第62話「お題」




「あ、安藤くん、やっと来たー」

「ゴメン、五分前には付くようにしたんだけど……」

「もうー、デートは女の子を待たせちゃ駄目なんだからねー」

「え、これってデートなの?」

「だって、そうでしょー? 女の子と男の子が一緒に映画を観に行くんだから」

「まぁ、そうか……?」


(流石に五分前に来れば流石に大丈夫だと思ったけど、まさか、待ち合わせ場所のショッピングセンターに朝倉さんと桃井さんの両方とも既に来ているとは――)


「ふんむー! むぅうーっ!」

「わ! あ、朝倉さん!?」

「きゃーっ! ちょ、サクラ!? なんで急に私と安藤くんの間に飛び込んできたのー?」

「こ、これはー……アレよ! 虫が飛んでいたのよ! べ、別に二人がイチャイチャしすぎて私の存在を忘れているんじゃないかって思ったわけじゃないんだから、勘違いしないでよね!」

「えー? 何か怪しいなー? 今日も安藤くんが来るまですっごい私の事を怪しそうに『じー』っと見てたしねー」

「はにゃ! べ、別にモモの事なんか意識してないわよ!」


(うーん、怪しいなー? なんか、今日のサクラ私のことを女として敵視しているよねー? 別に私は安藤くんを取るつもりなんか全然無いし、むしろ今日のデートはサクラと安藤くんの仲を進展させる意味もあるんだけどねー)


「あはは。まさか、俺が朝倉さんみたいな人を忘れるわけ無いじゃん」

「ふぇ!」


(あ、安藤くん……それはどういう……つまり、存在を忘れるわけが無いくらい私を日ごろから意識しているってこと!?)


(ただでさえ美少女で目立つのに、朝倉さんほど普段から何をするか分からない人を忘れるなんて無理無理。むしろ、この面子で存在を忘れるなら、間違いなく『ぼっち』の俺だろ)


「さて、主演の二人がそろった所で私から今回のデートに関するお題を発表しまーす!」


「「お題?」」


「うん、二人とも今日のデートは委員長からなんて聞いてる?」

「確か、私が役の気持ちをつかめるように、映画を観に言ってその気持ちを理解してきなさいって……」

「それで、この前の肝試しのお詫びに俺が二人を映画館に連れて行く事になっていたから、今日の休日に三人で映画館に行く事になったんだよね?」


「そうでーす! それで、二人には今日一日中だけ相手を『ロミオ』と『ジュリエット』で呼び合ってもらいまーす!」


「…………」

「…………」


「「え、えぇええええええええええええええええ!」」






【おまけss】「ツーカー」



「安藤くん、安藤くん」

「どうしたの、朝倉さん?」

「実はさっきあるラノベを読んでいたのだけど、その作品で主人公が作中のヒロインとアイコンタクトを交わすシーンがあったのよ」

「ああ、そういうシーンってマンガとかラノベだと良くあるよね」

「でも、あれって実際には結構無理があると思わないかしら?」

「まぁ、そうだね。正直、目を見ただけでその人が何を考えているか分かるとかエスパーかよとは思うね」

「そうよね。アイコンタクトなんて目線を動かす事くらいしか出来ないから思い通りの事を伝えるなんて絶対に無理よね。なのに、このラノベのアイコンタクトのシーンなんて、アイコンタクトで『下北沢の土地の値段分かる?』なんて聞いているのよ」

「ホントだ……しかも、主人公アイコンタクトで答えてるし! 無理でしょ……」

「でしょう? 流石にこのシーンは無理があるわよね」

「まーね……ん?」


(なんだろう……何処からか視線を感じる――あ)


「~♪」

「?」


(なんだ。視線を感じると思ったら桃井さんか……)


(やっほー♪ 安藤くん、元気かなー?) ←アイコンタクト


(元気も何もいつもどおりだけど……桃井さん、俺に何か用?) ←アイコンタクト


(むぅ~っ! 何ですか? 桃井さんは安藤くんに何か用事が無いと挨拶すらしたらダメなのかなー?) ←アイコンタクト


(いやいやいや、そういうわけじゃないけど……だって、桃井さんが俺に挨拶だけしてくるって珍しいじゃん?) ←アイコンタクト


(そんな事ないですーぅ。桃井さんだってたまには安藤くんに挨拶したいなーって日もありますよー? それに挨拶だっていうならサクラも安藤くんに挨拶するじゃん!) ←アイコンタクト


(あ、朝倉さんは……ほら、隣の席ですし? てか、桃井さんはわざわざ視線で挨拶してきたじゃん) ←アイコンタクト


(え、じゃあ、むしろあの状況に私も堂々と混ざってよかったの? サクラといる所に私も安藤くんと一緒に会話しだしたら、かーなーりクラスの注目集めちゃうよ?) ←アイコンタクト


(…………やっぱこのままでいいです。むしろ、アイコンタクトにしていただいてありがとうございました!) ←アイコンタクト


(うぬ! くるしゅうない) ←アイコンタクト


「安藤くん……安藤くん!」

「え、朝倉さん。何?」

「何? じゃないわよ。急にボーっとしてどうしたの?」

「ああ! いや、何でもないよ? ちょっと、考え事してただけだよ」

「そう……?」



「~~♪」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る