第72話「透明な嘘」
「…………」
「…………」
(恥かしぃいいいいいい! 私ったら安藤くんが胸の谷間を見ているものだと思ったら……まさかブラが見えてたなんて! いやぁあああああああああああああああああ! アハ、アハハ……そうよね。私ったら、何を考えて自分に谷間があると思ったのかしら――って、谷間くらい作れるわよッ!)
(やべぇ……流石に朝倉さんが無防備すぎるし、俺にとっては朝倉さんのブラチラとか10万3000冊の禁書に匹敵するレベルの劇薬すぎて目に毒だから、流石に指摘したけど…………
空気が重過ぎるッ!)
(流石にこの空気は耐えられないから無理矢理にでも、話を振るしかないわよね……)
「そ、その……ロミオは最近読んだラノベでオススメとかあるかしら?」
「え! くぁ、ううん……おお、オススメね。そうだなー」
(最近読んだラノベかー……そういえばアレは面白かったな)
「朝倉さんは読んでるかわからないけど『なろう』じゃ無い小説投稿サイトの書籍化作品でオカマのお坊さんが主人公の『イッコーさん』ってラノベが面白かったね」
「それ! 私も気になってたのよ! 確か内容は――……」
むかしむかし、京のはずれのバーに一睾(いっこう)というカマくさい坊主がおったそうな……
どんだけぇ~~
「――って、やつよね!」
「うん! タイトルに釣られて買ったんだけど、こんなにくだらなくて面白い小説があったのかと脱毛――じゃなくて、脱帽しちゃったね!」
「へー、そうなのね! 良かったら私も買ってみようかしら?」
「良ければ貸すよ」
「いいの!」
(ふぅ、よかった……どうやら、朝倉さんの調子も元に戻ったみたいだな。やっぱり、朝倉さんとはラノベの話が合うな)
「うん、じゃあ明日にでも学校に持ってくるよ。ジュリエット」
(ジュリエット……学校……そう言えば――)
「…………」
「ジュリエット?」
「ねぇ、ロミオ……私、やっぱりジュリエット役を辞退しようと思うの」
「うえ!? 何を言い出すのさ!」
「思ったのよ……『これでいいかしら?』ってね。だって、学校ではクラスの皆が演劇の衣装や舞台を作ってくれているのに、私の演技が下手な所為で肝心の演劇の練習が進んでないでしょう。クラスの皆に迷惑をかけているのに私一人だけがこんなのんきにデートなんかして……申し訳ないし、これ以上皆に迷惑もかけられないじゃない。大丈夫よ……ジュリエット役なら私じゃなくてモモでも十分に――」
「それは駄目だ」
「……ロミオ?」
「朝倉さん、迷惑くらいかけていいんだよ。だって、演劇は皆で作るんでしょ?」
「皆で……作る?」
「そう、朝倉さん最初言ってたよね。この学年発表会の演劇はクラスの親睦を深めるのが目的だって?」
「そうね……だからこそ私の所為で皆の足を引っ張るわけには――」
「いいよ。足を引っ張ってもいいし、迷惑だってかけていい。だって、それが『親睦を深める』ってことじゃないの?
でも、クラスの皆が朝倉さんに演じて欲しいと思った『ジュリエット』って役を他の人に譲るのは駄目だ……だって、それは朝倉さんが請け負った配役という『責任』なんだから。
クラスの皆が衣装や演劇の舞台を作ってくれるのは俺と朝倉さんに演技の練習に集中して欲しいからでしょ? だったら、それを辞めるなんて言ったらダメだ。
大丈夫、もし、それで朝倉さんが辛かったらこう言えばいいんだ。
『ごめんなさい』って」
「あっ…………」
「じゃなきゃ、親睦を深めるなんて無理でしょう?
大丈夫……演技が下手だろうが、例え大根だろうが、ピンク色だろうが、誰がなんと言っても俺は朝倉さんの『ジュリエット』を否定しない。
だから、俺と一緒に舞台に出てくれるかな? ジュリエット」
「……はい」
(これは俺のただの自己満足かもしれない。だって、クラスの皆が朝倉さんにジュリオエットをして欲しいという願いもあるけど……それを一番願っているのはこの俺なんだから。
でも、その代わり……朝倉さんの演技は俺が絶対に何とかする。それが、朝倉さんに『ジュリエット』をやらせる俺の『責任』だから!)
「……ねぇ、ロミオ」
「何かな、朝倉さん?」
「これを見て……」
(ん? スマホのメール画面……って、これは!?)
モモ『サクラと安藤くんへ。因みに、委員長の課題は「帰るまでがデート」だからそれまでは「ジュリエット」と「ロミオ」呼び継続だよー』
「ロミオ……罰ゲームね♪」
「アイェエエエエエエエエエエエエエエ!?」
(も、桃井さん!? 桃井さんナンデェエエ!? 何で、朝倉さんにだけメールで伝えてるんだよ!?)
「無効でしょこれ! だって、桃井さんは別れる時に課題はクリアって……」
「フッフッフ! クリアとは言ってたけど課題が終了したとは言ってないのよ! 大体、ロミオはわ、私の事を呼ぶ回数が少ないのよ!」
(ハメられたぁあああああああああ!)
「うぅ……まさか、最後の最後で罰ゲームを受ける羽目になるなんて……てか、何回『愛の言葉』をささやけばいいんだ?」
「しょ、しょうがないわね……流石にこれはちょっと卑怯かもしれないから、罰ゲームの『愛の言葉』はい、一回だけでいいわよ!」
(それに、そんな何回も囁かれたら……私、今度こそ嬉しさと恥ずかしさの狭間で死んでもおかしくないわ)
(ホッ……良かった。一回だけでいいのなら――『愛の言葉』か……)
「じゃ、じゃあ…………行きます」 ドキドキ
「う、うん…………」 バックン!バックン!
(うぅ……安藤くんからの『愛の言葉』緊張するわ!)
(朝倉さん――――俺は、この綺麗で美しくて……そして、意外と可愛いこの女の子の事が好きだ。普通なら友達になるようなことなんてありえなかったのに、意外な趣味を知って話すようになり……そして、気づいたら彼女の魅力に気づいて好きになっていた。
いつも何に対しても一生懸命なところ。だけど、人に頼るのが苦手で意地っ張りなところ。そして、本当に優しくて、意外と隙だらけで……見守っていないとそんな朝倉さんが他の誰かにとられるんじゃないかと思って不安になる。
だから、彼女が欲しくなるんだ……だけど、臆病な俺にはそんな大胆なことはできない。
でも、この『愛の言葉』はただの罰ゲーム、俺が『真実』を言っても朝倉さんには伝わらない。それでいい…………)
「 愛してる 」
だから、俺はこの真実を一つの『嘘』で塗りつぶそう。
「ジュリエット……」
そう『透明な嘘』へと――――
「ふぁ……」
(安藤くんの真剣な『愛してる』な、なんて、破壊力なの! こんな情熱的に言われたら……私も応えたくなるじゃないのよ……でも、どうせ演技なんだし乗っかってもいいわよね?)
「うん! 私も、愛してるわ……ロミオ」
「ありがとう。ジュリエット」
(これはただの演技だ……朝倉さんの本心じゃない)
(これはただの演技……安藤くんの本心じゃないわ)
「…………えへへ」
「…………うふふ」
(それでも、俺は――)
(それでも、私は――)
((この人の『言葉』が嬉しい……))
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