第96話「アドバイザー」
「朝倉さん、ゴメンね? 急に親に会って欲しいなんて頼んじゃって……」
「なななな、何を言っておるのかしら、安藤くん? ここ、こんなのどうってことにゃいわよ? わわ、私を一体誰だとおもっているのかしりゃ? この私がこんなご両親への挨拶程度……なんなんなぁあああああああああ!」
「朝倉さん、落ち着いて! ゴメン! ホント前日にいきなり相談してゴメンってば! だから、落ち着いて! ほ、ほら! これが終ったら一緒に街へ出て今日発売のハムスター文庫の新刊を買おう? なんなら俺が朝倉さんの欲しいなろう小説を買ってあげるから!」
「むにゅっ……あ、安藤くん、それ本当?」
「本当! 本当! だから、落ち着こうね?」
「そ、そうよね……よくよく考えれば私も安藤くんにお父さんで似たような事をしちゃったわけだし、今度は私の番よね! 安藤くん、分かったわ。私、頑びゃっ! って、痛ーい! 舌噛んだぁ……」
「あ、朝倉さん、大丈夫……?」
「も、もちろんよ! 私、今日のために自己紹介の練習だってしたんだからね? コホン……
は、始めまして、朝倉でしゅ! 安藤くんとお付き合いさせてもらってます!
趣味は読書、特技はDカップです」
「朝倉さん、やっぱり緊張しているでしょ? あと、さりげなく嘘を混ぜないでね?」
「……分かったわ。自重する」
(……本当に大丈夫かな?)
ガチャ
「ただいまー」
「お、お邪魔します……」
「あ! サクラお義姉ちゃんようこそ! お母さんなら、ちょうどリビングでお昼ごはんの準備してるんでどうぞ上がってください♪」
「は、はふぃ!」
「朝倉さん、一応昨日のうちにお昼は母さんがご馳走したいって言うから食べてこないで大丈夫って言ったけど……大丈夫そう?」
「うーん……正直、緊張しすぎて何を食べても味を感じれる自信が無いわ」
「だよね……」
(まぁ、俺も朝倉さんのお父さんと始めて会った時はそんな感じだったもんな)
「母さん。か、彼女……連れて来たよ」
「ぅ……」
(ヤバイ……朝倉さんのことを『彼女』とか呼ぶとマジでこんな美少女が俺の『彼女』なんだって実感して、今更緊張が――)
(安藤くんが私のことを『彼女』って! 『彼女』って呼んでくれて……ムキャアーー!!)
「なんか私、頑張れる気がする!」 ムフーッ!
「…………」
(――って、無いな。うん、俺の彼女は『ポンコツ』だ……よし、これでいい)
「あら、意外と早いわね。どうもこんにちは、安藤の母です」
「はわわわ……この人が安藤くんの『お母さん』……」
(すっ――ごい、美人なお母さんだわ……何故かスーツ姿の上から花柄のエプロンをかけているけど、そんなのが気にならないくらいの大人の女性ね。長い黒髪を後ろでまとめているところとか、細めのメガネをかけているところとか『おっぱい』も……け、結構大きいところとか……なんか全体的に『できる女』って感じだわ!)
「ふふ、こんな姿でゴメンね? この後お昼から仕事があるのよ。それで、貴方のお名前を教えてくれるかしら?」
「ふぁ! わわ、始めしゅて! あああ、あしゃくりゃでしゅ! あああ、安藤くんとはとっても清くて切実なお付き合いをさせていただいてます! 特技はCカップです!」
(うっわ! 何この子メチャクチャ美少女! この子がウチの息子の彼女……?
え、クラスの罰ゲームで告白されたとかじゃなくて? ウチの息子騙されてるんじゃないの? 大丈夫かしら……お金とか取られてない? まだ妹の『安藤ちゃん』と付き合ってるんです。とかの方が納得できるわ……てか、特技がCカップって何!?)
「ふふ、緊張しているの……よね? 別に緊張しなくてもいいわ。今日はこの子がどんな子と付き合っているのか知りたかっただけなの。今、ちょうどお昼ごはんの用意が出来るから、貴方も一緒にどうかしら?」
(ふやぁああ! お母様からのお食事のお誘い!? こ、これは絶対に乗るべきよね!)
「は、はい! 食べます! じ、実は私! お腹が凄いスカスカなんです!」
「…………」
(朝倉さんが『スカスカ』なのはお腹じゃ無いんだよなぁ……)
「あら、そうなの? じゃあ、直ぐに用意するからそのテーブルで待っててくれるかしら?」
「は、はい!」
「はーい……」
「こら、バカ息子。アナタは私の手伝いよ」
「……さいですか」
『いただきます!』
「今日の昼はグラタンか」
「わーい! サクラお義姉ちゃん! お母さんの作るご飯はすっごく美味しいんですよ!」 モキュモキュ♪
「サクラちゃん、どうぞいっぱい食べてね♪」
「は、はい! はむ……むぉおお! おおいしぃい!?」
「…………」 パクパク
(母さん、もう朝倉さんのことをあだ名で呼んでる。早いよ……)
「ふふ、そう? 喜んでくれて私も嬉しいわ」
「サクラお義姉ちゃん、ウチのお母さんはお仕事で『フードアドバイザー』をやっているんですよ」
「ふーどあどばいざー? それって料理番組とかに出て料理を作る人?」
「それはどっちかと言うと『フードコーディネーター』ね。私の仕事の『フードアドバイザー』は個人店などを中心に依頼を受けた飲食店を回って経営アドバイスをするのが仕事よ。あ、もちろん料理に関する資格も持っているから料理の腕にも自信はあるけどね♪」
「だから、ウチの母は『料理』には少し厳しいんだよ」
「そうなんですね。でも、このグラタン……本当に美味しいです!」
「お口に合ったようでよかったわ。今日はアボカドのグラタンに挑戦してみたのよ。隠し味は――ヒ・ミ・ツ♪」
「えーなんだろう? 隠し味……」 パクパク
「お母さん、わかんな~い」 モキュモキュ
「ふふ、そうね。隠し味だから、分からなくて――――」
「……」 パクパク
(この味は――)
「わさび醤油じゃね?」
「「「…………」」」 シーン
「……アンタそんなのだと、お父さんみたいになるわよ」
「お兄ちゃん……」
「安藤くん……」
「その反応、マジで傷つくから止めて!」
『ごちそうさまでした』
「お母さん、洗い物は私がやっておくね~」
「ありがとう。助かるわ」
「てか、母さん普通に飯食ってるけど仕事の時間は大丈夫なの?」
「ええ、あと三十分は余裕があるわ」
「ああ、あの……今日は私のためにお時間を作ってくださりありがとうございます!」
「別にいいのよ。そもそも、私が呼び出しちゃったわけだしね」
「でも、お母さんは凄いんですね! こんなに美味しい料理が作れてしかもお仕事でもバリバリ働いてるみたいで!」
「ええ、まぁ……ほら、ウチの旦那がアレだから」
「ああ……まぁ、個性的なお父さんですね」
「……………」
「ふふ、別にいいのよ? はぁ、何であんなダメ男になっちゃったのかしらね……昔はあれでも『マシ』だったのよ?」
「え、そうなの!?」
「そうなんですか?」
「ええ……私が『フードアドバイザー』になったきっかけって、私の父の潰れそうな喫茶店をフードアドバイザーの人が助けてくれたからなのよ」
「そうなんですね」
「てか、俺その話初耳なんだけど……」
「お兄ちゃん、私は知ってたよ~~」 カチャカチャ……パリン! ←洗い物の音
「何で俺だけ知らないの!?」
「…………」
(安藤くん、家の中でも『ぼっち』でかわいそう……)
「それで、私はこの仕事を目指し始めたんだけど……『フードアドバイザー』って有名じゃないでしょ? だから、結構周りには反対されてね。でも、そんな中であの人……今の旦那だけが私の『夢』を応援してくれていたのよ」
「へー……とっても素敵なお話ですね!」
「ふふ、父の喫茶店が潰れそうな時も、あの人は毎日一杯のコーヒーを飲みに来てくれたわ。今思えばあれも父の喫茶店が潰れないように売上げに貢献してくれてたのかもね?」
「……母さん、それって本当に『オヤジ』の話? マジで誰かと勘違いしてるとかじゃないの?」
「アンタは……疑う気持ちも分かるけど、紛れもない事実よ……そうだ、サクラちゃん」
「は、はい!」
(本当に美人だし可愛い良い子ね。ウチのバカ息子にはもったいないくらいだわ)
「ふふ、何だかサクラちゃんって、私と『似てる』気がするわ」
「そ、そうでしょうか?」
(私が安藤くんのお母さんと『似てる』……だとしたら! 私も将来はこんな感じのカッコよくて『おっぱいの大きい』できる女になれるってことね!)
「どうか、ウチの息子をよろしくね?」
「は、はい! 一生をかけて幸せにします!」
「朝倉さん、それ言うのまだ早いから……」
(幸せに『される方』なのは否定しないのかよ。バカ息子……)
「私と『似てる』サクラちゃんに、アドバイザーとして一つアドバイスをしておくわ」
「な、何でしょうか!」
「いい? 『男』は甘やかしてはダメ……『男』にビシッ! っと、言えるのが『良い女』なの……だから、男に甘い女はダメよ?」
「は、はい!」
「母さん、それ遠まわしに『息子を甘やかすな』って言ってるよね?」
「だって、娘は私似だからいいけど……アナタはねぇ?」
「止めて! 俺も母似だから! オヤジに似てるところなんて一切無いから!」
「……………」
「……………」
「だから、その反応は止めてぇえ!」
「いやいや、お兄ちゃん、結構お父さんに似てるところあるからね……?」 パリン! パリン! ←洗い物の音
【おまけss】「安藤ママとパパ」
「安藤さん、お先に失礼します」
「お疲れ様でーす」
「はい、お疲れ様」
「安藤さんってカッコいいよね~」
「ねーっ! なんか『できる大人の女性』って、感じがビシビシするよね!」
「ふぅー、じゃあ私も帰ろうかな? って、もう0時過ぎちゃったけどね」
ブルンブルン♪
「ん、メール? って、あの人からだわ……」
安藤パパ『今、駅前で飲んでるんだけど、二人で飲まない?』
「全く、こんな夜中まで飲んでないで少しは早く家に帰ったらどうなのかしら……
もう!」
ガラガラ~
「お! 来たか。それにしても来るの遅かったな?」
「『来たか』じゃないわよ! もう、こんな所で無駄遣いなんてして……」
「まぁまぁ! そう言わずに飲め! な? な?」
「はぁ……私は良いわよ。あ、すいません。ウーロン茶一つください」
「何だ。飲まねえのか?」
「私がお酒に弱いの知っているでしょ……? それを飲み終わったら帰るわよ」
「つれないね~」
「そんな事より、何か話でもあるんじゃないの?」
「お? な、何でそう思うんだ……?」
「ふん、そんなの普段は私を誘わないアナタが、いきなりこんなところに私を呼び出したら、何か話したい事でもあるんじゃないかって思うわよ」
「がっはっはっは! 流石は俺の嫁だな! いやーこりゃ参ったね♪」
「御託は良いからさっさと要件を言って……何? お小遣いの追加?」
(まぁ、どうせここの飲み代が厳しいとかでしょう……)
「いやー、実は……『仕事』辞めちゃった♪」
「はぁあああ!? え、また? 何で辞めたのよ! 二ヶ月前に働き始めた時には『ついに見つけたぜ! ここが俺の人生の最終地点! これが俺の「夢」だったんだ!』って、言ってあんなにも張り切っていたじゃない!?」
(もう、この人ったら本当に信じられない! 今日と言う今日は怒ったわ! 今まで私がこの人のワガママにどれだけ人生を振り回されてきたことか……よし、決めた! もう『離婚』よ! 絶対に『離婚』してやるんだから!)
「俺さ……気付いたんだよ。俺の『夢』ってマイロードはこんな職場じゃなくて、もっと果てしない大空にある真実の『
「アナタ……か、カッコいい!」
(きゅん☆)
「すまない……お前にはいつも迷惑ばっかりかけているよな? いいや、お前だけじゃない……俺は家族にも! で、でも! 俺にはどうしてもやりたい事があるんだ! 今度の仕事ならそれが見つけられそうなんだよ! お前にはいつも感謝している。家の事に子供達の事も、そして金の事も……でも、俺が本当に感謝しているのお前が俺の側にい続けてくれるって事なんだ! お前がこんなダメな俺を見捨てないでいてくれるから、俺は『自由』に『夢』を追い求め生きていけるんだ! お前がいなきゃ俺はダメなんだ! お前も俺の『人生』という求める『夢』の一部なんだ! だから、お願いだ――
今回も、許して……くれないか? 俺の
「うん! 許しちゃう♪」 きゅん☆
(ヤダ! 私ったらなんてバカな事を考えていたの……この人は今もただ真剣に生きているだけなのよ……そう! だって、私は決めたじゃない! どんな事があってもこの人を応援するって! そうよ。この人には私がいなきゃダメなんだわ!)
「大丈夫よ! 私、アナタの為ならなんだって頑張っちゃうもん♪ だから、家も子供達もお金の事も、ぜーーんぶ! 私に任せて、アナタはアナタのしたいように生きて♪」
「ありがとう! お前ならそう言ってくれると信じてたよ! やっぱりお前はおっぱいも大きいし、美人だし、綺麗だし、優しいし、俺にはもったいないくらいのサイコーの女だ! 愛してるぜ♪」
「うん、私も愛してりゅ♪」
「あ、ついでにお金なくなっちゃったからお小遣いで三万くらいちょうだい」
「うん♪」 ポン
「あと、金が無いからここの会計払ってくれる?」
「うん♪ すいませーん! お会計カードで~♪」
「じゃあ、今日はこのまま一緒に帰るか? がっはっはっは!」
「うん! アナタ……だいしゅきよ♪」
「がっーはっはっはっは!」
ピロ~~ン♪
「お兄ちゃん、お母さん今日は会社に泊まるってー」
「ほー、了解……そういえば父は?」
「うーん……いらな~い」
「いやいや、だから……」
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