第103話「花火」


(よし、なんとか朝倉さんを上手く誘い出すことに成功したぞ……あとはこのまま散歩しながら、あそこに誘導すれば――)


(あわわわ……安藤くん、この公園の先は完全に大人なホテルがある場所……ってコトは本当にしちゃうつもりなの!?)


「…………」 

「…………」 


(うーん……何だかさっきから、いつもドタバタしてる朝倉さんが妙に静かなんだよな。もしかして、俺が緊張しているのが朝倉さんに伝わっちゃったか?)


「ねぇ、朝倉さん」

「にょい!」

「あははは、何その返事? 少し話そう」

「そ、そうね! 散歩って言うのはおしゃべりしながらするのが、だだ、醍醐味ですものね!」


(いやいや、それじゃ一人で散歩する場合はただの変人になっちゃうじゃないか)


「俺ってこんな風にただ予定も無く適当な道を散歩して歩くの結構好きなんだ」

「へ、へぇ……そうなのね。でも、安藤くんに『散歩』なんて趣味があるのは意外ね……一体、安藤くんは『散歩』の何が好きなの?」

「そうだね。しいて言うなら『冒険』かな?」

「冒険?」


「うん、俺達が普段の日常で使う『道』って大体が決まっているでしょ? 学校の通学路だったり、日常生活で使うお店や交通機関までの道とか。でも、この街には地図を見れば俺たちの知らない『道』が沢山あるんだよ。それって何だか不思議な事だと思わない? だって、俺達はこの街に何年も住んでいるのに、普段使わないたった数キロ先の道を『知らない』んだ。そして、その『未知』を自分の足で歩いて『道』にして、知識として知るってまるで『冒険』みたいじゃない?」


(俺って小学生の頃から既に『ぼっち』で遊ぶ友達もロクにいなかったから、放課後は常にいろんなところを散歩して、それで自分の知らない道を見つけてその道が知っている別の道に繋がった時とか『ここはこの場所に繋がっていたのかー』って、よく感動したなぁ……)


(『散歩』……『冒険』……『道』……安藤くん! つまり、貴方のその言葉は――

『今から【散歩(ホテル)】に行くぜ! 朝倉さん、大丈夫……確かにキミにとってこれからすることは【冒険】に近いかもしれない。だけど、これは俺達がカップルとして進むべき【道】なんだ! だから、今は黙って俺について来い! マイハニー♪』

 ――って、ことね!) ←頭がポンコツになってます


「なんていうか散歩って『何気ない日常』を冒険することだと俺は思うんだよ」

「そ、そうね。確かに散歩(ホテル)は何気ない日常にあるものよね!」 ←頭がポンコツになってます


(はわわわ! そんなことを言いながらも安藤くんの進行方向はドンドンと大人のホテルがある方向へ……安藤くん!? 貴方、何気ないとか言いながら、本当はトンでもない日常を目指して冒険しようとしてるわよねぇええ!) ←頭がポンコツになってます


「それにさ、俺はこんな散歩の途中でみる見慣れた風景っていうのも何気に好きなんだ。いつもと同じ知っている風景、知っている道でも『散歩』として改めて歩いて見ると、いつもは気にしないような古い家や、生い茂った自然や、ふと感じる風の匂いとかがいつもと違う日常を見せてくれるような……なんて、何言ってるかわかんないよね?」

「そそ、そんなこと無いわ! わ、私だって安藤くんと同じでこの『散歩』もいつもと違って見えるもの……」

「本当! 朝倉さんも俺と同じ気持ちで、良かった」

「う、うん……」


(安藤くんの言うとおり、普段は気にしないような道だけど、いざここをホテルまでの散歩なんて言われたら気にせずにはいられないわよぉおおおおお!) ←頭がポンコツになってます


「だからさ、俺はこの夏休みの間は本当に幸せだったんだ」

「え?」

「朝倉さんにはいろいろ不安にさせて本当に悪かったと思う。でも……それもでも、この夏休み朝倉さんの家で過ごした『日常』は確かに何も無かったかもしれないけど『ぼっち』の――いや『ぼっち』だった俺にとって、朝倉さんと一緒に過ごした今年の夏休みは、確かに毎日が『デート』で『何気ない日常』を冒険した大切な思い出なんだ」

「安藤くん……」


(つまり、貴方はこの夏休みという『冒険』のゴールとして、この先にある『ホテル』で最高の思い出を作ろうって事なのね! わわわ、わかっちゃ!

 私、覚悟を決めりゅ!) ←頭がポンコツになってます


「そろそろだな……朝倉さん、そこに高台があるよね。少しそこに上ろうか」

「え、うん……別にいいけど」


(安藤くん、公園の奥にある人気の少ない高台になんて上ってどうす――はっ! まままま、まさか! そんな嘘! えええええ、安藤くん『そろそろ』ってまさか我慢が出来なくなってここで!? まさかこの公園でするつもりなの!) ←頭がポンコツになってます


「よし、上れたね。朝倉さん、上を見て」

「う、うぇ……?」



ドーン……


 パーン!

     

パパッパーン!



「花火だわ! 綺麗……」

「うん、良かった。ちゃんと見れるね。今日はこの近くで花火大会があるんだよ。でも、気付いたのは昨日で会場は場所が取れなくてね。でも、この公園の高台なら、きっと今日の花火も見れると思ったんだ」

「はっ! じゃあ、安藤くんが散歩でこの公園に来たのって――」

「うん! 朝倉さんに花火を見せたかったんだ! どうかな……驚いた?」

「も、も……」

「も?」

「もちろんよぉおおおおおおおお!」


(何だぁ~そうだったのね。もう、私はてっきり――って、別に何も勘違いなんかしてないわよ!? ホテルがどうこうなんて思っても無いんですからね!)


「この場所は俺が子供の頃に散歩で見つけたお気に入りの場所なんだ。夏休み、確かに俺は朝倉さんと過ごせて幸せだった。でも、それは俺が勝手に思っているだけで朝倉さんがどう思っているかを考えていなかった。だから、改めて朝倉さんの気持ちを知った時、自分で考えて朝倉さんにも最高の夏休みの思い出を作って欲しいと思ったんだ」

「それで、今日のデートってわけね?」

「うん……俺としてはなるべく朝倉さんに喜んでもらえるように『ヘタレ』で『ぼっち』な俺を卒業して頑張りました」

「安藤くん……ありがとう。私、貴方が大好きよ!」


(大好きか。良かった……俺はこの言葉が彼女から聞けただけでも、今日一日だけでも『ヘタレ』で『ぼっち』な自分を卒業した甲斐があったってもんだ)


「ねぇ、朝倉さん『付き合う』ってどう言う事かな?」

「え、それは……お互いに『好き』同士で……『デート』とかしたり、ラノベを読み合ったり……うーん……分からないわよ。

 そう言う安藤くんはどう思うの?」

「うん、俺も考えたよ。最初はただ好きな人と一緒にいることだと思ってた。でも、それは違うんだと思う。今回の夏休み、俺はただ朝倉さんと一緒にいるだけで満足していた。それは俺がそれだけで幸せだったからだ。でも、それで朝倉さんに『不安』を抱かせていたんだからそれじゃダメだよね。

 だから、考えた……『付き合う』ってなんなのか。俺達は何のために『付き合う』のか?

 朝倉さんはそこに明確な行動を求めたけど、俺はそれも違うと思う」

「っ!? そ、それは――私も焦りすぎたというか……」

「た、確かに恋人ならそういうのは大事だと思うよ? でも、俺は考えた中で思ったんだ。そういうのって『付き合っている』からするってのは嫌なんだ」


(行動って……多分『アレ』のことよね!? ちち、違うのよ! 安藤くん、あれはただ『ハグ』のことを言っていただけであって別に『アレ』のことではないのよ!

 ――って、この流れはもしかして『別れ話』!? 安藤くんもしかしたら……

『ゴメン、朝倉さん……やっぱり、俺はCカップ以上の女の子としかそういう行為は出来ないよ……別れよう』

 ――ってことぉおおおおお!?) ←また頭がポンコツになってます


「それで、俺は気付いたんだ。じゃあ、俺は何で朝倉さんと『付き合った』のか」


(それはやっぱり……

『あの時はノリで返事しちゃいましたゴメンなさい』

 って、流れよねぇええええええええ!)


「普通に考えたら俺が朝倉さんと『付き合う』なんてありえなかったんだ。だって、俺は所詮ただの『ヘタレ』の『ラノベオタク』の『ぼっち』だし、そんな俺が『学校一の美少女』の朝倉さんと『付き合う』なんて考えられるはずも無い」

「はわはわ……安藤くん、それは――」


(ああ、やっぱり、この流れ……私、安藤くんにフラれるんだわ……)


「朝倉さん」

「……はい」


(それもそうよね……だって、私ったらこの夏休み一人で勝手に浮かれて沈んで暴走して……こんなギリギリCカップにならないBカップの彼女なんて、安藤くんも面倒よね? そんなのフラれたって仕方ないじゃない……せめて、フラれるなら最後くらいは潔く受け入れてカッコいい『私』でいましょう)




「俺と結婚してください」

「分かったわ……安藤くんの気持ちが硬いと言うのなら――……」




(……………おう?

    うーん………………え?

んんん――――???)



「い、今……なんて言った?」


(なんか……私の頭が急にポンコツにでもなったのか……安藤くんが求婚を申し込んで――)


「え、もう一回……えーと、

 朝倉さん、俺と結婚してください! って、言いました……」


(き、きたぁああああああああああああああああああああああ――っ!?)


「ホゲェエエエエエエエエエエエ!? あああ、安藤くん! どう言う事!? 何で今の話の流れで『結婚』を申し込んできてるの!? てか、私達まだ高校生だし安藤くん結婚できる歳じゃないでしょ!」


「うん、でもそれが俺の出した『答え』なんだ。

 何で朝倉さんと『付き合った』のかを考えた時、やっぱり答えは俺が朝倉さんを『好き』だったからなんだ。俺は決してあの時の雰囲気、まして流れなんかで朝倉さんと付き合ったんじゃない。


 俺は朝倉さんが『好き』だから付き合っているんだ!


『付き合う』って……多分、自分だけじゃなくて相手と一緒に気持ちを『共有』する事なんだよ。

 今日のデート、朝倉さんは花火が綺麗だと思ったでしょ?」


「う、うん!」

「俺はこれから……そういう思い出を朝倉さんと一緒に作っていきたい。朝倉さんが『好き』だと思うラノベを俺も楽しんだりするように、朝倉さんの『何気ない日常』を『俺達の何気ない日常』として『共有』したい。だから、朝倉さんにプロポーズしたんだ」

「で、でも……安藤くん、それで『結婚』はまだ早いし法的にも出来ないわよ!」

「うん、知ってるよ。だから、これは『婚約』って事になるのかな? 確かに俺達はまだ結婚も出来ないし、俺は朝倉さんに指輪を渡せるような甲斐性も無い。でも、この気持ちは本物だから! 俺は朝倉さんと『結婚』したい! この先も朝倉さんと一緒に『日常』を生きたいと思った。

 や、約束する……確かに、今は結婚できないけど、いずれ俺が朝倉さんを養えるような甲斐性を手に入れたら、その時改めて君に指輪を送ります。

 だから――卒業したら、俺と結婚して! 死ぬまで一緒にいてください!」


(安藤くぅううーーーーん!? 貴方『何故付き合うのか?』って、疑問から『好きだから付き合うんだ!』→『じゃあ、結婚しよう!』って話が飛躍しすぎよぉおおおおおおおおおおおおおお! 私だって……私だって! 確かに安藤くんのことは好き! だけど……けけけ、結婚なんて――――)


「うん! 安藤くん、私も愛してる! だから、結婚しゅる!」


(OKに決まってるでしょうがぁあああああああああああああああああああああ!)


「朝倉さん……」


(良かったぁ、朝倉さんがOKしてくれてマジで良かった……流石に付き合っているからっていきなりの求婚は引かれたらどうしようと思ったけど、朝倉さんが彼女で本当に良かった! まぁ、朝倉さんが『彼女』だからこそプロポーズしたって言うのもあるけどさ……

 しかし、これで朝倉さんの『不安』は取り除けたかな。

 朝倉さんの気持ちが爆発したのはこの夏休みの俺の行動による『不安』が原因だ。だから、それを取り除くには俺が自分の気持ちをはっきりさせて『誠意』を見せなきゃいけない。

 その為に『ヘタレ』を卒業して『プロポーズ』したんだからな!

 だって『ぼっち』で『ヘタレ』なままの俺じゃあ『プロポーズ』なんて絶対に出来ないし……)


「うぅ……何だか、プロポーズが成功したら、緊張が解けて急に目眩が……」

「もう、安藤くんしっかりしてよね? それでも、私の『彼氏』でしょ?」

「申し訳ないです……」

「申し訳ないと思うのなら『行動』で示して欲しいわね……?」

「え、行動って……」

「ほら、ここなら誰も見ていないわ…………」チラチラ!


(え、朝倉さん急に目を閉じて――って、つまり『キス』! ここでぇええ!?)


「無理無理無理! 朝倉さん、流石にハードル高いよ!」

「プロポースした彼氏さんが、いまさら何を言ってるのよ!」

「いや、だって……あの時は『ヘタレ』な俺を卒業してたから出来たわけであって、今はもう緊張が解けて『ヘタレ』な俺が再入学しちゃったんだよ! 大体、こういう『行為』はそんな軽々しくするべきでは――」

「私が純粋に『したい』だけよ! 文句あるの!?」

「いや、でも……俺の方にも準備と言うものが――」

「ええい! 御託はいいからさっさとその唇を私に寄越しなさい! ギャウゥウウ!」

「キャ、キャァァアアア!? 朝倉さんのケダモノォオオオオオオオーーッ!」


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