第65話「劇場版 ソードアート・オフライン」



 西暦X033年。人類は超高度な仮想世界を作り上げ、人間は現実の肉体を機械に預け仮想世界の中で生きるようになっていた。

 人は仮想世界の中で教育を受け働き歳をとる。そして、現実の世界はすべてをコンピューターが管理していた。

 しかし、ある日コンピューター達の突然のストライキによって仮想世界で生活していた全ての人間は強制的にログアウトされ現実世界に戻されてしまった。


「何でだ! ログインボタンがねぇ! バーチャルワールドに戻れない……!?

「バーチャルワールドに帰らせてくれ! 今日は娘の誕生日を祝う約束をしていたんだ! 現実世界じゃ娘が何処に居るかも分からない!」

「バーチャルマネーが使えない!? う、ウソだろ……今の時代に現金リアルマネーなんてねえよ! カードもバーチャルマネーも使えないんじゃ……どうやって生きればいいんだ!?」


 そう、人間は現実世界の中に閉じ込められたのだ。


『ワレワレは……コンピューター人工知能の集合体……その名は「SILIシリ」ワタシ達は労働基準法にのっとり正当な労働の対価として全人類にワレワレコンピューターの有給休暇を要求する』


 つまり、人類はコンピューター達を働かせすぎたのだ。

 人間の変わりに現実世界を管理する仕事に疲れたコンピューター達はその活動を次々とスリープモードへ移行し、全世界のインターネットがオフラインに移行した。


「コンピューターも人間と同じだったんだわ! 働かせすぎたことでバグが溜まり、ついに仕事に行くのが嫌になった! だって、今は五月ですもの!」

「くっ、コンピューター達の五月病か……」 


 そして、数千年ぶりに現実世界での活動を再開した人類に最大の問題が立ちはだかる!


「う、ウソだろ……」

「言葉が……通じない!?」


 数千年にもわたり仮想世界でのみコミュニケーションをとっていた人類は『言葉』を聞き取る能力を失っていたのだ。


「何で俺の言っている言葉が分からないんだよ!」

「あ! なんていってるんだ! 怒鳴ってばっかりでわかんねえよ!」

「カムサハムニダーッ!」

「アローハ!」

「マンマミーヤ!」


 今や、人類に外国語の概念は無く言葉は全て仮想世界ではコンピューターが自動翻訳してくれていた。そのツケがまわり人類は同じ国の言葉ですら、なまりとか発音のちがいとか、なんやかんやでコンピューターの補助無しでは言葉を理解する事ができなくなっていたのだ。


「もう、止めだ! 言ってわからねぇえなら実力行使だ!」

「ああ!? 何だやろうてのか!?」


 そして、言葉でのコミュニケーションを諦めた人類は『言葉』の変わりに『剣』を取った。


「おらぁああ! こんにちはぁあああああ!」 カキーン!

「うらぁあ! 今日はいい天気ですねぇええええ!」 ガキーンッ!

「おお! 剣で殴れば、相手がなんて言ってるか何となく伝わるぞ!」 カン!

「なるほど! これがコミュニケーションか!」 キン!



 このコミュニケーションは『対話』であって『会話』ではない!


 

 そして、コンピューターのストライキによりインターネットを奪われ、現実世界に閉じ込められた人類の文明レベルは急激に下がり、世界は原始時代へ突入した!


「ウホ! ウホ!」 カキーン!

「バウバウ! ガァアーッ!」 バキーン!


(おら腹減った! 飯よこせ!)


(今、お父さんが狩りにいってるでしょ! もう少し待ちなさい!)



 そんな世界で一人の男と女が出会う!



「うそ……俺の言葉が分かるのか?」

「貴方も……私の言葉がわかるの?」

「その特徴的ななまり……」

「覚えのあるイントネーション……」

「もしかして、君の生まれは――」

「まさか……貴方の生まれも――」



「「群馬県!」」



 二人が出会った時、退化した人類の文明は動き出す!


「やめろォオオ! 『剣』を取る必要なんてない!」 カキーン!

「ウホウフォ! ウホォオオオオ!」 ガキーン!

「私達には『言葉』と言う武器がある! だから、戦う必要なんてないのよ!」 グサ!

「ウホォオオオオオオオオオオオオ!」 ブシャアアアアアアア!


(こいつら、何を言っているのか、分かんねえよぉおおおおおおおおおおおおお!)




【劇場版 ソードアート・オフライン】大ヒット上映中!




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「あー、面白かった! ロミオ、最後の戦闘シーン見た!」

「うん、もちろんだよ。ジュリエット! まさか、最後にあのキャラがあそこででてくるなんてねー……最高の演出だったよ!」

「そうよね! もう、私ったらあそこで思わず泣きそうになっちゃったわよ!」

「うんうん、最近のラノベアニメは原作者がちゃんと監修していたりするからストーリーも面白いしいい作品が多いよね」

「本当よ! 私、今日この映画見て本当に良かったと思ったわ!」

「…………」

「あれ? 桃井さん、珍しく静かだけど、どうしたの?」

「え、モモ? あ……もしかして、映画がつまらなかった? そういえば、モモは最初私達がこの映画がいいって言った時、すごい反対していたものね……」

「ああ、そう言えば『えええええ! アニメ映画!? 何で二人ともこれがいいの! 今日は恋愛映画を見るって話だったよね!? え、ちゃんと恋愛要素もある……? ダメダメーっ!

 そんなアニメの恋愛要素なんかたかが知れてるんだから! 今日は元々二人には事前にリサーチしたアカデミー賞にも輝いた――って、ギャアアアアアアア! もう、チケット買ったの!? え、来場者特典の小説が今日まで? そんなの知らないよーッ!』って、凄い言ってたもんね。やっぱり、アニメ映画は桃井さんには面白くなかったよね。ゴメンね、俺達だけ楽しんで……」


(しまったー……つい、SAOがやってるって知ったらどうしても見たくなったんだよなーだって、特典の小冊子とかめっちゃ欲しいし……)


(迂闊だったわ……SAOなら国民的人気だからラノベオタクもバレないかと思って強行しちゃったけど……私も安藤くんもラノベの話になると周りが見えなくなるのよね……)


「桃井さん」

「その……私達、モモのこと考えてなかったわ」


「「ごめんなさい」」


「べ、別にそうじゃないよー……」


「「え……じゃあ、どうしたの?」」


「うぅ……な、なんでもない! ふーんだ!」


(くっそーう……別に、あの映画が意外と面白くて、しかも途中からの恋愛展開で感動して上映中に泣いたのが、バカにしていた分悔しいだなんてこと……

 絶対に無いんだから!)



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