第90話「にやけ顔」

 パタン


「ただいまー」


「お兄ちゃんおかえりー、遅かったけど晩ご飯はどうするの?」

「スマン、食べてきたわ」

「えー、またサクラお義姉ちゃんの家? もーう! 食べてくる時は連絡してって言ったじゃん! お兄ちゃんが帰ってくるまで食べるの待ってたんだよ!」

「だから、ゴメンって……向こうのお父さんが放してくれなくて連絡できなかったんだよ。そのかわりにホラ、お前の好きな牛乳プリン買ってきたから」

「にょほ!」


(こここ、これは!『二十四時間働きます!』で有名なコンビニ、イレブンイレブンの超人気牛乳プリン! あのお兄ちゃんがこんな上等な牛乳プリンを買ってくるなんて……)


「むむむ……お兄ちゃんったら、こんなモノで私が釣ら……釣られ……」 ぷるぷる

「え、いらないの? じゃあ、俺がデザートにもら――」

「釣られウニャーッ!」


(みょほー! 美味しい~♪) モムモム


(ふぅ……妹の機嫌はこれで何とかなりそうだな。朝倉さんから女の子に人気のスイーツとか聞いておいて本当によかったぜ)


「ホントにお兄ちゃんは仕方ないな~♪」 モムモム


(ふんにゅぅ~~美味ちぃーっ! もう、お兄ちゃんはこんな物で私のご機嫌を取ろうとか本当にどうしようもないにゃー♪ でも、私はお兄ちゃんの『妹』だから仕方ないけどこれで許してあげるのにゃ~♪) 


「それで、お前しかいないみたいだけど母は?」

「ん~? お母さんは今日は夜勤だからお仕事だよー」 モムモム

「そうか、今日夜勤だとか言ってたな……じゃあ、父は?」

「ん~……別に必要ないかなー」 モムモム

「いやいや……別に俺達家族にオヤジが必要かどうかを聞いたわけじゃ無いからね? だから、そんなこと言ってやるなよ……オヤジが聞いたら泣くぞ? まぁ、確かにいらないけど……」

「お兄ちゃんも大概じゃん~」 モムモム

「妹よ……それは『お兄ちゃんも私と大差ないくらい酷いことを言っている』と言う意味か? それとも『お兄ちゃんもお父さんと大差ないくらいどうしようもない』って意味か?」

「…………」 モムモム

「おい! 答えろよ!」

「はー、私は母さん似で良かった~」

「それどういう意味だ! 俺だって十分に母似だよ!?」

「…………はっ」

「妹に鼻で笑われた!?」


(まぁ、お兄ちゃんはね……)


「それで結局、父は何処に行ったんだよ……仕事――はありえないだろ?」

「知らない~」

「全く、何処で何してんだ……まぁいいか」

「てか、お兄ちゃん最近サクラお義姉ちゃんの家に行き過ぎじゃない? もう、ほぼ毎日行ってるよね? ご飯だってしょっちゅう食べて来るしさー」


(別に~お兄ちゃんがいなくて寂しいわけとかじゃないけどー? でも、お兄ちゃんは私の『お兄ちゃん』なんだからご飯は一緒に食べたいじゃん? せっかくの夏休みなんだし~)ぷんぷん!


(ああ、そうか。コイツ飯が一人で寂しいから拗ねてるんだな。まぁ、そうだよな……母は仕事でしょっちゅう居ないし、父も居ないも同然だし……それで、俺まで飯を食ってきたらそりゃ寂しいわな)


「妹よ。じゃあ、お前も朝倉さんの家に来いよ。どうせなら、二人で飯をご馳走になろう」

「お兄ちゃん、どうしてそんな考えになったの!? 一人ならまだしも二人分もご飯を食べさせてもらうとか、いくら彼氏だと言ってもすっごい失礼だよ!」

「いやいや……だって、俺一人であの家族を振り切って家に帰るの無理そうだし……それに、あの家族はお前も来ると言ったら喜んで迎えてくれると思うぞ?」


(何たって毎回ご飯をご馳走になるのは食費もかかるしって言ったら――

『あらあら……既に毎月の食材を一人分多く買ってしまった後だわ……じゃあ、安藤くん用で買った食材は全部無駄になるわね……ウフフ~~♪』

 って、プレッシャーかけてくるから、じゃあ、余った食材を買い取るか、俺の分の食費を払わせてください。って言えば――

『あらあら……安藤くん、私達は家族みたいなものなのにお金で解決しようと言うのかしら? ママは悲しいわ。およよ……別に、お金は気にしなくていいのよ? それでも、気になるって言うのなら、その分のお金で娘とデートでも行って来たらどうかしら? ウフフ~~♪』

 って、さらにプレッシャーが返って来るくらいだからな……)


「お兄ちゃん、いつの間にサクラお義姉ちゃんのご両親とそこまで仲良くなったの!? あのコミュ症のお兄ちゃんは何処に行っちゃったの!」

「いやいや、俺が特別なんじゃない……あの家族がおかしいんだ。お前だって一回行けば次から向こうのご両親を『サクラパパ♪』とか『サクラママ♪』とか絶対に呼んでるぞ」

「何それ!? 恐いんだけど!」

「まぁ、いきなりお前をつれて行っても、朝倉さんの家も驚くだろうから、向こうには俺が事前に連絡しておくよ」

「あ、サクラお義姉ちゃんに確認を取るんだね!」

「いいや、メールの相手は朝倉さんの『お父さん』だ」

「お兄ちゃん! サクラお義姉ちゃんのお父さんとメールするような仲なの!?」

「ああ、メル友だ」

「『メル友』!?」


 ピロロロ~~♪


「あ、お父さんからメール返ってきた」

「早いでしょ!?」


朝倉パパ『是非、連れて来てね~☆‹‹\(´ω` )/››‹‹\(  ´)/›› ‹‹\( ´ω`)/››』


「だって」

「軽!? てか、顔文字多いよ! 何これ!? サクラお義姉ちゃんが変わりにメール打ってるとかじゃないの……?」

「因みに、これが俺と朝倉さんのメールな」




安藤『明日、朝倉さんの家に行ってもいいかな?』

朝倉『了!』




「……………」

「……………」


(朝倉さんって意外と『メール力』は低いんだよな)


「それで、サクラお義姉ちゃんの家にはいつ行くの? 明日?」

「いや、明日と明後日は予定があるから三日後くらいだな。てか、そうだ! それでお前に話があったんだよ!」

「え、なに? これ以上何か言われても、私そろそろツッコミ切れないよ?」

「別に誰もお前にツッコミは期待してないんだがな……なぁ、妹よ。お前、明日と明後日って予定開いてる?」

「えーと、ちょっと待って……うーん」 ペラリペラリ

「俺、予定を聞いて手帳を取り出す奴初めて見たよ……まさか身内に居たとはな。てか、何? お前って夏休みの予定そんなに埋まってるの?」

「別にー。クラスの友達付き合いとかしてたらこれくらい普通でしょー? うーん、一応明日と明後日は軽い約束があるくらいかな。それで、何?」

「そうか、もう約束があるのか……いや、桃井さんって人がいただろ? あの人がプールの割引チケットを大量に手に入れたらしくて明後日、演劇の打ち上げメンバー皆でプールに行くことになったんだよ。それで、朝倉さんがせっかくだからお前も誘って欲しいってさ、でも予定があるなら――」


「いく!」


「え、でも……お前約束は?」

「別にそんなに重要じゃない子だから大丈夫! それよりも、サクラお義姉ちゃんとプールならそう言ってよね!」


(別に約束してても前日に駄目になるのは女子の中ではよくあることだし、それにお兄ちゃんと遊べる機会を捨ててまで守るような約束でもないからね)


「あれ、でもプールがあさってて事は……明日は?」

「ああ、なんか女子はプールのために明日水着を買いに行くらしいから、参加するならお前も行くだろ?」

「そうだねー。着る水着はあるけど……むふふ♪ お兄ちゃんは私の新しい水着……見たい?」

「…………?」


(こいつは……何を言ってんだ?)


(まぁ、どうせお兄ちゃんのことだから、こんな事聞いても気の利いた言葉なんて――)


「そりゃ見たい」

「うみょ!?」


(可愛い妹の新しい水着とか、そんなの見たいに決まってるだろう?)


「へ、へ~~そうなんだ……お兄ちゃんは私の新しい水着が見たいのか~~もう、お兄ちゃんは本当に仕方ないな~~! 本当に仕方がないから、新しい水着を買って見せてあげるよ! もう、だって私がお兄ちゃんの『妹』だからね! 本当に仕方がないな~~お兄ちゃんは!」 ニヨニヨ♪

「へいへい、お兄ちゃんは期待して待ってますよ……」


(あ、そう言えば朝倉さんと桃井さんから山田と沢渡と吉田の連絡とるの頼まれてたんだよな……でも、俺あいつらの連絡先とか知らないから誘わなくてもいいよな?)


(もう、お兄ちゃんったら妹の水着が見たいなんて本当に変態さんなんだから~~♪ でも、私はお兄ちゃんの『妹』だから、仕方なく! 仕方なくだけど、とっておきの水着を選ばなきゃ♪ でも、お兄ちゃんったら……私の水着が見たいんだ…………)


「むみょみょ♪」

「っ!?」


(な、なんだ!? 妹の奴……突然、変な声をあげてニヤニヤしてるんだけど……怖!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る