第75話「解釈」




「ハッピーエンド……そもそも、ハッピーエンドって何だ?」


「ひゃっほーい!」

「ウェーイ!」


(ちょうどいいところに、いつも頭の中がハッピーで溢れてそうな山田と沢渡が教室で飛び跳ねているからついでに聞いてみるか)


「山田、沢渡」

「おう! 何だ安藤!」

「ウェーイ」

「突然だけどハッピーエンドってなんだと思う?」

「ハッピーエンド? それはあれだ! 王子様がお姫様にキスをする!」

「王子様出てこねぇよ……沢渡は?」

「ウェーイ!」

「参考にならねぇ……」


「おう、安藤。山田と沢渡呼び止めて、何の話をしてんだ?」


(ん、教室で俺に話しかけてくるなんて、誰かと思ったら――)


「……誰だっけ?」

「吉田だよ!」

「吉田……?」

「ちょ、おま! マジでクラスメイトの顔と名前くらい覚えておけよ! 覚えてる……だろ? ほら、この顔! 吉田だよ!」

「顔ね……」


(って言われても……俺は女子なら顔よりも胸を先に見るが、男子に限っては顔すら普段から見てはいない。何故なら『ぼっち』とは人の顔とか見ない生き物だからだ!)


「あ、でもその頭皮……思い出した! ハゲタ!」

「ヨ・シ・ダ! てめぇ、喧嘩売ってるのか! そ、それで……何の話してたんだよ?」


(うーん、まぁ吉田なら山田よりかはマシな意見くれそうだな)



「ほー、それで話をハッピーエンドにねえ……」

「うん、なんかアイデアない? 例えば『強烈な育毛剤が手に入った』とか?」

「それでどうやってハッピーエンドにするんだよ!? それで救われるのって、俺しかいねぇだろ! って、別に俺も救われねぇわーい! 誰が『ハゲ』だコンチキショーッ!」

「吉田……うるさい」

「誰の所為だと思ってるの!?」


(うーん、吉田なら落ち着いて相談に乗ってもらえるかと思ったけどそうでもないみたいだな……やっぱり、吉田も所詮は山田の仲間と言う事か)


「だいたいハッピーエンドなんてロミオがジュリエットと結ばれればいいんじゃねぇの?」

「吉田、それ山田の意見と同レベルだよ」

「スマン、待った! ちょっと返答を考え直さしてくれ…………

 いや、でもよ? ある意味小学生レベルに脚本を変更するって事は山田の意見でいいんじゃないか? だって、山田と小学生って同レベルだろ?」


「バカ野郎! それじゃあ小学生に失礼だろ!」


「う、そうだな……スマン。小学生を山田なんかと同レベルで語るのは間違ってたぜ……んー、というかこういう時は直接確認した方がいいんじゃないか?」

「確認って誰に?」

「そりゃお前――」



(ってなことがあり……)



「っというわけで、先生! どんな結末にすればいいのか教えてください!」

「…………なんで、それで担任の俺のところに来るんだ…………俺は数学の教師で国語は担当じゃないぞ」

「いや、だって話を書き換えろって言ったの先生じゃないですか?」

「…………俺は教頭から言われたことを委員長に伝えただけだぞ…………」

「でも、先生ならこんな話に書き直せって学校の要望を知っているかと思って……」

「お前…………安藤、俺がそんな面倒なことを確認する教師に見えるか?」


「見えません」 キッパリ


「……………………」

「……………………」


((……だよな))


「はぁ…………大体ハッピーエンドなんか適当でいいだろ? あの話を書いたのはお前なんだろう。なら、ハッピーエンドくらい簡単に書けないのか…………」

「じ、実は……あの話は元々ハッピーエンドなんです」


「…………………………………………………………………………………………………………は?」


「えっと……だから、俺はあの結末がハッピーエンドのつもりで『ぼっち』とジュリエットを書いたんですよ」


(それなのに気づいたらクラスの皆が号泣してて、最初は感動のあまりに泣いていたのかと思ったけど時間が進むたびに何故か皆この話をバッドエンドだと思っている事に気づいたんだよな。まぁ、結局はそれを否定できずにここまで来てしまったわけだけど……)


「ちょ、ちょっと待て…………あ、安藤。お前、あれが本当にハッピーエンドだというのか?」

「はい」

「なん…………だと!? そ、そうか……」


(やっぱり、先生も誤解していたのか)


「だから、俺……あの話を書き直すことができないんです……俺の中ではあの話はあれがハッピーエンドで……だってロミオをジュリエットは――」

「わかった…………」

「え」

「安藤、それがお前の思う『ハッピーエンド』だというのなら劇はそのままでもいい」

「でも、小学校には……」

「大丈夫だ…………何とかする。そもそも、物語ってのはそれを観て何を思うのかが『勉強』だからな」

「せ、先生!」

「でもな、安藤。もしできれば……他の結末も一応考えてくれや…………できたらでいいからな」

「はい! 先生、ありがとうございます」

「おーう、期待してるぞ…………」


(はぁ……全く、めんどくせぇな…………『教師』ってのは)






【おまけss】「妄想メーカー」



「ねえ、安藤くん」

「何? 朝倉さん」

「妄想メーカーって知っているかしら?」

「えーと、確か人の名前を入力すると、その人が普段どんな妄想をしているのか予測できるアプリだよね?」


(一時期、流行ったよな。でも、あれって本当に予測しているだけじゃなくて、普通に結果はランダムなんだよね)


「そうなのよ。昨日、携帯のアプリを整理してたら懐かしくなってね。よければ少しやってみないかしら?」

「うん、いいよ」


(そういえば俺ってこういうのやるのは初めてだな)


「じゃあ、まずは安藤くんの名前から入力してみるわね」


(結果はランダムって分かっててもこういうのってついやっちゃうのよね。さて、安藤くんの結果はどんなのかしら――)



安藤くんの妄想内容

【 おっぱい  おっぱい  ラノベ  おっぱい  ラノベ  黒髪ロング  おっぱい  ラノベ  おっぱい おっぱい  ラノベ  おっぱい  おっぱい  ラノベ  おっぱい  おしり ラノベ おっぱい  ラノベ  ちっぱい  ラノベ  おっぱい ラノベ 】



「…………」 シーン

「……安藤くん?」 じー


(何これ!? めっちゃ当たってるぅううううううううううううううううううううう!?)


「は、はは……所詮はランダムのゲームだからね? あはは……」

「ふふ……そうよね?」 じー

「ほ、ひょら! 朝倉さんもやや、やってみようよ? 俺、朝倉さんの診断結果も気になるな~」

「そう? じゃあ、入力してみるわよ……」

「うん、うん!」


(とにかく一刻も早く、この診断結果のページを消させよ――)



朝倉さん・の妄想内容

【 巨乳  キョニュウ  ラノベ  おっぱい  きょにゅう  巨乳  大きいおっぱい  ラノベ  巨乳 巨乳 おっぱい 巨乳 ラノベ 巨乳 キョニュウ ラノベ きょにゅう!  おっぱい  キョニュウ  ラノベ  おっぱい 牛乳  巨乳  キョニュウ ラノベ 】



「…………」 シーン

「…………」 シーン


(な、何よこれぇえええええええええええええええええええ!? 別に、私そこまで胸のことばっかり考えてなんかいないんだから!)


「あ、あら、やっぱり所詮はただのゲームね。ウフフ……もう、私がこんなことばっかり考えているわけないでしょう……ねぇ~、安 藤 く ん ?」

「は、はは……所詮はランダムのゲームだからね――って、ん? 朝倉さん、ここ、名前入力する所……『さん』の後ろに変な記号『・』が付いているよ?」

「え、あら! 本当ね。きっと、入力の最後でミスって入れちゃったんだわ」

「っ! な、なら! 正しい入力で入れなおそうよ! そうしたら今度はちゃんとしたのになるよ!」

「そ、そうよね!」


(なんだ。私ったら入力ミスしていたのね。でも、これでちゃんとした診断結果に――)



朝倉さんの妄想内容

【 安藤くん 安藤くん 安藤くん 安藤くん 安藤くん 安藤くん 安藤くん 安藤くん 安藤くん 安藤くん 安藤くん ラノベ 安藤くん 安藤くん 安藤くん 安藤くん 安藤くん 安藤くん 安藤くん  安藤くん 安藤くん 安藤くん 安藤くん 安藤くん 】



「……って、そんなわけないでしょおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「あ、朝倉さん!? 一体どんな結果が出たの!?」



 

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