第99話「作戦C」


「…………」


(昨日のモモと委員長との話し合いの結果、私と安藤くんはカップルとしてあまり進んでいないという驚愕の事実が発覚したわ。

 正直、私の感覚ではもう両親に挨拶もしたし、お互いの家にも行くくらいだから『これは卒業と同時に籍を入れる可能性もあるわね!』くらいに考えていたのだけど、どうやらその考えは甘かった……確かに、モモと委員長の言うとおり私と安藤くんって付き合っているはずなのに『何かが足りないわね~何かしら?』って、思う事がしばしばあったのよ。


 そして、その答えが『スキンシップ』よ! 


 そう、思い返せば私と安藤くんって付き合っているはずなのに驚くほど『恋人』としてのスキンシップが少ない! 私達は『恋人同士』なんだから、少しでもこの夏休みに関係をすすめなきゃダメなのよ! まぁ、その原因は私と安藤くんが『奥手』になりすぎていること……

 私は安藤くんと『カップル』になったという事実で満足していたけど、よく考えれば安藤くんは積極的に関係を進めようとする人ではないわ。だからこそ、こういうのはなんていうのかしら……? そう! 私が『リード』してあげなきゃ!)


「十二時まで……あと十分!」


(いつもどおりなら、そろそろ安藤くんが私の家に来る時間だわ……いつもの予定なら私の家で宿題をしたらラノベを読んでごはんを食べて終りだけど、今日は違う!)


「委員長のくれた目標……フフフ、安藤くん! 今日はそれを達成するまで帰さないわよ!」


(ズバリ『恋愛のABC!』委員長は最低でも『A』を達成しろと言っていたけど、私が安藤くんに求めるのはもっと上! そう『ハグ』よ!)


「覚悟しなさい、安藤くん! 今日のデートはそのために貴方を誘惑する作戦をいくつも用意したんだから! アッハッハッハッハ!」



 ペッタ~~ン♪ ←チャイムの音



「ひゃう!?」


(な、何だ。チャイムの音ね――ってことは……安藤くんが来たわ!)



 ガチャ!


「あ、安藤くん。いらっしゃい♪」

「おはよう、朝倉さん」


(よし、ここで早速『安藤くん誘惑作戦その1』発動よ!)


「あ、安藤くん……」

「何、朝倉さん?」


「実は今日ね? ママもパパも家にいないの……」

「?」


(どうかしら! これこそネットで調べた恋人を誘惑する方法第一位の『今日、親いないから……』作戦! つまり、家に親がいない状態で恋人を呼ぶと言うことは、なんか書いている事がよく分からなかったけど『OK』と言うサインらしいのよ! ネットの情報によるとこれで貴方の彼氏はリビドーを抑えきれずに二人はラブラブになるって書いてあったわ! さぁ、安藤くんの反応は――)


「え~朝倉さんのお父さんいないの? せっかく、お父さんと将棋するために『りゅうおうのままごと』を読んで、振り飛車の新しい戦法を覚えてきたのに……」


(まさかの『ガッカリ』!? う、嘘でしょ! 彼女に『今日は二人っきりだよ♪』って、言われて彼女のお父さんの不在にガッカリするってどういうことよ!) スッカーーン!


(なんか今日は朝倉さんの様子がおかしいな……もしかしたら、ご両親が家にいないから緊張しているのか? なら、朝倉さんが安心できるよう、なるべく過度な接触は控えるようにしよう。あれ? でも、朝倉さんの両親が家にいない日なんていままでもよくあったよな……?)


「じゃあ、安藤くん。とりあえず私の部屋に行こうかしら?」

「そうだね。お邪魔しまーす」


(こ、これで勝った気にならないことね! ふふふ……『作戦その1』は失敗に終わったけどあの作戦はネットで調べた中でも最弱……私にはまだネットで調べた第二、第三の作戦があるんだからね……か、覚悟しなちゃい!)




 作戦その2『薄着で肌を見せて妖艶にアピール』



「ふぅ……今日は暑いわね。上着も脱いじゃおうかしら? うふん!」 せくしぃ~~アタック!

「あ、じゃあ冷房をつけるね?」 ピッ!


 ビュォオオオオオオオ! ← 冷房の音


「さ、寒い……やっぱり着るわ」 ぶるぶる




 作戦その3『彼女の手料理でアピールしつつ、料理にすっぽんエキスを入れる』



 カッシャーン!


「きゃあ! すっぽ――じゃ、なくて我が家に伝わる秘伝のエキスのビンを割っちゃったわ! あ、あれ? お塩って何処に置いているのかしら……? ひゃぁあああ! ななな、鍋が沸騰しちゃ――アチャーーイ! フゥー、フゥー、もうヤダぁ……火傷したわ!」

「朝倉さん、落ち着いて……火傷大丈夫? うん、これなら水と氷で冷やせば大丈夫だね。後は俺に任せて朝倉さんは休んでて」

「え? でも、安藤くん料理は出来――」

「えーと……これはパスタを作ってたのかな? なら、俺でも作れるよ。えーと、確か塩はこの扉の中だね。お湯は沸いているから先にパスタを茹でて……今のうちにソースとか盛り付けの食材を考えよう。冷蔵庫の中身の感じだと――よし、簡単にトマトと水菜とモッツァレラチーズを使ったスパゲッティにしよう」


 ~数分後~


「最後に追いオリーブオイルをぶちまけて……はい☆ 

『トマトと水菜のモッツァレラ・スパゲッティ ~オリーブオイルを添えて~』の完成♪」

「…………」 ポカーン


(てか、安藤くん……ウチの台所を完全掌握しているし、それに何で私よりも料理が上手なのよぉおおおおおおおおおおおおおお!) 



 作戦その4『力こそ全て! こうなったら実力行使! 当たって砕けろ!』


(こうなったら、安藤くんの胸の中に突っ込んで『抱いて……』って、言えば男は一発で落ちるって書いてあったネットの最後の攻略法を使う時が来たようね……

 行くわよ!)


「安藤くーーん!」

「……!?」


(うわ! 朝倉さんフォークを持ったまま突っ込んできた!? こ、攻撃か? 取りえず避けるか……)


「抱いて!」

「…………」 スカ!


【だが うまくかわされた】


(って――か、かわされたぁぁああああああ!? むむむぅ……なら、もう一度! いや、何度でも!)


「あ、安藤くーーん!」

「ちょ! フォーク、フォーク!」 スカ! スカ! スカ!


【だが うまくかわされた】

【だが うまくかわされた】

【だが うまくかわされた】


「な、なんで避けるのよぉおおおおお!」

「朝倉さん! とりあえず、そのフォークを置いて!」



 ~数分後~



「なるほど……つまり、朝倉さんは関係を進めるために俺を誘惑していたと……」

「だっておかしいじゃない! 私達は『恋人同士』なのよ? もっと、夏といえば……こう! 盛り上がったりとか……付き合っているんだから!」


(朝倉さんの様子がおかしかった原因はこれか。どうせ、委員長とか桃井さんあたりに何か吹き込まれたんだろう。だって……)


「朝倉さん、一つ言っておくけど俺はこの家で朝倉さんを襲う気は一切無いからね?」

「ふぇ!? あ、安藤くん、それは……何で?」


(もしかして、私にそんな魅力が無いから? やっぱり、巨乳なの!? 巨乳がいいのね!?)


「そんなの朝倉さんのご両親に失礼だからに決まっているじゃないか……」

「え、私のママとパパに?」

「そう……普通、付き合っているとは言え学生の俺が朝倉さんの家に入り浸っているのって珍しいと思うんだ。でも、朝倉さんのお母さんもお父さんも俺が毎日来て朝倉さんの部屋で過ごしていても何も言わないよね? むしろ、今日みたいに俺達二人だけを残して外に出かけてる時もよくあるくらいだ」

「そうね……言われてみればそんなのしょっちゅうだわ」

「それは、朝倉さんのお母さんとお父さんが俺を『信頼』してくれている証拠だよ。自分達がいなくても俺が朝倉さんに手を出さない……いや『そんな度胸なんてなさそうだな』ってね!」

「それは、それで嫌な『信頼』のされ方よね……」


(まぁ、俺も否定できるわけでないので何も言えないんだよなぁ……)


「それでも、俺は朝倉さんのご両親がくれた『信頼』を裏切りたくない。だから、家に二人しかいないからって理由で朝倉さんを襲ったりはしないよ」


(あ、安藤くん……)


「因みに、それをヘタレなことの免罪符にはしてないわよね?」

「…………」 ギクッ!

「…………」

「そ、ソンナコトナイヨ……?」


(ヤバイ、この流れはヤバイ……)


「なら、私を抱いて!」

「あ、朝倉さん!? だから、それは――」


「それでも抱いてよ! 抱きしめてよ! 安藤くんは私のこと好きじゃないの!? まるで部屋に二人っきりになる度に期待してる私がバカみたいじゃない! 私は本当は安藤くんにもっと『好き』って言って欲しいのよ? 夏休みの間だって、もっと最初から会いたかった……でも、安藤くんは何も言ってくれないから……でも、私から言ったら『面倒な女』だって、思われるかもって何度も遠慮して……だけど、不安なのよ! 安藤くんが私を求めてくれないと……もぉおおおおおう! 何で襲ってくれないのよォオオオオオ!」


「ええええええええええええ!?」


「私は安藤くんが私を『好き』でいてくれるのか不安なの! お、お願い……安藤くんのためなら何でも聞くから、私を嫌いにならないでよぉ……」

「朝倉さん」


(そうか、朝倉さんはこの夏休みの間ずっとそんな『不安』を抱えていたのか。なのに、俺はそんな彼女の気持ちにも気付かず……『ぼっち』とか『ヘタレ』とか理由をつけてちゃんと『彼女』のことを考えてなかった俺の責任だよな。その所為で朝倉さんは泣いている……この涙を止めるのは簡単だ。

 ただ、彼女の要望に応えればいい。彼女を求めるだけでその涙は簡単に止まるだろう)


「うぅ……ひっぐ! えっぐ……は、ハンカチは……」

「あ、朝倉さん、俺のハンカチがあるから使って」

「あ、ありがとう……うぅ」 ズビビビィイイイ――ッ! 

「俺のハンカチィィイイイーーッ!」


(だけど、それはダメだ。俺が『彼氏』として朝倉さんにするべきことは彼女の涙を止めることではなく、その『不安』を取り除くことだからだ。

 だから、ここで感情に流されてしまえば朝倉さんの『不安』は小さなトゲとなって彼女の心に残り続けるだろう。俺が朝倉さんを求めたのは自分があの時に『泣いた』からだと……

 彼女にそう思わせないためにも、俺は朝倉さんに『気持ち』と『誠意』を見せなきゃいけない。それが俺の『彼氏』としての朝倉さんを泣かせた責任だ)


「朝倉さん」

「何……安藤くん?」



「『デート』しようか」

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