第89話「打ち合わせ」


 カラーンコロ~ン♪


「いらっしゃいませー」


(はぁー、夏休みもバイト三昧か……)



「それってさー、デートって感じじゃないよね?」

「え」


(久しぶりに、モモと二人で待ち合わせして、安藤くんとの様子を聞かれて答えたら、何故か意外な駄目出しをくらったわ……)


「え、え? モモ……そんなに私達って『カップル力』少ない?」

「少ないよー、サクラそれ少ないとかいうレベルじゃないよー。だって、普通のカップルならこの夏休みを生かしてもっと『カップル力』をあげてるよー」



 カラーンコロ~ン♪


「いらっしゃいませー」


(『カップル力』って……何?)



「ウソォオオオ! だだだ、だって! この夏休みは安藤くん、ほとんど私の家に来てるのよ? それにパパだって安藤くんを認めてくれているし、最近では私の家でお風呂とか晩御飯も食べて行ったりもしているのよ! なのに、これでも私達の『カップル力』が低いって言うの?」

「うんそうだねー……だって、それって『カップル力』っていうよりも……『家族力』の領域じゃないかなー? むしろ『カップル』としてのドキドキは皆無じゃない?」

「はぅ! た、確かに……」



 カラーンコロ~ン♪


「いらっしゃいませー」


(『家族力』って……何?)



「だって、サクラ……最近、安藤くんとした『デート』って何?」

「お家デートよ」

「その前は?」

「お家デートよ」

「さらにその前は?」

「お、お家デートよ」

「さらにその前は?」

「…………お家デート」

「…………」

「…………」



 カラーンコロ~ン♪


「ありがとうございましたー」


(それ、ただ家に遊びに来てるだけじゃない?)



「サクラ? ち、因みに聞くけど……安藤くんと付き合ってから『映画館』でデートしたのは何回くらい――」

「え」

「…………」

「…………」


(私……安藤くんと付き合ってからまだ一度も『映画デート』してないわ……)


「じゃ、じゃあ……安藤くんと付き合ってから遊園地でデートしたのは何回くらい――」

「え」

「…………」

「…………」


(私……安藤くんと付き合ってからまだ一度も『遊園地デート』してないわ……)


「ならば! 安藤くんと付き合ってから……そ、そのー『キス』したのは何回くらい――」

「え」

「……………………」

「……………………」


(あれ? 私……安藤くんと付き合ってからまだ一度も『キス』してない……?)


「サクラ、まさかと思うけど……安藤くんと付き合ってから『手を握った』のは――」

「……………………」 

「……………………」



 カラーンコロ~ン♪


「あ、ありがとうございましたー……」


(マジか……)



「え、何? 安藤くんって僧侶か何かなの?」

「モモ……もしかして、私って『彼女力』が無いのかしら……」 スカーン……

「サクラ! そんなことないよーっ! きっと、安藤くんも奥手なだけだって!」 ボイーン!

「で、でも……安藤くん、私と同じ部屋に二人っきりでいても何もしてこないのよ……?」

「だ、大丈夫だよー……サクラ! 私に任せて……いい考えがあるから!」



 カラーンコロ~ン♪


「ありがとうございましたー」


(あれ? でもこの美少女のお客さん、よく店で冴えない彼氏とイチャついてるよね……?)


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