第64話「愛してる」
「さーて、サクラには安藤くんに愛の言葉を『四回』囁いてもらおうかなー? あ、もちろんこの罰ゲームも演劇の練習の一つだから呼び方は『ロミオ』と『ジュリエット』でねー」
「…………」
「…………」
((こんなショッピングセンターのど真ん中で、んな恥かしい事できるかぁあああ!))
「も、モモ……その、本当に? あ、愛の言葉ってのを言わないと駄目なの?」
「うん!」
「モモぉ……」うるうる
「…………」
(駄目よ! そんなの恥かしくてできるわけないじゃない!)
(朝倉さん、そんなに『愛の言葉』とやらを言うのが嫌なのか……まぁ、そうだよね。だって、その相手がこんなぼっち野郎じゃな)
「でも、これはサクラのためだよー……って、言いたいけど、仕方ないなぁ」
「モモ!」
「親友のサクラがそんなに嫌なら、今回だけはその罰ゲームを見逃してあげてもいいよー?」
「わーい! 流石はモモだわ! 私、モモのことだーい好きよ!」
「うん、ありがとー♪ 私もサクラが大好きだよー。だから、罰ゲームの愛の言葉は私がサクラの変わりに安藤くんへ言ってあげるねー?」
「「え?」」
「ちょ! ちょっと待って、モモ! ななな、何でモモが愛の言葉を言う事になるのよ!?」
「えー、だって罰ゲームは委員長の命令だから絶対だしー。でも、親友のサクラが本気で嫌がることはしたくないでしょー? だから、私がサクラの変わりに罰ゲームを受けるんだよー。安藤くんも、それでいいでしょう?」 チラチラ
「え、まぁ……桃井さんとあさ――じゃねぇ! ジュリエットがそれでいいなら、俺はいいけど……」
(ふぇ! 何でそうなるのよ! 別に私は本気で嫌がっているわけじゃ――っは! も、もしかしてこれは今朝見た夢が現実になろうとしているの!? つまり、モモは本当に安藤くんの事を――)
「じゃあ、安藤くん♪ 今から愛の言葉を言うから覚悟してねー?」
「え、あ……うん」
(桃井さんが前かがみで俺をのぞき込んでいる……おっぱいの谷間がヤベェ!)
「ねぇ、安藤くん。良かったら私と――」
「――っ!」 ピキューン!
(その言葉は今朝の夢で見た――)
「ら、らめぇええええええええええええええええええええええええええええ!」
「おわぁあ!」
「きゃ! ちょっと、サクラどうしたのー?」
(駄目! ダメダメダメってたら、らめぇええええええ! モモ! 貴方にその言葉を言わせるわけにはいかないわ!)
「モモにそんな事させない! やっぱり、私が罰ゲームを受けりゅ!」
「あ、そう? じゃ、どうぞ、どうぞー♪」
「って、ええええ! モモ、変わり身早いわよ!?」
(えへへー、思ったとおり、サクラは直ぐに挑発に乗るから分かりやすいねー。それよりも、問題なのは安藤くんが意外と手ごわいなー、最初は一回くらいはサクラの名前を言うかと思ったのに意外と耐えてるんだもん)
「じゃあ、サクラに愛の言葉を囁いてもらいまーす♪ どうぞ!」
「うぅ……ろ、ロミオ!」
「はい、ジュリエット」
「あ、あ――……ぁ?」
(落ち着きなさい私……これは演技、そう演技よ。ただの演技じゃない……演技? 私は今演技で彼に愛の言葉を言おうとしているの? ちょっと、待ちなさい……これって良く考えたらチャンスじゃないかしら?)
「…………」 ブツブツ
「……?」
「サクラー?」
(今、私が何を言おうとこの場ではただの演技で済むわ。でも、安藤くんからして見れはこの私の『愛の言葉』を演技とは言え平常心で受け流せるかしら? いいえ、無理ね! 何故なら……私は学校一の美少女だから! そうよ! 最近なにかと上手くいかない事が多くて忘れていたけど、私って本来は完璧で超スーパーミラクルな美少女だものね。だって、見た目は申し分ないはずでしょ? それにスタイルだって無駄な脂肪が無いし完璧でしょ? そして頭だっていいわ! つまり、これは逆を言えば安藤くんを私の魅力でメロメロにして落すチャンスなのよ! 例え演技の言葉でも安藤くんにダメージを与えられる私が、もし本気の『愛の言葉』を彼に言えば……落ちないはずが無いわね!
さぁ、安藤くん……覚悟しなさい! 私の本気の『愛の言葉』を貴方に届けてあげるわよ!)
「ロミオぉ……」 うるうる
「え、じゅ、ジュリエット……?」
「っ!?」
(何だ? 急に朝倉さんの様子が変わった? まるで本物の恋する乙女みたいに――)
(え、急にサクラの雰囲気が……変わった?)
「愛し――ぃでぇ!」
((あ、舌噛んだ……))
「…………あ、愛してりゅ!」
((また、噛んだ))
「………」
「………」
(よかった……いつもどおりのドジ倉さんだ)
(何だぁ……さっきのは気のせいかー)
「うぅ……もぉおおおおお! 『愛してる!』『愛してる!』『愛してる!』『愛してるぅうううう!』どう! これでいいんでしょう? べ、別にこれは罰ゲームだから言っただけで、私が本当に、ああ、あんど――じゃなくて……ロミオの事を愛しているわけじゃないんだから、勘違いしないでくださいまし!」
((あ、ツンデレのジュリエットバージョンだ……))
(いったーい! 舌噛んだーっ! もう、何でこうなるのよぉおおおおーーーーっ!)
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