第82話「本能」



「私この夏休みを利用して、何か面白いラノベを読もうと思うんだけど……安藤くん、何かオススメはあるかしら?」


(今よ! 安藤くん、くらいなさい! 質問をしながら体を乗り出して薄着のワンピースから胸元がギリギリ見えそうになるアタッーク!) 


「そうだね……なら『サクラダスキップ』なんてどうかな? 超能力モノのラノベなんだけど、微妙な能力を持った主人公がスキップをすると三日先の未来まで時間を飛ばしてしまう女の子と出会って、二人で時間を飛ばさないようにしながらダンス大会でペアを組んで優勝を目指すSF作品なんだ」


(秘儀! 『虚構の投影世界(ぼっち・イン・ザ・トレースワールド)』

 説明しよう! 『虚構の投影世界(ぼっち・イン・ザ・トレースワールド)』とは、俺がエロ目線で彼女を見てもバレないように、朝倉さんの目を見ながら、自分の脳内で今目の前に広がっているであろう朝倉さんの無防備な姿の映像を思い描き、妄想の景色でエッチな朝倉さんを堪能する『ぼっち』な俺だけの『ユニーク(ぼっち)スキル』である!


「へー、それって何巻まで出ているのかしら?」

「確か……八巻で完結しているよ」


(ぬぬぬ! わ、私がこんなセクシーポーズ取っているのに、私の顔から目を逸らさないとは……安藤くんもしぶといわね)


(落ち着け、落ち着け……表情に出すなよ? 今、俺の目の前では朝倉さんの胸元がギリギリまで見えそうになっている! 見えそうで見えない……そこに憧れるしびれるぅうううううううううっ!)


(こうなったら、次の手よ!)


「あ、あー今日はなんだか暑いわね~~」 スカスカ


(どう!? これこそ私の奥の手! 極大魔術『今日は暑いな~って言いながら服の胸元をパタパタ仰ぐセクシーアタック』よ! これなら流石の安藤くんも――)


「…………そうだね」 シーン


(まさかの無表情!? 何でよ! 安藤くん貴方『おっぱい』大好きでしょ! いくら『エッチな欲望』が少ないからと言っても『おっぱい』なら! 『おっぱい』ならつれると思ったのに……ムキィイイイイイイイイイイイイイイイイ! やっぱり安藤くんは『おっぱいの大きさが戦力の決定的な差』だとでもいうの!?)


(あ、あっぶねえええええええええええ! いきなり朝倉さんがとんでもなく無防備な行動をとるから一瞬我を忘れて朝倉さんの胸の中にルパンダイブしそうになったぜ……しかし、俺は既にぼっちスキル『笑顔を失った道化師(ロスト・スマイル・ピエロ)』を発動していたのさ! このスキルは! 教室で騒いでいるリア充グループの話が面白くてつい笑いそうになった時、自分の感情や動揺を瞬時に隠してあたかも『自分はお前達の話なんか聞えてないよ~~?』っと、ぼっちを貫く為のスキルである!)


(だ、駄目だわ……私のセクシー力では安藤くんの内なる野獣の欲望は目覚めさせれないと言うの……?)


「あ、安藤くん」

「何かな? 朝倉さん」

「私って……もしかして、エロく無いのかしら」

「はっ!? え、何? どういうこと!?」

「だって、私って『おっぱい』が少し小さいでしょ? やっぱり、安藤くんも……その――

 本当は『おっぱい』の大きな女の子が好きなんでしょ!」

「何の話!? え、てか、これどういう状況なの? あ、朝倉さん! ちょっと、落ち着こう……まず、何でいきなりそんな事を言い出したの?」

「だってぇー……夏休みなのに、安藤くんが一週間も私を放っていたのは私に魅力が無いからなんでしょ?」

「…………そういうことか」


(え、つまり……朝倉さんは俺が連絡を取らなかったから拗ねているってこと? 何この彼女……めっちゃ可愛いんですけど)


「そんなことないよ! 朝倉さんはメチャクチャ魅力的な彼女だよ!」

「う、ウソよ! そんな都合のいい言葉を言っても騙されないわ! だって、安藤くん……私がせっかく薄着しているのに全然『おっぱい』見てくれないし……」 ぷんぷん!


(え! 何!? あれ見てよかったの……? てか、女の子っておっぱいを見たら怒るものじゃないの!?)


「いや、あれは……その! 見たらマズイかと思って――」

「ふん! どうせ、私は見る価値も無いような『おっぱい』ですーっ!」 ぷんぷん!

「あああ、朝倉さん!? そんな事ないって! そもそも、何で俺が朝倉さんの『おっぱい』を見なかったら、朝倉さんに『魅力』が無いって事になるのさ?」

「だってぇ……安藤くん『おっぱい』大好きでしょ?」

「うぐっ! そ、ソンナコトナイヨ……?」


(バカな! 俺が『おっぱい』好きなのが朝倉さんにバレている!? いや、そんなまさか!)


「ウソよ! ウソよ! だって、安藤くん前も私の『おっぱい』触ったのに……委員長の『おっぱい』も触ろうとしたじゃない」

「あれは誤解だって――」

「それに安藤くんって結構、モモの胸見ているわよね?」

「うがッ!」


(何故それを!?)


「ご、誤魔化しても無駄なんだからね! 私知っているんだから! 安藤くんが学校ではチラチラと桃や委員長の『おっぱい』ばっかり見ているの!」

「うぎゃああ!」


(ふん! 安藤くんは気付かれないように一瞬しか見ていないようだけど、それでも学校ではいつも貴方を見続けていた私がそれに気付かないとでも思っていたの?)


「それなのに……私の『おっぱい』を見てくれないって事はきっと私には『魅力』が無いってことなのよ! だから、安藤くんは私を一週間も放って――」


(この状況はヤバイな…………よし、勢いで誤魔化すか)


「それは違う!」


「安藤くん?」

「正直に言おう……朝倉さん、確かに俺は少し『おっぱい』が好きかもしれない!」

「ほ、ほら、やっぱり!」

「だけど、朝倉さんは誤解してるんだ!」

「ご、誤解……ですって?」

「ああ、確かに俺は『おっぱい』が大好きだ! でもね……これは男の子なら『ふつう』のこと――いや! むしろ、仕方が無い『本能』なんだよ!」

「ほ、本能!? じゃあ、安藤くんが『おっぱい』好きなのも……?」

「『本能』だ!」

「モモの『おっぱい』を見ちゃうのも?」

「『本能』だ!」

「い、委員長の『おっぱい』を見るのは?」

「『本能』だ!」

「そ、それが……男の子だと『ふつう』のことなの?」

「ああ……そうだ!」

「じゃあ、それが『本能』って言うのなら何で私の『おっぱい』だけは見てくれないのよ!」


「そんなの朝倉さんが『好き』だからに決まっているじゃないか!」


「ひゃ、ひゃぅ!?」


(わ、私が『好き』だから……? へ、一体どう言うこと?)


「ど、どう言うこと……安藤くん?」

「朝倉さん、俺は言ったよね? 『おっぱい』を見ちゃうのは男の子の『本能』だって」

「う、うん」

「でも、俺はそんな『本能』なんかで…… 

 大好きな朝倉さんを汚れた目で見たくは無いんだ!」 


「はうっ!」 ズッキュゥウウーーン! 朝倉さんの心(ハート)に何かが突き刺さる音


(嘘です……本当はさっきまで妄想の中でメッチャ穢れた視線で見てました。すいません!)


(あ、安藤くんったら……そこまで私の事を思ってくれてるのね!)


「じゃ、じゃあ! 安藤くんは『本能』で私の『おっぱい』を見そうになるのをずっと我慢していたっていうの!?」

「ああ!」 ←大嘘

「そんな! 『本能』とさえ言うほどの大きな人の性……それを何故、安藤くんは耐えられるというの!」


「愛……かな?」 ←大嘘


「はきゅぅうううっ!」 ズッキュゥウウーーン! 朝倉さんの|心(ハート)に何かが突き刺さる音

「ごめんね。朝倉さん……俺、朝倉さんが悩んでるの知らなくて」

「安藤くん……そんなことどうでもいいわ! だって私は……

 安藤くんの事が大好きだからぁあああああああああああああ!」

「朝倉さん……俺もだよ!」


『ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』 パチパチパチ ←ファミレスにいた他の客の拍手



「………………」


(いつものバカップルが注文したポテトを提供しようとしたんだけど――)


「何これ?」




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