第55話「格差社会」




「いやー、もう直ぐ夏だねー。委員長?」

「そうねー、演劇も近いから練習もしなくちゃいけなくて大変だわー。ねえ? 桃井さん」


(……なんだ、この下手な芝居は?)


「桃井さん、委員長、そんな言い訳みたいな芝居はいらないから、そろそろ俺と朝倉さんを駅前の公園に呼び出した理由を教えてもらってもいいかな?」


(委員長からは演劇の練習だって聞いたけど……集合したのは俺と朝倉さんと委員長と桃井さんの四人だけ? しかも、場所は駅前の西口公園で時間は夜の九時ときた。一体何を企んでいるんだ?)


「そうよ! もう、いきなりモモから『今日、学校が終ったら夜の9時に駅前の西口公園に集合ね! そこで演劇に向けた練習をするからー』としか言われてないのよ!」

「まぁまぁ、サクラに詳しい説明をしてなかったのは謝るから落ち着いて、落ち着いて、詳しくは委員長から何をするのか発表してもらうから」


(準備は完了、二人も無事に釣れたし……委員長、後は任せたよー)


(任せて、桃井さん。クラスの皆には練習は明日からって事にしてあるから、今日はこの作戦を演劇の練習として誤魔化すわ)


「今日は演劇にむけて最初の練習になるわ! だから、二人にはこれから『肝試し』をしてもらいます!」


「「はぁあ?『肝試し』!?」」


「そうよ! だから、二人には日が沈んだこの時間に集合してもらったのよ」

「いやいや、委員長……なんで演劇の練習に肝試しが必要なのさ?」

「そうよ! そうよ!『肝試し』なんか私達のやる演劇になんの関係もないじゃない!」

「朝倉さん、それは……どうかしら?」

「なん……ですって?」

「私達がやる演劇は『ロミオとジュリエット』を原作としたオリジナル脚本よ。そして、この物語に出てくるロミオとジュリエットはどういう関係かしら?」


「「友達?」」


「違うわ! はい、桃井さん!」

「うーん、両思いの男女かなー?」

「はい、正解! つまり、その『両思い』であるロミオとジュリエットを演じる二人にはたとえ役を演じている間だけだとしても『両思い』になってもらわないといけないのよ!」


 その時、二人に電流が走る!


「「っ!?」」 ピシャーン!


「そこで聞くけど、朝倉さん、安藤くん! 二人の関係は……何かしら?」


「え……」

「う……」


「「と、友達……」」


「…………」

「…………」


((なんでこの二人付き合わないんだろう……))


「つーまーり、委員長は『友達』でしかない二人にこの『肝試し』を通じて擬似的にでも『両思い』になって欲しいんだよねー演劇の役を演じるた・め・に♪」

「そう言う事よ! 流石は桃井さんだわ。この練習の必要性が分かっているわね!」


「…………」


(ほ、本当に桃井さんの言うとおりなのか……? つまり、肝試しの『釣り橋効果』で一時的にでも『両思い』になれば演じる役の気持ちを理解できるって言いたいんだろうけど……なんか、すげえこじつけ理論を聞かされた気もするぞ?

 朝倉さんは――)


「なるほど、確かに委員長とモモの言うとおりだわ!」

「…………」


(ダメだ。いつもの朝倉さんだ……)


「で、でも……わざわざ『肝試し』をする必要は無いんじゃないかしら?」


(ん、朝倉さんの……この反応は?)


「あ、そうかー、確かサクラって怖いの苦手だもんねー」

「え、そうなの? 朝倉さん」

「なっ! ちょ、モモ何言ってるのよ! 勘違いしないでよね! 別に、私は怖いのが苦手とかじゃなくて……純粋に、私達みたいな可愛い女の子がこんな夜遅くに『肝試し』なんて危ないって言ってるのよ!」

「あははー。それなら大丈夫だよ! だって、そのために安藤くんと一緒に肝試ししてもらうんだからねー」

「そうよ。朝倉さん、安心していいわ。何があっても安藤くんが守ってくれるわよ。だって男の子なんだからね?」

「いや……まぁ、何かあれば確かに守るけどさ……」

「はう!」 ズッキューン!


(安藤くんが! 安藤くんが『守る』って言ってくれたわ!)


「うう……でも、流石に肝試しは――……」

「うーん、そうだね。委員長、せっかくだけど、サクラが乗り気じゃないからこの企画――じゃなくて、練習は止めにしない?」

「企画?」


(桃井さん、いま『企画』って言わなかった?)


「ちょっと、桃井さん何言てるのよ! せっかく今日の演劇の練習の為に準備もしたのに!」

「そうよ、そう! 委員長、モモの言うとおり今日の練習は中止に――」

「だから、肝試しは私が安藤くんと行くねー」

「うぇ!?」


(桃井さん!? なんで急に抱きついてくるの!? てか、胸が! 朝倉さんではありえない大きさの感触が!)


「はぁああ!」


(ちょ、モモ! 安藤くんから離れなさいよ! はっ……も、もしかしてモモも安藤くんの事が? そんな! ダメなんだからね!)


「桃井さん、ジュリエット役じゃない貴方が安藤くんと肝試ししても意味がないでしょう?」

「えー、でもサクラが行かないんなら安藤くんだけでもロミオの気持ちを知るべきじゃない?」

「はっ!」


(それはつまり……安藤くんがモモと両想いになるってこと!)


「そ、それはダメー!」

「えーでも、サクラは肝試し嫌なんでしょう?」


(うーん、いい感じにサクラが嫉妬してくれてるねー♪ 安藤くんはどうかなー?) ムギュー


「…………」


(なんでこの世から争いは絶えないのだろう……人の命は皆平等で神から与えられた――――もう、そんなのこの感触さえ味わえればどうでもいいや!)


「うん、俺ぇ~桃井さんと肝試しするよ~」


(あ、安藤くん……もうちょっとしっかりしてよね。そんなんじゃ、サクラを任せられないよ? で、でも……私に抱きつかれても、ここまで喜んでくれるんだ。へ、へ~~……)


「あ、安藤くん!? んもう! モモ! さっさと安藤くんから離れて!」

「えー、だってサクラは『怖がり』だからー、今も『怯えちゃって』いるしー、これで肝試しなんかしたらサクラ……『泣いちゃう』でしょー? だから、私が代わりに行ってあげるんだよー?」


(今……何て言った?)


「はぁ……そうね。桃井さんの言うとおりだわ。仕方ないけど、肝試しの相手は安藤くんと――」

「やるわ」

「え、朝倉さん!?」

「サクラ……いいの?」

「朝倉さん、本当に……肝試しやるの?」

「ええ……一体誰が『怖がり』ですって? 誰が『怯えてる』ですって?

 誰が『泣いちゃう』のよ! いいわよ! そこまで言うのなら、肝試しやってやろうじゃないの! モモ、委員長、安藤くん、見てなさい!

 この私が肝試しなんかにビビってない事を証明してやるんだからね!」


「「はーい!」」


(委員長、上手く言ったね!)


(ええ!『サクラは、ああ見えて意外と単細胞だから、軽く挑発して乗せれば直ぐに舞台に上がってきてくれる』って、桃井さんの言ったとおりだったわ!)


「……………」


(横から並んで『朝倉さん』『委員長』『桃井さん』……うん、見た感じ『小』『中』『大』って、感じだな……)


「安藤くん! やると決めたら早速出発よ!」

「え……う、うん、小倉しょうくらさ――じゃなくて、朝倉さん!」







【おまけss】「アンジャッシュ」



(最近、私はどうも安藤くんへのアピールが足りない気がする……

 だから、今日は積極的にアピールする為にいつもよりスカートの丈を2センチも短くしてみたわ! これで、安藤くんも普段と違う私の色気に惑わされてメロメロよ!) スッカーーン!


「安藤くん、おはよう♪」

「あ、おはよう。朝倉さん」


(さぁ、安藤くん! 今日の私はどうかしら? いつもよりセクシーに見えないかしら!)


(朝倉さん、挨拶したきり動かないけどどうしたんだろう? 席に座らないのかな?)


「…………」 フリフリ

「…………?」


(――くぅっ! まったく手ごたえがないわ! な、何てことなの……思い切ってスカートの丈を二センチも上げたというのにこの反応の無さは! まさか、安藤くん……私のスカートが短くなったのに気付いてないなんて事は無いわよね?)


(お、やっと座った。一体さっきの間は何だったんだろう……便秘かな?)


(落ち着け……落ち着くのよ。私! 取りえず、一度席に着いて今読んでるお気に入りのラノベを開いて――)


(お、朝倉さんのあのラノベは――)


「朝倉さん」

「な、何!? 安藤くん?」

「いや、その~大した事じゃないんだけど……」

「うんうん!」


(もしかして、安藤くん。私のスカートが今日だけ少し短い事に気付いてくれたの!?)


「今日は――いつもと、それ少し違うよね?」 ← ラノベのブックカバーを指差しながら

「っ!?」


(安藤くんが私のスカートを指差して、さりげなく指摘してきたわ! やっぱり、安藤くん私のスカートが短い事に気付いていたのね!)


「そ、そうなの! その……ど、どうかしら?」 ←スカートの事を言ってます

「うん、とっても似合っているよ」 ←ラノベのブックカバーの事を言ってます


(うん、本当に良いブックカバーだな。俺はいつもは透明なビニールカバー派だけど、朝倉さんのラノベみたいに可愛い猫の柄のブックカバーとかも癒されていいよね)


「ほ、本当!?」 

「うん! とっても可愛いと思うよ」 

「か、可愛い!? そそそ、そんな……安藤くんったら、大げさよ」

「え、そうかなぁ? あ! でも、それ少し透けて中が透けてないかな? 大丈夫?」

「ふぇえ! す、すす、透けてる!? 嘘でしょ!?」 


(っすすっす、透けてるなんて……な、無いわよね? だって、スカートが透けたらパンツ見えちゃうじゃない!)


「嘘じゃないよ。だってほら、実際に俺からもこの距離でうっすらと中が見えるし……」 


(うん、やっぱり、少しタイトルと表紙が透けてるな)


「えぇえええ! そんな嘘よ! だだ、だって私には全然そんなようには見えないし……」

「いやいや、でも実際に俺からは中がバッチリ見え――」

「ウキャァアアアアアア! あああ、安藤くんは見ちゃダメーッ!」 

「えぇえええー!? 確かに他の人に見られたら恥ずかしいかもしれないけど……俺が見る分には恥ずかしくないでしょ?」 

「ははは、恥ずかしいに決まってるでしょ! むしろ、安藤くんはそんなに中が見たいの!?」 ←スカートの事だと思ってます

「そんなの当たり前じゃん!」 ←ラノベのことです

「当たり前なの!?」 


(スカートの中を見たいと思うのが!?)


「当然だよ!」

「でぇええええええええええええ!?」

「むしろ、何で朝倉さんはそんなに驚いてるの!?」

「安藤くんこそ、どうしてそんなに冷静なのよ!?」



「…………」


(あの二人……何やってるのかしら?)



 この後、誤解を解くのに十分近くかかった。



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