第85話「無言」
ガチャ
「安藤くん、上がって」
「お、お邪魔します……」
(ついに来てしまった朝倉さんの家……前に来た時はあの優しそうなお母さんが迎えてくれたけど、今回は『お父さん』か……事前に朝倉さんから聞いたイメージだとなんだが『昭和のお父さん』って、感じらしいから『サ●エさん』とかに出てくる●平みたいな感じの人なんだろうな)
「安藤くん、本当に今日はゴメンなさい……実は安藤くんと付き合っているのが、何故かママにバレちゃって……そしたら、ママからパパにも伝わって、パパが家に連れて来いって……」
(うわぁー『連れて来い』って、言ったのかぁ……『連れて来なさい』とか『連れて来れば?』とかじゃなくて『連れて来い』かよ……明らかに頑固オヤジのイメージしかないんだけど)
「ただいまー。ママー? 安藤くん、連れてきたわよ」
「あら? あらあらあら~~まぁー、安藤くん、久しぶりね? ウフフ、聞いたわよ。ウチの子と付き合ってるのよね? ママ嬉しいわ~~」
「あ、はい! こんにちは! きょ、今日はお招きいただきありがとうございます!」
「あらあらあら~~そんなにかしこまらなくてもいいのに~~ウフフ……パパなら一番奥の部屋にいるわよ。安藤くん、頑張ってね? ウフフ~~」
「は、はぃ……」
(ヤベェ……胃が痛くなってきた)
「安藤くん! だ、大丈夫! 別に安藤くんをパパと二人っきりとかにはしないから! 私も一緒に行くわ。きっと、安藤くんが相手ならパパも私たちの事認めてくれるわよ!」
「あ、朝倉さん……」
(そ、そうだよな……いくら前情報で怖そうな頑固親父と聞いていても、あの朝倉さんのお父さんで、あの優しそうなお母さんの旦那さんだろ? こんな幸せそうな家庭なんだから、お父さんもきっと優しい人に違いない!)
「パパー? 安藤くんを連れてきたわ。ドア開けるわよー?」
ガチャ
「失礼します!」
(この部屋は一度も入ったこと無いな。こじんまりとした和室の真ん中に小さいテーブルがあるだけ……そして、そのテーブルの向かい側に座っている人が朝倉さんのお父さんか)
「パパ、この人が私の『彼氏』の安藤くんよ」
「は、始めまして! 娘さんとお付き合いさせて頂いてます。
名前は、安藤ぉ――っ!?」
「………………」 ギロリッ!
「あ、あ――……」
(朝倉さん! 何が『昭和の頑固親父』だよ。てっきり髪の毛一本の磯野的な●平を予想していたのにこれは――)
「何をしている……名乗るなら早くしろ、でなければ帰れ」
「は、はい! 安藤です! よろしくお願いします!」
「…………」 ギロリ!
(ひぃいい! また睨まれた!? ヤバイ、緊張して苗字しか名乗らなかったから、それで怒っているのか……?)
「安藤くん、パパが座りなさいですって、座りましょう?」
「え、あ……う、うん。じゃあ、失礼します」
(よかった。とりあえずは大丈夫みたいだな)
「じゃあ、紹介するわね。安藤くん、この人が私のパパよ。ちょっと、無愛想なだけだから気にしないでね?」
「…………」 コクン
(朝倉さん、何が『ちょっと』無愛想だよ……座ってでも分かるほどの長身、それに刈りこまれたリンカニックの髭、さらに一見サングラスかに見えるような色の濃いレンズに細い丸型フレームのメガネ……最後にテーブルに両肘を立て両手を組んで口元を覆い隠すようなそのポーズ……
これは●平じゃない。碇●ンドウだ!
終わったぁあああああああああああああああああああああ! まるで、ソロパーティーでワイバーンの討伐に行ったら相手はドラゴンだった気分だぞこれ!)
「…………」 ギロリ
「ひっ!?」
(な、何だ。また睨まれたぞ!?)
「あ、パパ。飲み物ね? お茶でいい?」
(え、朝倉さん……?)
「…………」 ギロ!
「今日は安藤くんがいるから紅茶がいいだろう? って、そういえばそうね。じゃあ、ママに入れてきてもらうわね」
「…………」 ギッ!
「え、その必要は無いって?」
ガチャ
「あらあら~~、お待たせしてごめんなさいね~? お飲み物お持ちしましたわよ~~はい、パパ。今日は安藤くんが来てるからいつもの渋いお茶じゃなくて、甘めの紅茶でいいのよね?」
「…………」 コクン
「流石ママ! 何も聞いてないのにパパの言いたい事が分かるのね!」
「ウフフ~~パパとは長い付き合いですもの。ウフフ~♪」
「…………」 ズズ ←お父さんが紅茶を飲む音
「…………」 ズズ ←安藤が紅茶を飲む音
(今、俺の目の前で一体何が起きたんだ? 睨まれたと思ったら紅茶が出てきた……まるで、俺にしかお父さんの言葉が聞えないのかと思えるような会話? の流れだったけど――はっ! いや、まさか……?)
「ウフフ~じゃあ、ママは席を外しますね~♪」
バタン
(朝倉さんのお母さんは行ってしまったか……さて、俺の考えが正しければ)
「…………」 ギロン!
「!?」
「安藤くん、パパが『それで、二人はいつごろから付き合っているかな?』ですって」
「え、え! え? あ、えっと……付き合いだしたのは夏休みが始まる少し前からです」
「…………」 ギロロ?
「っ! もう、ヤダ! パパったら、そんな恥かしいこと聞かないでよ~♪」
「え! 朝倉さん、お父さん何て言ったの……?」
「え、えっとね……『因みに、安藤くんは娘の何処が好きなんだい?』ですって……キャーッ! 恥かしい! もう!」
「…………」 ギロ?
(あ、これは俺でも分かる。きっと『それで?』って、返答を催促されてるな)
「はい『全て』です」
「……ブバッ!?」 ←お父さんが紅茶を噴出してむせる音
「ふにゃ! あああ、安藤きゅん! そんな……何もかも『全て』だなんて!」 テレテレ
「え、いや……だって言えって聞かれたから……」
(それに、俺が朝倉さんの全てを好きなのは嘘じゃないからな。確かに、朝倉さんは重度の『なろう』オタクで胸も無いし、偶に中二病を発症したりポンコツでいろいろとミスをやらかすし、おっぱいも無い。その上で表面上は取り繕って、自分は完璧だと思い込んでいる節のある残念美少女だけど……それでも、俺はそんな朝倉さんの顔も胸も残念さも可愛さも一生懸命さも『おっぱい』も含めた全てを愛しているという自負がある。
だからこそ、朝倉さんのお父さんにはこの気持ちを伝えておかなきゃと思ったんだけど……)
「…………」 コホン
「も、もう! 安藤くんたらパパの前でなんてこと言うのよ……」 テレテレ♪
「…………」 ソワソワ
「ほら! パパも安藤くんが大胆な事を言うから少し気まずくなっちゃったじゃないのよ」
「うん、ごめんね。朝倉さん」
(間違いない。一見すると、超恐そうなゲン●ウ風のお父さんだが……『ぼっち』の俺には分かる。
朝倉さんのお父さんは極度の『コミュ症』だ!)
「…………」 テレテレ
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