第66話「無自覚ロミオ」
「あ、ロミオ、見て! サンダーボルト文庫の新刊がもう発売しているわ!」
「本当だ! そうか、次の発売日が日曜日だから前倒しで今日発売しているのか」
「どうしよう……『魔王科高校の劣等種』の新刊が出ているから買いたいけど……今日はモモも居るのよね」
(ああ、そうか。朝倉さんはラノベオタクなのを桃井さんにも隠しているんだよな。正直、このドジ倉さんがあの桃井さんに今までその事を隠し通せていたのって奇跡だよね……桃井さんは映画が終ってから『ちょっと、さっき見た映画の感想を自分の中で整理したいから一階のカフェテリアで休んでるね』って言って一階に行ったんだよな。そして、それをチャンスとばかりに朝倉さんが三階の本屋のラノベコーナーに突撃したわけだけど……)
「ジュリエット、別に買っても大丈夫じゃないかな? だって、ここはラノベも置いているけど一般の書店だから買っちゃえば中身は袋で隠せるし、何を買ったか聞かれても小説で誤魔化せると思うよ」
「そ、そうよね! じゃあ、この際だから他の新刊も買っちゃおうかしら!」
(ふふーん♪ 今日は何ていい日なのかしら! 安藤くんと一緒にSAOの映画は見れるし、こうして書店でラノベを見て回れるんですもの! それにしてもサンダーボルト文庫はいつも新作のラノベが多いわね……ついでだし、何か新作も買おうかしら?)
「うーん、どれがいいかしら? 私好みのチート無双系は……」
(朝倉さん、なんか真剣に新作のラノベも吟味し始めたな。あー、これは長くなるやつだな……不思議な話だけど、朝倉さんと一緒に本屋に来るのもこれで三回以上になるし、本屋以外のショッピングでも経験しているから分かる……こうなった朝倉さんの買い物は長い!)
「ゴメン、ジュリエット。俺ちょっと一階の桃井さんの様子を見てくるよ。先に下りてるね?」
「…………うん」
(あー、これは駄目ね。タイトルに『異世界』と『エルフ』って入ってるけどいかんせんテンプレの匂いがするわ……こういうただテンプレ要素を詰め込みましたって感じの作品は地雷が多いのよね)
(うん、これは聞いてないな……まぁ、流石に三十分もすれば気付くだろうし、後で桃井さんにメールでも送ってもらえばいいか)
「こっちの異世界ゾンビパニックモノはどうかしら……?」
一階 カフェテリアスペース
「うーん、まさかアニメだと思ってバカにしていたよー……」
「桃井さん」
「え、安藤くん! ど、どうしてここに……サクラは?」
「いや、なんか桃井さんの様子がおかしかったから少し様子を見にね……」
「え、ちょ……もー、安藤くんはいけないなー、主役のロミオがヒロインのジュリエットを置いて他の女の子に浮気かなー? 私なんて所詮は脇役以下のナレーションだよー?」
「ええ! べ、別にそんなのじゃないよ! ただ、俺は――」
「……?」
(そうだ、ここでも迂闊に『朝倉さん』って言ったら罰ゲームになるんだよな? じゃあ、恥かしいけど、ここでもちゃんと『ジュリエット』で通すか……)
「ジュリエット(ラノベを選ぶのに夢中な朝倉さん)よりも、桃井さん(の様子)が気になったから、ここに来たんだ」
「…………ふぇへ!?」
(うあななあな! 安藤くん、急に何をいいいだすのかなーっ! っそそそ、それってまるで安藤くんがサクラよりも私の事を――……まま、まさかー、そんなことあるわけないよね! だだだ、だって、安藤くんはサクラのことを好きだし、それに……私なんかサクラと比べたら背も大きいし、おしゃべりだし……猫被ってるから――)
「も、もう! 安藤くん何を言ってるのよー、それじゃあ本当に私を口説いてるみたいだぞ♪」
「うぇ!? 別にそんな気は無かったんだけど……ただ、今はジュリエットが買い物に夢中になったから……」
「あぁ――ああなるとサクラは買い物が長いからねー」
「あ、やっぱり桃井さんも経験あるんだ」
「そりゃ、親友ですからねー」
(何だ……ほら、やっぱり私の勘違いだった)
「でも、安藤くん。サクラの買い物から抜け出すのに私の事を言い訳にするのはどうなのかなー? って、桃井さんは思いますよ?」
「え、何言ってるの? 桃井さんの様子が気になってここに来たのは本当だけど?」
「ほにょ!? ふぇ、へー……そうなんだー」
(う、うわぁービックリしたぁ……安藤くんホントマジでもーなー……うっかりホレちゃうかと思ったよぉー。まぁ、私には安藤くんの言葉なんて、サクラじゃないんだから、これっぽっちも効かないけどねー)
「…………?」
(桃井さん、顔が少し赤いけど……やっぱり、体調が良くないのかな?)
その頃の、朝倉さん。
「あ! トレジャーノベルも新刊が出ているじゃない! キャーッ! 『異世界モンスターハンター』の新刊も出てるわ!」 ウキウキ♪
【おまけss】「くしゃみ」
「安藤くん、おはよう」
「おはよう、朝倉さん」
「うぅ……へくぴぃっ!」 ←くしゃみです
「どうしたの? 朝倉さん、風邪?」
「うぅ……ごめんなさいね、安藤くん。別に風邪ではないのだけど、ほら今日って結構朝から冷えてるじゃない? だから、少し寒くて……」
「ああ、分かるよ。昨日は暖かったくせに今日は一気に気温が下がってたからね」
「そうなのよ。しかも今日は途中で雨が降るらしいわよ?」
「うぇ! マジで? うわー俺、傘持ってきてないよ」
「本当よ。来る前にアメタツがテレビで言ってたわ」
「もう、最近このパターン多すぎじゃない? 寒いと思った次の日に急に暑くなって、暑いと思った次の日は急に冷えて雨が降って……まったく、
「あいつらって……まぁ、この時期は天気が崩れやすいから仕方ののだけど、確かにこうも気温がすぐ変わると本当に風邪ひいちゃいそうで困るわね」
「本当だよ……へ、へ―……へみょっ!」 ←くしゃみです
「あら、安藤くんも風邪かしら?」
「うぅ……なんか話してたら俺まで寒くなっちゃったよ」
「私のが移ったのかもね? ウフフ~」
「…………」
(委員長として気になって横から二人の会話を聞いていたけど……あの二人、変なくしゃみするわね……)
「へ、へ―……みゅぅ!」 ←くしゃみです
(うぅ……委員長の私がくしゃみなんて……もしかして、私まであの二人のくしゃみが移ったかしら?)
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