は無かったので『仲良く』しておけば私が安心して後を任せられる『生徒会長お人形さん』になってくれますわよね♪ そうなれば、可愛い妹を残しても安心して卒業できますもの♪)


「そうですか……ち、因みに! 私が生徒会長になったら他の生徒会のメンバーは?」

「それでしたら、私も他のメンバーを探すのもお手伝いいたしますわ♪ もちろん、朝倉さんの方で推薦したい方がいるのでしたら、その方をメンバーに入れていただいて問題ありませんわ♪」

「そうですか……」 ホッ


(あら? この感じ……どうやら、朝倉さんには他に生徒会に入れたいお方がいるみたいですわね。なら、その方が好都合ですわ♪ それをエサに朝倉さんを生徒会長にできれば他の役職なんてどうでもいいですもの。それに、もし問題があればこちらの息のかかった生徒に無理やり変更させることもできますわ♪ ウフフ……重要なのは『生徒会長』の役職だけ……)


「分かりました……なら、私『生徒会長』に立候補します!」

「あら、本当ですの? とても嬉しいですわ♪」


『おおおおおおおおおおおおおおお!』 


「はい! よろしくお願いします。姉ヶ崎先輩!」

「ええ、こちらこそ宜しくお願いいたしますわ♪ 朝倉さん」


(生徒会長になれば安藤くんを生徒会に入れることができるんだし、これでいいわよね!)


「因みになんですけど、その立候補している『彼』というのは生徒会長のお知り合いの方なんですか?」


(どうも口ぶりからして、今の生徒会の人間みたいだけど……)


「はい、彼の名は『石田くん』今の生徒会の『副会長』ですわ♪」







「おい! ちょっと待てよ! ノーサンキューってどういう事だ!?」

「ふん……そんなことも分からないのか? 君は愚かにも私利私欲のために『生徒会』の椅子を狙っている。本来『生徒会』とは学校生活を送る上で問題点や課題などを改善・解決することを目的とした組織だ。その組織に別の目的をもった人間が入ることの方が問題だろ」

「ぐぬぬ……」

「そもそも、その『動機』も問題だ。意中の女子と同じ大学に行く為とは……まったく、君も愚かだがそんな君に付き合う女の方も愚かだとしか言えないな。男を見る目がないのか?」


(……プッチーン)


「待てよ」

「……何だ?」

「俺のことは何と言われたってかまわない。確かにお前の言う通り俺は浅はかで馬鹿な考えで『生徒会』に入ろうとしている『愚か者』だ。だけど……朝倉さんを侮辱する言葉だけは許さない」

「ほう……なら、どうするんだ?」


「俺が『生徒会長』になる!」


「なん……だと?」

「俺がお前と『選挙』で争って生徒会長に当選してやる! そうすれば、見る目が無いのは『お前』の方だってことだ!」

「なるほど……面白い。なら、僕が選挙で負けたら『あの言葉』は撤回しよう。でも、僕が『生徒会長』になったら……」

「その時は『土下座』でもなんでもしてやるよ!」

「そうか、今の言葉忘れるなよ?」

「そっちこそな! 絶対だからな!?」

「もちろんさ……まぁ、だけど――」


 カラカラカラカラ~

 ジャー

 バタン! ← トレイのドアを開ける音



「『生徒会長』になるのは僕だ」



 スタスタスタ ← トイレから出ていく足音


「おい、手洗えよ」

「…………」


 スタスタスタ ← トイレに戻ってくる足音


「…………」

「…………」


 バシャバシャ~ ← 手を洗う音


「……よし」


 スタスタスタ ← トイレから出ていく足音



「『生徒会長』になるのは僕だ」 キリッ!






 翌日


「お、おはよう。朝倉さん……」

「お、おはよう。安藤くん……」



【生徒会長 立候補者】

①石田くん

②朝倉さん

③安藤くん



「…………」

「…………」


((どうしてこうなった……!?))


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