第59話「実力」




「山田、キングの攻撃をくらえ! アブソリュート的なパワーフォース!」

「ぐぁあああああ!」

「よし、俺の勝ちだから山田ジュースおごりね」

「うわぁあああ! また負けたあああああ! 一体なんで俺は安藤に勝てないんだぁああ!」


(山田って弱いのに、ムキになって挑んでくるから面倒だな……)


「おう……安藤、山田と何やってんの?」

「ん、なんだ吉田か。見てのとおり将棋だよ」

「今の将棋をやってるテンションじゃ無かったろ……へぇー、将棋のスマホアプリか。でも、安藤将棋できるんだな」

「まぁ、一人で遊べるボードゲームは昔からいろいろやっていたからね」

「将棋って一人で、できたっけ……?」 


(友達がいなかったんだよ! 言わせんな恥かしい……いや、マジで)


「それで、山田が負けたのか?」

「うん、なんか弱そうだったから、俺の四枚落ちでやったんだけど……」

「王に詰まされてるのか……すげぇな」

「なんだよ! 俺には飛車も角もあるのに、何で安藤が勝つんだよ! ありえないだろ!」


「「ああ、ありえないな」」


((その状況で、山田が負ける事がな……))


「よし、なら安藤、今度は俺と対局しないか? 山田そのスマホ貸して」

「え! 吉田って将棋できるの?」


(……ハゲなのに?)


「おい……安藤お前、顔に『ハゲなのに将棋できるの?』って、書いてあるぞ」

「いや、だって……吉田って確か野球部じゃなかったっけ?」

「ウェーイ! 安藤、吉田はハゲだけどこう見えても野球部のキャプテンなんだぜ! だから、ハゲだけど意外と頭はいいんだぜーい! ウェーイ」

「沢渡! お前は一言余計だ!」

「吉田!吉田!吉田! 安藤なんかよりも将棋できるなら俺とやろうぜ! 俺、吉田になら勝てる気がするわ! だってハゲだしな!」

「山田! てめえはスマホだけ渡して、引っ込んでろ!」


(そうか、吉田っていつも山田とか沢渡とつるんでる所為でハゲなイメージだったけど、意外と頭はいいのか。確かにキャプテンとかだと試合の戦術も考えたりするんだろうな……)


「よし、じゃあやろうか? 平手でいいよね」

「オッケー、そう来なくちゃ!」


(今は放課後で演劇の練習予定だけど、正直女子が朝倉さんの衣装の採寸とかを計りに行ってて男子はやること無くて暇なんだよね。長引かなければ一局くらいちょうどいい暇つぶしになるでしょ……)



 20分後



「ぐぬぬぬ…………おい、安藤。お前……振り飛車派だったのか?」

「いいや、別に振り飛車か居飛車にこだわりは無いけど、吉田は将棋やったことあるみたいだから振り飛車の方が戦いづらいかなって思っただけ」

「……お前って意外と性格悪いよな」

「俺はここで銀を持ち駒から特殊召喚! そして、王手だ」 パチ

「ちょ! おま、ここで詰めろ!? え、詰んでない……よな?」 パチ

「さらに、エクストラデッキ(持ち駒)から桂馬を特殊召喚!」 パチ

「うげぇ! 王手飛車取り!? 王を逃がしても飛車が取られて……いや、取らずにそのまま同銀で――くっ、負けました……」

「ありがとうございました」


クラス男子一同『ウォオオオオオオオオオオオオオオ!』


「安藤の勝ちだ!」

「すげぇえ! 一方的な展開だったな!」

「でも、将棋じゃなくて、一瞬別のゲームに見えたぞ!」


(うわぁ……なんか、気付いたら回りの男子が全員こっちに集中してるわ……みんな演劇の練習しろよな)


 ガラガラ~


「衣装の採寸終ったわよーって、何? この騒ぎは……」

「ふぅ、やっと終ったわ……はぁ、あんまり変わらなかったわね」

「もう、サクラは気にしすぎだよーこんなの大きくてもあまりいいことないよー?」

「フッ……モモみたいに持っている人には持たざる者の気持ちは理解できないのよ」

「朝倉さん、お帰り」

「あ、安藤くん! うん、ごめんなさいね。採寸が長引いちゃって……皆も結構待ったわよね?」

「大丈夫だよ。将棋で暇つぶししていたからね」

「え、安藤くん将棋できるの!?」


(将棋ができるなんて、安藤くんカッコいいわ!)


「ほー……安藤くん。主役なのに練習もしないで将棋とはいいご身分ね?」

「あ……い、委員長もオカエリー」 ←棒読み

「『オカエリー』じゃないわよ! ちょっと、安藤くん! 演劇の練習は大丈夫なんでしょうね? セリフは覚えたの?」

「大丈夫、大丈夫」


(だって、脚本考えたの俺だからセリフなんて楽勝で覚えてるし、演技も……そもそも、これだと俺なら演技しなくても十分ロミオの気持ちは分かるからな)


「ほーう、そんなに言うのなら見せてもらいましょうか? じゃあ、台本の十二ページ目をやってくれる?」

「え、いまここで?」

「問題ないならできるでしょ?」


(うーん、遊んでた手前拒否はできないか……仕方ない)


「あーーん、ゴホン……『あぁ、ジュリエット……何故、君はジュリエットなんだ。

 もし、君がジュリエットで無く、普通の目立たない女の子だったら僕は今すぐに君へこの胸の思いを明かしていただろう。だけど、君がジュリエットである以上それはできない。

 何故なら、僕がこの気持ちを打ち明けてしまったら君は多くのモノを失ってしまうからだ! 僕には……僕には、その失ってしまった以上のモノを君に与えられる気がしないんだ……

 だから、僕はこの思いを墓場まで持っていくだろう。

 あぁ、ジュリエット……』」


「…………」

「…………」


クラス一同『…………』


 シーン


(あ、あれ……? もしかして、スベった?)


(ぐぬぬ……もし、少しでも下手だったらボロクソに言ってやろうと思ったのに、なによ! 完璧すぎるじゃない!)


(安藤くん! カッコいいわ!)



クラス一同『(やべぇ、超演技上手いんだけど……)』



「ふ、ふん! まぁ、及第点かしらね?」


(ホッ……なんとか合格みたいだな)


「委員長のお眼鏡にかなってよかったよ」

「ついで、だから朝倉さんも一回練習してみる? 朝倉さんはセリフ覚えたでしょ?」

「もちろんよ! どのセリフだって完璧に覚えたわ!」

「じゃあ、朝倉さんは五ページのセリフをお願い」

「わかったわ! コホン…………『アア、ロミオ、ヨ、ロミオ……アナタハ、何故? ロミオ、ナノ……?』」



一同『――っ!?!?!? !!!!』



 シーン…………


(フフフ! 皆、私の演技に声も出ないようね……つまり、完璧だわ!)



クラス一同『(え……ウソでしょ? あの朝倉さんが!?)』



(あ、朝倉さん……まま、まさか――)


(おいおい……朝倉さん、完璧な大根役者じゃねーか…………)







【おまけss】「強風」



「おはよう、安藤くん」

「おはよう、朝倉さん」

「ふぅー、それにしても今日は風が強かったわね。学校に来る途中で、強風に吹き飛ばされるかと思ったわ」

「はは、流石にそれはないでしょう」

「いやいや、安藤くんが来た時はそこまで風が強くなかったかもしれないけど、さっきまでは本当に凄かったのよ」

「まぁ、確かに昨日台風が過ぎ去った後でナントカ前線がワチャワチャしてるみたいだから風が強くても仕方ないね」

「ナントカ前線……ワチャワチャって」

「ゴメン、俺あんまり天気詳しくないんだ。さっきのも朝の気象予報士が言ってた言葉そのままだったりして……」

「いや、むしろテレビに出てる気象予報士がそんなワチャワチャとか言っている方が問題でしょ……一体何処の気象予報士よ?」

「ん、よしず――」

「いいわ! もう、分かったから……だからそれ以上はダメよ?」

「う、うん、分かったよ。じゃあ、話は変わるけどさ」

「ええ、何かしら?」


「強風の時って……思わず笑顔にならない?」


「…………」 シーン

「…………」 シーン


(あ、あれ? スベった……?)


「…………分かるわ!」

「だよね! 良かったぁ~朝倉さんが分かってくれて……」

「本当なんでなかしらね? 凄い強風で正直寒いし進みづらいしで凄い迷惑なんだけど、強風を浴びている時って無駄に心がワクワクしちゃうわね」

「そうそう! なんか人がいなければ両手を広げて全身で風を受けたい……的な?」

「それよ! こう……片手を突き出しながら、なろうの世界であるような風の魔法攻撃を余裕で受け流すチート主人公を演じたくなるわよね!」


「え、それは……無いかな?」


「…………」 シーン

「…………」 シーン


(あ、あれ? もしかして、私スベった……?)


 スカ~ン…… ← 風の音です


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