第93話「ふたご島」


「じゃあ、全員揃ったことだし、まずは鬼ごっこでもしようかー♪」

「桃井さん、鬼ごっこって……」

「ちょっと、モモ? 何でプールに来てまで鬼ごっこなんかやらないといけないのよ?」


(別に、鬼ごっこが悪いわけじゃないけど、少し幼稚すぎないかしら?)


「はぁー、サクラ……これは、ただの鬼ごっこじゃないよ? だって、今日はプールに来てるんだからね。つまり、プールの中で泳ぎながら鬼ごっこするんだよー?」

「あー、なるほどね。水中で鬼から逃げるのって何だか面白そうだもんな」

「お兄ちゃん! 私もそれやりたい!」

「ほらほら~安藤くんと妹ちゃんは乗り気だよー? それに、サクラは今日の目的を忘れたのかな?」

「今日の……目的?」


(そうだわ! 今日のプールはモモが私が安藤くんとの夏の思い出を作るために与えてくれたチャンス! そして、委員長から久しぶりに――

『水着姿で安藤くんに最低でも、一回は触れること』

 ――っという課題をもらっているわ! この鬼ごっこはその『課題』を達成しやすくするものなのね!)


「しょ、しょがないわね……なら、全力で水中鬼ごっこやるわよ!」

「…………」

「っ!」


(いきなりやる気になったけど、朝倉さんの目的ってなんだろう……ダイエットかな?)


(あ、お兄ちゃんこれ絶対に失礼なこと考えてるな)



「じゃあ、鬼を決めようと思うんだけど……はい、ここで女子全員集合ねー♪」

「モモ、何かしら?」

「え、何!? 俺だけ仲間はずれで内緒話! 俺を『ぼっち』にするなんて酷い!」

「貴方が『ぼっち』なのはいつもの事でしょう?」

「委員長さん、お兄ちゃんのこと良く分かってますね♪」

「妹も委員長も俺の扱い酷いな!」



「モモ、それで何で私達女子だけを集めたのよ?」

「いやー、鬼を決める前に皆の意見も一応聞いておこうと思ってねー。

 因みに、皆は『鬼役』をやりたい?」

「私は……お、追いかけるよりは追いかけて欲しいタイプかしら?」

「朝倉さん、それ『鬼』が安藤くん前提になっているわよ……私は疲れるから『パス』ね」

「サクラお義姉ちゃんって、意外と乙女チックですよね~。あ、因みに私も体力は自信が無いんで『鬼』は遠慮したいです!」

「うん、やっぱり皆もそうだよねー。でもさ……ちょっと考えてみて欲しいかなー?」

「モモ、考えて欲しいって何がよ?」

「うーんとね。この鬼ごっこって水着でやるわけじゃん?」

「桃井さん、そんなの言われなくても分かっているわよ……全く、水着姿だけでも恥かしいのに鬼ごっこなんて……」

「うんうん、委員長の言いたい事も分かるよー♪ でも、そこで考え方を変えるんだよー」

「桃井先輩、考え方を変えるってどう言う事ですか?」

「いい? 皆、よーく考えて……水着で鬼ごっこってことは『水着でボディタッチ』だよ?」

「そうよ桃井さん。だから、恥かしいんじゃない?」

「それってー、安藤くんも同じなんじゃないかなー?」


「「「っ!?」」」


「えーとね……安藤くんの『照れる顔』見たくない?」


「「「…………」」」 ゴクリ!





「――って事で『私』と『サクラ』と『委員長』と『妹ちゃん』の四人が『鬼』になりましたー♪ 安藤くんはこの四人から三十分の間逃げ切ること!

 もし、一人にでも捕まったら全員にジュースおごりだよー♪」


「何その糞ルール!? 俺、凄い不利じゃん!」

「あら? 安藤くんったら男の子の癖にもう諦めているの? 情けないわね?」

「委員長も何でそんなやる気モードなの!? 委員長ってこういうゲームにそんな積極的に参加しないキャラだよね!」

「ニャッホッホッホ! お兄ちゃん覚悟してね! 今日は妹が兄よりも優れている事を証明してあげるんだから!」

「妹ぉ!? お前のそのテンションは何なの! お前もそんなキャラじゃないだろ? そして、兄よりも優れた妹など存在しないぃい!」

「安藤くんー? もちろん、私も全力で勝ちに行くから覚悟してねー?」

「桃井さん! この元凶の原因って百パーセント桃井さんだよね!? 何をしたら皆をここまでやる気にできるのさ……?」

「うーんとね……ヒ・ミ・チュ♪」


「フッフッフッ……ワァーハッハッハ!  こっちは四人に対して貴方は一人だけ……くっふふ……さぁ、安藤くん! 今までは私の方ばっかりドキドキさせられたけど、今日こそは貴方にも『ドキドキ』してもらうんだから、覚悟しなさいよね!」


「…………」


(なるほど、なんとなく皆がやる気になった理由が分かったぞ。きっと、委員長あたりの入れ知恵で恋人の俺を誘惑するようにけしかけられた朝倉さん。そして、それを面白がり悪ノリした桃井さんと妹、最後にそんな困っている俺の様子が見たい委員長。って、ところだろ……

 しかし、これが勝負である以上! 俺がただ逃げるだけだと思うなよ!)


「じゃあ、水中鬼ごっこ始めるよー♪」




 鬼ごっこ開始から二十分経過




「サクラ! そっちに行ったよー」

「スイ~」


(ふむふむ……すれ違いざまの桃井さんの『おっぱい』も中々風情があっていいな……)


「くっ! わきゃ! つ、捕まらない! 委員長、そっち側よ!」

「ブクブク……」


(ほほーう、流石は朝倉さんだ……水中の底から眺める朝倉さんの水着姿もどこか神秘的で神々しいぜ)


「ええい! 安藤くん、観念しなさ――きゃ、水しぶきが……もう!」

「じゃぶじゃぶ~」


(ホッホッホ! 委員長も、委員長のくせに滑らかな美脚をしおって……ホッホホホ!)


「もーう! どういうことなのーっ! 四人で追いかけているのに安藤くんが全然捕まらないんだけどーっ!」

「一年生の時の水泳って……安藤くん、男子の中じゃ早い方とかじゃないわよね?」

「くっ……別段に泳ぎが速いとかじゃないのよ……でも、何故か紙一重で逃げられるわ!」

「あれだよ! 捕まえようとすると、潜水で一気に水の底に張り付くし、追いかけて潜ろうとしても安藤くん水中で目をバッチリ開けているから、こっちの動きバレバレで直ぐにいなくなっちゃうんだもーん!」

「そうよね……桃井さんの言うとおり、安藤くんは水中での小回りが上手いのよ。急な方向転換や潜水に水中でも目を開けているから私達の動きも常に把握しているんだわ」

「お兄ちゃんって、昔からこういうのは得意なんです。水泳でいくら潜水とかが上手くても泳ぎが速くないと成績には反映されないから特に目立つわけでもないですし……」


(はぁ……お兄ちゃんって昔から――


『俺は人と泳ぎで競うとか苦手だな。なんかこう、一人でずっと潜水とかしていたい。心が落ち着くから』


 ――とか言ってたからね~)


「学校で評価されない項目が得意とか……安藤くんって一体どこの劣等生よ……」

「朝倉さん、普通にうちの学校の劣等生だと思うわよ?」

「じゃあ、安藤くんは『普通科高校の劣等生』ね!」

「サクラ、それってただの『バカ』って、意味なんじゃないかなー?」



「スイー……」


(急に追いかけて来なくなったと思ったら、実に悪質な精神攻撃が始まったんですが……)



「しかし、そうなると安藤くんを捕まえるには安藤くんの注意を奪って動きを封じつつ、その間に一気に囲むしか無さそうね……」

「委員長ー。そんなことが出来たら苦労しないよー」

「なにかこう……お兄ちゃんに、弱点があればいいんですけど……」

「むしろ、安藤くんって『弱点』しかないイメージがあるんだけど」

「確かにー♪ ねぇサクラ、何か使えそうな安藤くんの『弱点』ってあるかな?」


(安藤くんの弱点……考えるのよ。彼女の私なら彼氏の『弱点』くらい分かって当然のはず……安藤くんといえば――……はっ!)


「見つけたわ……安藤くんの『弱点』」


「「「本当!?」」」


「ええ、私に秘策があるわ……あの安藤くんの逃げ足を前に勝利の絵を描く作戦が、私にはありゅ!」


(((噛んだ…………)))


「で……勝算は?」

「私の読みどおりに安藤くんが動いてくれれば……九割ほどね!」 スカーン!




「そっちに行ったわ!」

「す、スイー!」


(くっそう! なんだ? 急に作戦会議をしたと思ったら、今度は無理に追いかけずに連携を取って俺を追いかけ始めた……そう、まるでどこかに誘導するように――)


「今よ! モモ、お願い!」

「なに!?」


 ざばーん!


「くっ!」


(桃井さん!? 水中に潜んでいたのか! しかし、正面を封じられようと簡単に逃げぇええええええええ!?)


「ふっふっふ! ここはいかせないよー? 安藤くん!」 ビッグバァァアアアン! プカプカ~


(う、浮いている!? 『おっぱい』が水に浮いているだと!? さっきまでは追いかけられている側だから気づかなかったが、こうして前に立ちふさがれるとはっきりわかる! 桃井さんの『おっぱい』が水中に浮いてまるで『ふたご島』のように……だ、ダメだ! 『ふたご島』が気になりすぎて桃井さんから目が離せない――――


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 安藤くんの脳内


安藤A「この揺れ……浮き具合。まさに完璧な巨乳! これこそ全ての『おっぱい』が目指す理想の形!『理想のおっぱい』だ!」


安藤B「貴様! 俺達には『朝倉さん』という彼女がいるくせに他の女のおっぱいに目を奪われるとは何事か!」


安藤C「さては貴様『キョニュー』だな!?」


安藤D「この巨乳主義社会の犬め!」


安藤A「では、貴様らに問う? 世の中は不公平だ……何故なら巨乳は一部の特権階級の女性にしか与えられず……その他多くの貧しい女性は『貧乳』と呼ばれ苦しめられる! こんな世界は正しいだろうか!?」


安藤B、C、D「「「否!!!」」」


安藤A「そうだろう……俺達の彼女だって、心の奥底では『巨乳』になりたいと思っているはずだ。だからこそ! すべての『おっぱい』は平等に『巨乳』であるべきなんだ! すべての『おっぱい』が同じ『巨乳』なら『貧乳』などという言葉は消え、人の心は浄化されてこの世界から『争い』も『貧困』も消えるに決まっている!」


安藤B、C、D「「「ほ、本当だ……すげえ! 『マルクス巨乳主義の誕生』だ!」」」


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「――っは! 俺は……くそ! 集中が出来ない!」 ス、スイ~

「くふふ~安藤くん、どうしたの? 動きが鈍いよー?」 プカプカ~


「ふふふ、流石の安藤くんもモモの運動神経の前では上手く逃げれないようね!」


(私の作戦通り、安藤くんの弱点は二つ……『体力』と『ヘタレ』なところよ! きっと、安藤くんは運動がそこまで得意じゃないから、後半に追い込んで、運動の得意なモモに張り付かせればそう簡単にモモから逃げ切ることはできないはず……そして『ヘタレ』な安藤くんなら正面から水着姿の女の子を見ることはできずに『羞恥心』で集中が途切れるはず! さらに、そこへ水着姿の私達が畳み掛ける!)


「いや、サクラお義姉ちゃん。あれはなんか違う気が……」

「妹ちゃん! この隙に仕掛けるわよ!」

「は、はい! サクラお義姉ちゃん!」

 

(くそぉおお! このままだと桃井さんの浮く『おっぱい』に気を取られて捕まる! 左右のどちらかに逃げて体制を――)


「お兄ちゃん! こっちは行き止まりだよ!」 ざぱーん!

「安藤くん、逃がさないわよ!」 スカーン!

「左右を封じられた……だと!」


(くそう! 『おっぱい』に気を取られた隙に回り込まれたのか!)


(むふん! 運動神経のいいモモが安藤くんを引き付けている隙に、私と妹ちゃんが安藤くんの両側を抑える……そして、最後は)


「こうなったら後ろを――――」

「あら? 安藤くん、何処に逃げる気かしら?」 どぱーん!

「委員長まで!? って、ままま、まさか!!」


(いいい、委員長の『おっぱい』も浮いていやがる!? 隊長ぉおおお! 新しい『ふたご島』を発見しましたぁあああ! 目の前には『ふたご島』が! 後ろにも特大の『ふたご島』! そして、左右の『ふたご島』は……)


「お兄ちゃん、年貢の納め時だよ~♪」 Apple♪

「捕まえたわよ……安藤くん!」 スカァアアアーン!


(なんだ『空島』か)


「てか、気づいたら囲まれている……だと!?」

「安藤くん! これが、私達の描いた勝利の絵よ!」


(なるほど……運動神経のいい桃井さんが『おっぱい』で俺を引き付けている隙に、朝倉さんと妹が俺の両側を『おっぱい』で抑え、さらに潜んでいた委員長が背後を『おっぱい』で塞ぐ! この戦術に名前を付けるなら――)






           おっぱい(宇宙)

            ↓↓↓ 


おっぱい(壁)→     俺    ←おっぱい(貧乳)


           ↓↓↓

           おっぱい(メロン)





(まさに、胸囲殲滅陣きょういせんめつじん!)





「くそ……諦めてなるものか!」


(考えろ……俺の理性と本能をフル回転させてこの戦局を読みきるんだ……目の前の『おっぱい』と左右の『おっぱい』の戦力差をたたき出せ!)


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 安藤くんの脳内



『おっぱいの戦力差、出ました! 朝倉おっぱい、妹おっぱい、およそ【300スカン!】 委員長おっぱい、およそ【1000メロン!】 桃井おっぱい……お、およそ【5000バーン!】です!』


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「見えた!」






           おっぱい(宇宙)

            ↓↓↓ 


Σおっぱい(壁)→  《      》  ←おっぱい(貧乳)

    俺(スイ~) ←  ↓

             ↓↓↓

           おっぱい(メロン)





「よっしゃ! こっちの壁が薄いぜ!」

「壁なのに薄いってどういうことなのよぉぉおおおおおおおおおおおお!!」




(結局、この鬼ごっこで私達は安藤くんを捕まえることはできなかった)

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