第74話「再演」




 キーンコーンカーンコ~ン


「……じゃあ、朝のHR始めるぞ。委員長」


「起立、礼、お願いします!」


クラス一同『お願いします!』


「えーと、報告事項は……今日はあるな。まぁ……とりあえずは演劇の最優秀賞おめでとう。頑張ったな。えーと、凄かったぞ……でだ、発表会で最優秀賞になった演劇は隣の小学校でもやるのが毎年の恒例行事になってるんだわ……」


クラス一同『…………』 シーン


「だから、お前らもう一回あの演劇やれ……以上」


クラス一同『えぇええええええええええええええええええええええ!』 


「そうだ……えーと、こういうのは……委員長でいいか、委員長! こっち来い」

「は、はい!」


「…………」


(ま、マジか……って事は俺はまたロミオをやるのか)




 お昼休み



「劇の脚本を変えろだぁあ!?」

「委員長! ちょっと、それどう言う事よ!?」

「きゃ! ふ、二人とも落ち着いて……ここは食堂なんだから静かにしないと皆に迷惑になるでしょ?」


「「う……ご、ゴメンなさい」」


「分かればいいのよ。それにちゃんと説明もするから……その為に主演の安藤くんと朝倉さんに一緒に学食まで来てもらったんだからね」

「ああ、だから『一緒にお昼どう?』とか言って誘ってきたのか」

「なるほどね」


(俺はてっきり、また二人で何か企んで罰ゲームとかを俺に受けさせるつもりなのかと思っちゃったぜ)


(私ったら、てっきり委員長が気を利かせて私と安藤くんのお見合いの場を作ってくれたのかと思っちゃったわ)


「つまり、朝のHRで委員長が先生に呼び出されたのはその脚本の変更についての内容?」

「そうよ。先生が言うには隣の小学校でやる私達の演劇の結末をハッピーエンドに変えて欲しいみたいなのよ」

「ハッピーエンド……」


(なるほど、そういうことか……)


「でも、何で先生はそんな事を言ってきたのかしら?」

「朝倉さん、俺達のやる劇の内容……覚えてる?」

「そんなの覚えてるに決まっているわ! 『ぼっち』とジュリエットでしょ? 安藤くん」

「朝倉さん……じゃあ、その結末も覚えているわよね?」

「委員長、そんなの当然でしょ! 結末は最後にジュリエットがロミオを追って天に召されて、最後に天国で二人は一緒になるのよ!」

「じゃあね? 朝倉さん……」

「そんな内容の演劇を――」

「小さな子供達がたくさんいる……」

「小学校でやったら――」


「「どうなると思う?」」


「…………阿鼻叫喚の地獄絵図ね」


(そうだ……小学生相手にやるには俺達の「『ぼっち』とジュリエット」は悲しすぎるのだ。だから、それを案じた学校側が先生を通して脚本を小学生が見ても大丈夫な『ハッピーエンド』に変えるように言ってきたのだろう)


「って、訳だから……安藤くん、お願いできるかしら?」

「ん、分かった。考えてみるよ。委員長」

「ありがとう」


(しかし、ハッピーエンドか……)


「それにしても……何で先生はその話を脚本を書いた安藤くんじゃなくて、委員長にしたのかしら?」

「え……そ、それは――」


「俺に話をしたとして、俺がクラスをまとめている姿が想像できなかったんでしょ」


「あ…………な、なんかゴメンなさい」

「安藤くん……せっかく私が気を使って言わないようにしてたのに……」

「…………」


(はたして、こんな俺がまともなハッピーエンドなんて書けるのだろうか?)








【おまけss】「速読」



「うーん」

「朝倉さん、なんか悩んでいるみたいだけど、どうしたの?」

「安藤キュン! うん、実はね……昨日『ドーピング頼りで生き延びます』ってなろう小説のコミカライズを読んだのよ」

「ああ! あのOLの主人公が異世界に転生して、チート能力の『ドーピング作成』で筋肉をムキムキに鍛えて、魔法の世界をドーピングした筋肉だけで生き延びていくドーピングサバイバルファンタジー小説だよね。あれも面白いよね。俺もこの前電子書籍のゲリラセールでポイント付いてたからつい買っちゃったよ」

「そうなのよ! それで、原作小説の一巻を買ったのだけど……」

「あれ? その割にはあまりページ進んでないよね」

「うん、ほら1巻の半分くらいってコミック版で既に知っているストーリなわけじゃない? そう思うと序盤って説明が多いし大きな展開も無いわけで……こう読む気が」

「あぁー薄れちゃってるわけだ」

「そうなのよぉ……先の展開が面白いのは知っているけど序盤は読むのが面倒でなかなか進まないのよ~」

「じゃあ、知らない展開まで飛ばせばいいんじゃないかな?」

「それだともったいないじゃない! だって、これ単行本サイズだから定価千円もするのよ!」

「まぁ、その気持ちも分かるけどね」

「因みに、安藤くんはコミック版を読んだ後に原作小説を買ったら最初から読む? それとも、知らない部分まで飛ばしちゃう?」

「いや、俺は朝倉さんと同じで最初から読むね。それにコミック版ってどうしても原作を削っている部分があるからそういう違いも含めて楽しみたいしね」

「安藤くんって、ラノベと数学に関しては真面目よね。私も安藤くんの言うことは分かるんだけど、やっぱり気持ちが乗らないとね」


「それなら速読すればどうかな?」


「…………安藤くん? 今、さらりと『速読すれば?』とか言ったけど、高校生なら誰でも数秒でラノベを読破できると思ったら大間違いよ?」

「いやいや! 俺が言った速読はそんなラノベやマンガに出てくる速読じゃなくて、もっと一般的なというか……ほら、もともとのストーリーをコミック版で読んでいる分けじゃん?

 なら大体の概要は分かるんだから原作小説を一冊まるまるじっくり読むんじゃなくて『あ、ここはコミックに書いてあった流れだな』って思う文章を基本流し読みしちゃうんだよ。そうやって、気になる箇所だけじっくり読めば俺ならコミカライズ読んだラノベの原作なら通常一冊に二時間かかるところを……大体、三十分くらいあれば読めるよ」

「なるほどね……」

「どう、分かった?」

「ええ、とりあえず安藤くんのラノベを読むスピードが頭おかしいってことが分かったわ」

「どういうこと!?」






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