第58話「ハットトリック」
「もう、信じられないわ! 二人して私を騙していたのね!」 プンスカ! プンスカ!
(うぅ……あんなに怖かったのにまさか、全部モモと安藤くんのお芝居だったなんて!)
「朝倉さん、まずは落ち着いて話し合いをしよう……それに、俺はウソはついたけど、この件の主犯は俺じゃなくて桃井さんと委員長だからね?」
「まぁ、確かに騙したのは悪かったけどー、サクラもいい加減機嫌を直してよー」
「ふーんだ! もう、モモと安藤くんなんかと口なんか聞いてあげないんだから! なんか二人は私よりも仲がいいみたいだし、私なんかお邪魔ですよーだ!」 プンプン!
(何よ! どうせ、安藤くんもモモみたいなおっぱいの大きい女の子が好みなんだわ! 安藤くんのスケベ! エッチ! このおっぱい星人!)
「ちょっと……安藤くん、肝試しの帰りが遅いと思ったら何やってるのよ……せっかく、私と桃井さんがお膳立てしてあげたのに、これじゃあロミオがジュリエットに愛想をつかされちゃうじゃない」
「いやいや、委員長? なんかこの肝試しを親切で用意したみたいに言うけど、朝倉さんがこうなったのはほぼ委員長達の変な策略の所為だからね?」
(まったく……そもそも、委員長も桃井さんもおふざけが過ぎるだろ。確かに、朝倉さんには不思議な事に男の影もないから、男子の俺が朝倉さんの『友達』なのが珍しくて『ぼっち』の俺なら朝倉さんに手を出さないと思ってこんな『イタズラ』をしているようだけど、俺だって一応は健全な『男子高校生』なんだ。実際に今日なんかもつい感情に押し流されて朝倉さんを――)
『優しく……してね?』
(命、燃やすぜ!)
(――っ!? あの時、俺は一体何をしそうになった! ヤバイ、ヤバイ……落ち着け俺、朝倉さんは確かに美人だし、油断していると意外と抜けててでもそんなところも可愛くて、どこか放っておけない危うさもあるけど、それはまるで自然の大海原の中で出来上がった真珠のような眩しさの心をもつ天使のような存在……だけど! 実態はただのラノベオタクでヘッポコ残念ひんぬーペッタンコのグレムリンだ!
それに、朝倉さんは普通にさえしていれば学校一の美少女で本来はこんな『ぼっち』の俺なんかが話していいような相手ではない。今は朝倉さんが『友達』と断言してくれた事と委員長と桃井さんのおかげでこうして自然と話せてはいるけど……こんな幸せな時間はいづれ終る。
そう、だから落ち着け、落ち着け……今は平静を保――)
「プンプン、プーン! 私は怒ってるんだからね!」 プンプン!
「もーう、ホントにゴメン! お詫びに今度の日曜日、一緒にサクラが見たいって言ってた映画を観に行こう?」
「そ、そんなのでこの私が釣られ――」
「もちろん、安藤くんのおごりで♪」
「本当! 行くわ!」
「ちょぉおおおおおおおおおおお! 桃井さん何、勝手に約束を取りつけてるの!?」
「アハハー♪ 安藤くん、大丈夫だよー。今の期間なら映画館は高校生三人以上なら、一人千円で観れるから~」
「って、金額のことじゃなくて――いや、それはありがたいけど……いやいや! なんか、自然と俺がおごる事になってるし、なんか桃井さんの肝試しのお詫びで俺が巻き込まれるのおかしいよね!」
「えー、でもそういう安藤くんもサクラを騙すのに協力したじゃーん。ねー、サクラ?」
「へ、うんそうね。わ、私……安藤くんが一緒に来てくれないから今日のこと許さないんだから!」 プンプン!
「ぐぬぬ……わ、分かったよ」
「だって、よかったねーサクラ?」
「わーい! って――はっ! べ、別に、これは安藤くんと一緒に映画を観に行けるのが嬉しいんじゃなくて、ただ見たかった映画を皆で観にいけるのが嬉しいだけなんから勘違いしないでよね!」
「はいはーい」
「…………」
(安藤くんと映画館デートだわ! やった! うふふ、今度はどんな服を着て行こうかしら? そうだわ! だったら、明日の学校終わりに新しい服を買ってもいいわね!)
(サクラは分かりやすいなー♪)
(映画館か、ナチュラルに俺が奢ることは確定なのね……まぁ、朝倉さんと桃井さんには今日いろいろと堪能させていただいた恩もあるし仕方ないか。とりあえず、映画に行くまでにラノベ売って資金を作るか……)
「あら、もう夜の十時を過ぎているじゃない。皆、そろそろ帰るわよ」
「「はーい、委員長!」」
「…………」
(なんか、委員長学校の先生みたいだな……)
「じゃあ、帰るなら順番を確認したいから皆の家の場所教えてくれる?」
「……は? 安藤くん、どうして安藤くんが皆の家の場所を確認するのよ?」
「そうよね。この場で解散してもいいんじゃないかしら?」
「そうだよー。てか、私と委員長は別々で帰るから安藤くんはサクラを送ってあげてよー♪」
(委員長も、朝倉さんも、桃井さんまで一体何を言っているんだ?)
「は? 何言ってんの……三人とも女の子なんだからこんな夜遅くに一人で帰すわけに行かないでしょ……皆、自分が普通よりも可愛いって自覚した方がいいと思うよ?」
「はうっ!」 バッキューン!
「ぐうっ!」 バッキューン!
「うっきゅ~!」 バッキューン!
(ったく……朝倉さんや桃井さんは学校で一、二をあらそう美少女だし、委員長だっておさげにメガネだけど顔のパーツは十分に整っているんだ。委員長がクラスで人気なのも、おせっかいな性格だけじゃなくて男子からは見た目の要因もあるって自覚が足りなさ過ぎだろ……てか、よくよく考えたら、俺はなんでそんな美少女達をはべらしてこんな場所にいるんだ?)
(う、うわー……安藤くん、それはダメだよー、不意打ちはアカンよー。不覚にもこの桃井ちゃん胸が『キュン!』ってしちゃったじゃないのー。もう、本当に油断も隙もないんだからー……うふふ♪)
(2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37、41、43、47、51、53、59、61……あ! 間違えたわ……ままま、全く! ああああ、安藤くんったらいきなり何を言っているのかしら? ここ、この委員長の私が、かかか、可愛いですって!? ふざけんじゃないわよ! おかげでせっかく数えていた素数を間違えちゃったじゃない!)
(あああ、安藤くんに可愛いって言われた……可愛いって、私が世界で一番、いや宇宙で一番『可愛いよ……ハニー♪』ですって! キャーッ! うふふ~ど、どうしようかしら!)
「とりあえず、俺が全員を家まで送るから、悪いけど皆の家を聞いて近い人の家まで全員で移動するけどいいよね?」
「ふ、ふん……安藤くん! どうやら肝試しのおかげでロミオの役作りは完璧のようね!」
「え、ここで何でロミオ?」
「そうだねー♪ だってー、安藤くんロミオになりきってサクラを抱きしめたりしてたもんねー?」
「はう! も、モモそれは……」
「いや! あ、あれは……」
「え! 安藤くん、そんな大胆なことしたの!?」
「ヤダなー、委員長だって見てたでしょー? ほら、公園の遊具エリア付近で委員長が二体目のオバケに化けて出てきた時だよー」
「え、何言ってるの? 私は最初っからスタート地点にずっといたわよ?」
「「「え”」」」
(オバケって何のこと? むしろ、最初っからスタート地点で皆の帰りを待っていた私の方が怖かったんだけど?)
「あ、あはは……い、委員長たらまたそんな冗談をー……ね? ホントはオバケに化けた後に急いでスタート地点に戻って私達を出迎えただけでしょ?」
「何言ってるのよ……そもそもオバケの衣装は一着しか用意してないでしょ?」
「いやいや、だからー委員長が隠し持っててー……」
「桃井さん? だったらその隠し持っていた衣装はどこにあるの? 私手荷物ないんだけど?」
「あ、あははー……え、マジ?」
「おいおい、って……ことはあのオバケは誰だったんだよ……」
(そう言われれば……よく思い返せばあのメガネの幽霊は委員長よりも少しだけ胸が大きかったような。あの時は、距離があったからその所為かと思ったけど、まさか――……っ!?)
「え、ウソ……あれは本物の…………幽霊ぇ――?」 フラッ
「朝倉さん!? ヤバい! 朝倉さんが恐怖でぶっ倒れた!」
「サクラ!? しっかりして!」
「え、ちょっと! 皆!? 幽霊ってなんの話をしているのよ!」
(そして、最後まであの幽霊の正体は……謎のままだった)
「 」 ジーー……
【おまけss】「何故かの(大学生編)」
「安藤くん、安藤くん。そろそろ起きないと遅刻するわよ?」
「んぁ……あ、朝倉しゃん? あれ? 何で俺の家に朝倉しゃんが――って、そうや。俺、朝倉さんと同棲してるんだった……」
「もう、安藤くんまだ寝ぼけているの? 顔洗ってきたら?」
「うん、そうしゅる……なんかさっき、高校時代の夢を見ててさ……少し混乱した」
「高校時代の夢? ウフフ、だから寝ぼけてたのね♪」
「うん……夢で同棲するとかしないとか言ってた気がするなぁ……」
「何言ってるのよ。同棲なら、もうしてるじゃない。朝ごはんはそこのテーブルに出来てるわ」
「そうだよね。うん、ありがとう」
(そうだよなー。俺って朝倉さんと同棲してるんだよな……まさか、こんな事になるとは高校の時は思いもしなかったな……)
「ほら! 早く食べないと一限目の講義に間に合わないわよ!」
「しゃぁい……いただきます」
(もう、安藤くんったら本当に朝が弱いんだら。ウフフ~♪)
(うめぇー、うん……正直、最初の頃は料理がポンコツだった駄目倉さんも、同棲してからは随分と料理の腕が上がったよな。もう、俺より料理得意なんじゃない?)
「うん、目が覚めてきたよ。やっぱり、朝倉さんのご飯は美味しいね!」
「ふ、ふん! そんな調子の良いこと言っても、朝の寝坊は忘れないんだからね!
お、おかわりいる?」
「うん!」
(因みに、大学生になっても相変わらず朝倉さんはチョロイ)
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