第73話「本番」




【『ぼっち』とジュリエット】本番当日




「ロミオ! ロミオ!どうして、こんなことに……私は貴方さえいれば何もいらなかった! 貴方さえいれば他の友達も! お金も! 家族だっていらないのに…………なのにどうして! 私の前から……いなくなるのよ!

 うぅ…………もう、絶対に逃がさないわ。私は貴方が何処に行こうと絶対に、貴方を『一人ぼっち』なんかにさせないんだから!」



『そう言うと、ジュリエットはロミオの短剣で自らの胸を刺して後を追いこの世を去りました』



観客『うわぁあああああああああああああん!』




「ええ! もう……絶対に離さないわ! 私達はいつまでも一緒よ!」

「ジュリエット……疲れたろう。僕も疲れたんだ……なんだかとても眠いんだよ。ジュリエット…………」



観客『ぱ、パ●ラッーーーーーーーーーーーーーーーーシュ!』



『以上で「『ぼっち』とジュリエット」を――』


「あ、ヤベ! 小道具落とした!」


 ガンガラガッシャーン! ←山田が舞台から転がり落ちる音



観客『山田ぁああああああああああああああああああああああ!』



『い、以上で「『ぼっち』とジュリエット」を終了しまーす』






「「「「かんぱーい!」」」」


「いやー流石に委員長の私も、舞台の幕が下りるシーンで山田のバカが転がり落ちた時はどうなるかと思ったけど……大成功に終ったわね!」

「そうだねー、打ち上げは明日だけど今日はメインメンバーの私達四人だけでお祝いだね♪」

「モモの言うとおりね。演劇の結果もまさかの『最優秀賞』をもらえたし、これも全て安藤くんが書いた脚本のおかげね?」

「…………」


(おかしい……何かがおかしいぞ?)


「安藤くん? ねぇ、安藤くん?」

「あ! え、朝倉さん……ごめん、聞いて無かった」

「もう! どうしたのよ? さっきから何か変よ?」

「いや……何故か、前にもこんな風にお祝いをしたような気が……」


(これがデジャビュってやつか……?)


「安藤くん、何言ってるの? 演劇の本番は今日が初めてだし、今までお祝いもしたことないでしょ? ねぇ、委員長」

「そうよ。安藤くん、本当に何言っているの? 確かに最近はいろいろな事があって忙しかったけどね。例えばクラスの皆が一生懸命作った舞台のパネルに山田がコケて盛大に壊したりとか……ねぇ、桃井さん?」

「そうだねー。山田くんが自分の衣装を雑巾と間違えて汚しちゃったりとかもあったよねー」

「そうよ、安藤くん。それに本番三日前に実は山田くんが風邪を引いているのが判明してクラスメイトの三分の一が風邪をうつされて大変だったじゃない」

「そ、そうだよね! 俺の気のせいだよね! てか、それを思い出したら山田の奴クラスの足を引っ張ってばっかりだな……」


(そうだ。しっかりしろ俺! 今日は学年発表会があって演劇も無事に終わったじゃないか。成績も『最優秀賞』をもらったしこれで俺がもう主役なんて不相応な役をやることも無い!

 てか、委員長に演劇成功のお祝いをサイセでやるって言われて付いてきたが……メンバーが俺、朝倉さん、桃井さん、委員長って、よくよく考えると俺、ハーレム系のラノベ主人公まんまだな……)


「お待たせしました。こちらご注文のお品物ですぅー」


(この客……また女が増えている。今度は三つ編み眼鏡とか……お前はどこのハーレム野郎よ! くっそ! 私だって……今はカレシいないけど、あと三年もすれば新しいカレシ作ってバイトなんか寿退社してやるんだから!)


「それにしても……安藤くん、朝倉さんの演技本当に上手くなったわね。一体どうやってあの大根役者の演技を上手くしたのかしら?」

「さぁ? 委員長の『課題』の成果じゃん?」

「あんな適当な作戦で演技が上手くなるわけないでしょ……朝倉さんが上手くなるとしたら安藤くんが何かした以外にありえないわ」

「委員長、自分が与えた課題を適当って……」


(まぁ、確かに朝倉さんの演技が上達したのは俺があることをしたからだ。そもそも、朝倉さんの演技が下手だったのは朝倉さんがジュリエットになろうとしていたのが問題だった。朝倉さんは演劇を勉強みたいに考え、台本をジュリエットを演じるための教科書だと思っていた。でも、それは違う。演劇は楽しむもので台本は読む物だ。そして、朝倉さんは読書の楽しみ方ならきっと誰よりも知っている。だから、俺は朝倉さんの台本の最初に裏設定として、ある一文を書き加えただけだ)


「委員長、答えは簡単だったんだよ」



『ジュリエットは転生者である。そう、その前世の名は朝倉――』



(そう、朝倉さんがジュリエットになるんじゃない。ジュリエットが朝倉さんになればよかったのさ)



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